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日本オムニチャネル協会の活動をサポートする役割を担う「フェロー」。各方面の専門家が集まり様々な活動に取り組みます。今回はそんなフェローの1人で、Webサイトの顧客接点創出や仕組みを手掛ける有限会社スタイルビズ代表取締役青山直美氏に話を聞きました。売り手と買い手双方の視点を汲んだEコマースの在り方、さらに青山氏が仕事とプライベートを両立してきたからこそ見えるこれからの働き方とは。経験談とともに青山氏の思いに迫ります。
鈴木:青山さんのこれまでの経歴を教えてください。
青山:大学卒業後、1989年に東芝に就職しました。結婚・出産後に育休を取得したのですが、1999年の復帰時に自分の席がないという経験をしました。今思えばきちんと事前に挨拶に行っていなかった私も悪いのですし、「自分の居場所は簡単になくなる」ということを教えてくれたとてもありがたい強烈な原体験になりました。2000年にネットベンチャーのイーライフへ転職しました。ベンチャー企業でしたし、入社とほぼ同時にネットバブルが崩壊したので、当時はお金を稼げる仕事は何でもやるという気持ちで業務に取り組んでいました。
鈴木:私も同時期にネットに関わっていたので分かりますが、ネットのマニュアルもなかったため、みんな手探りで必死でしたよね。非常に忙しい日々だったと思います。
青山:そうですね。寝る間も惜しんで仕事をする怒涛の日々でした。しかし例えば、多少時期はずれますがSEO対策に取り組むと検索上位に表示されるなど、行動すれば結果が確実に表れるという点で楽しい日々でもありました。
当時は、企業SNSのような顧客接点でロイヤリティを高めることに取り組んでいました。その一方、「らむね的通販生活」という個人HPも運用し、副業でネットショップのアドバイザーもしていました。Eコマースを利用する買い手側の視点でサイトの見せ方や導線などに関するコンサルティングを手掛けていました。
その結果、売り手と買い手の視点、さらにはEコマースと顧客コミュニケーションを含む4象限に詳しくなる機会を得られました。本業では売り手の立場でSNSを使って顧客とコミュニケーションを取る方策を考え、副業では買い手の立場でEコマースの改善に関わっていました。浅い知識だったかもしれませんが、売り手と買い手の両方の視点からEコマースとオンラインでの顧客コミュニケーションの分野を学べたのは大きかったと思います。特定の分野だけではなく客観的な広い視点を養えたのは、今の私を支える貴重な経験となっています。
鈴木:実際に広く浅くの視点が時代を先取りしましたよね。当時は1社にずっといてスペシャリストになることが良いとされていましたが、最近はいくつかの柱を持つ人が重宝されるようになったと感じます。そんな一人が青山さんではないでしょうか。
青山:たしかに浅く広い視点で物事を見ることができたので、その経験が今の財産になっていると思います。今の若い人は特定分野を極めようとする人が少なくないと感じます。しかし、若いからこそいろいろな経験を積むべきだと思います。例えば営業担当者が開発を経験するなど、専門外の知識や知見が後々になって必ず役立つはずです。40代や50代の人も同様です。近年はリスキリングの重要性が叫ばれているように、時代に追随する新たなスキル習得が求められています。これまで培った経験を活かしつつ、新たな柱を作って視野を広めるべきだと考えます。
一方、女性の場合、出産や育児で会社を一時的に離れることがあるかもしれません。著しく環境が変わる中で、復帰したときには会社や部署、自身を取り巻く環境が大きく変わっていることは十分考えられます。そんなときに備え、広い知識や知見、いろいろなスキルを身に付けておくべきだと思います。
鈴木:現在は有限会社スタイルビズとして独立されていますが、実際にどのようなことに取り組んでいますか。
青山:コーポレートサイトやECサイト上の顧客とのコミュニケーション提案などを提供しています。これまでの経験を活かして、「売り手視点」と「買い手視点」、「Eコマース」と「オンラインでの顧客コミュニケーション」の4象限に関する仕事は何から何までやっていますね。
鈴木:コーポレートサイトやECサイトなどを提案する中で大切にしていることはありますか。
青山:「お客様の心が動く」ことを大切にしています。Eコマースはお金が動き、コミュニケーションは心が動きます。人は何事も心が動かないと購買しません。言い換えると心が動くから、お金が動くのです。たとえ企業側がどんなに良い仕組みをつくっても心が動かなければ購買には至らないと感じます。そのためすべてのスタートラインが「どう心を動かすのか」だと思い、大切にしています。
鈴木:なるほど。売り手だけでなく、買い手視点に立つ青山さんだからこその意見だと思います。独立するきっかけは何でしたか。
青山:独立するきっかけは育児における「小1の壁」が立ちはだかったからです。保育園は20時まで見てもらえていたのが小学生だと学童保育では18時までになってしまいました。そのため「これは自分でやっていける」と思って独立したわけではなく、このままネットベンチャーで働き続けると周りに迷惑をかけると思い、独立に至りました。私の経歴において転職や独立は育児によって選んだ選択でした。振り返ると育児が足を引っ張り側道と本道を行ったり来たりしていたと感じます。しかし引っ張られたおかげで今は王道に戻っていると感じます。
鈴木:青山さんの経歴を聞いていてすごくポジティブで素晴らしいと感じました。人は逆境の中で成長すると思いますが、その逆境をポジティブに解決していっていると思います。
鈴木:フェローとしてご活躍されていますが、今後、日本オムニチャネル協会に期待することはありますか。
青山:役員・推進メンバーに女性を増やすべきだと思います。企業の取締役会も必ず女性が入ってきて社会が変化する中、現在フェローとして在籍している女性は数名いるものの、役員やアドバイザーには女性が一人もいません。日本オムニチャネル協会はいわば「勉強集団」。熱心に取り組み非常に素晴らしい活動をしていると感じます。そうした状況で、より多くの人に参画していただきたいと考えたときに、推進メンバーが男性ばかりだとなかなか誘いづらくなってしまうのではないかと危惧しています。
鈴木:なるほど。青山さんが意見を言っていただかなければ気づかない点でした。
青山:勘違いしてほしくないのがただ単に「女性が働きやすい環境をつくりたい」訳ではありません。私は誰しも「4つのリュック」を背負いながら仕事をしなければならない可能性があると思っています。「4つのリュック」とは、育児、介護、自分の闘病、家族の闘病です。今後、少子高齢化が加速する中、女性のみならず男性も何かしらのリュックをひとつ、もしくは複数背負いながら仕事をしなければならない人が増えると感じます。
だからこそリュックを背負っていても働き続けることができる、学び高められる環境を整えるべきだと思います。「女性が働きやすい環境をつくりたい」のではなく、「女性が働きやすい環境は色々な立場に置かれる男性にも働きやすい環境」であると考えています。役員などは男性が多くなりやすいですが、当たり前のように女性も同じようにいて、様々な意見から話し合いができている状況が望ましいですね。女性のためだけではなく、全ての人のための変革が求められています。
鈴木:性別問わずどんな人も働きやすい環境を実現するために、最初は意識的に女性を増やさないといけないということですね。こうして意見を聞かないと気づけない部分であったので大変ありがたいです。
青山:そうした環境の変革を日本オムニチャネル協会が率先して実現していってほしいですね。企業活動の戦略などについて学ぶことも重要ですが、社会の変化などを考えると働く環境なども考えていかないといけないと思います。これは私自身の実体験からも強く感じています。
鈴木:では、日本オムニチャネル協会も今後、女性を積極的に取り入れる方向で動きたいと思います。これからも色々教えてください。
一般社団法人日本オムニチャネル協会
https://omniassociation.com/