日本オムニチャネル協会の活動をサポートする役割を担う「フェロー」。各方面の専門家が集まり、会員に向けてさまざまな知見やアドバイスを提供します。今回は、そんなフェローの一人であるブレインパッド 執行役員 CMOの近藤嘉恒氏に話を聞きました。ブレインパッドの業務やデータサイエンティストが求められる背景、さらに日本オムニチャネル協会のフェローとして会員にどんな価値を提供するのか。近藤氏の思いを掘り下げます。

データ活用による意思決定の変革へ

鈴木:近藤さんのこれまでの経歴を教えてください。

近藤:現在のブレインパッドは 3 社目となります。1社目は新卒でオービックに入社し、ERPパッケージの営業を担当しました。業種に特化したERPパッケージを積極的に営業するなどしたことで、2年目には営業のトップに立つことができました。その後はBtoBマーケティング部門を新設し、見込み顧客の獲得やマーケティングの仕組みづくりなどに携わりました。同時に、若手の営業担当者にマーケティングを指導し、リードの獲得や商談をクロージングさせるための考え方などを教え続けました。5年間で約120人にマーケティングのノウハウを教えましたね。

2社目はエイケアシステムズという会社で、メール配信機能を備えたCRM「MailPublisher」の営業責任者を務めました。もっともCRMを販売するだけではなく、デジタルマーケティングの必要性を常々感じていたことから、専門チームを立ち上げて支援会社とデジタルマーケティング体制の導入などにも携わりました。

現在のブレインパッドには、デジタルマーケティングツール「Rtoaster」の事業責任者として入社し、営業やカスタマーサポート、プロダクトマネジメントの業務に携わりました。当社はデータサイエンティスト、データエンジニアリング、Rtoasterといった3つの事業部のデジタルマーケティングを統合し、大規模イベントの開催やオウンドメディアの立ち上げにも関わりました。現在は執行役員 CMO として、外交活動やデータ活用の啓蒙を進めています。

鈴木:ERP、デジタルマーケティング、データ活用と、デジタルの流れに沿った経歴をお持ちですね。ブレインパッドでの現在の取り組みを詳しく教えていただけますか。

近藤:ブレインパッドはデータサイエンティストを中心としたデータ分析の受託サービスを提供する会社という印象が強いと思いますが、データを駆使した多彩な事業を展開しています。データ活用の受託事業、GoogleやMicrosoft、AWSといったクラウドプラットフォームを活用したデータ活用環境の構築、Rtoasterなどのマーケティング向けSaaSの提供、内製化を目指したデータ活用人材の育成などに携わっています。

当社では、DXの本質は「デジタル化」ではなく「データ活用による意思決定の変革」と考えています。業務をデジタル化したりシステム導入したりするだけではなく、データに基づき意思決定できる環境を整備することを重視しています。「何のためにデータを活用するのか」「なぜデータが必要なのか」という考え方を大切にし、経営者の意思決定を支援できればと思います。

ブレインパッド 執行役員 CMO近藤嘉恒氏

「データアナリスト」と「データサイエンティスト」の大きな違い

鈴木:昨今は「データサイエンティストは重要」と言われる一方、「本当にデータサイエンティストは必要なのか」という議論も出てきています。近藤さんはどのようにお考えでしょうか。

近藤:「データサイエンティスト」という言葉が良くも悪くも誤解されることが多くなったと感じます。データを分析する人を「データアナリスト」と呼び、問いを見つけたり仮説を立てたりする人を「データサイエンティスト」と呼ぶことがあります。しかし両者の区分が曖昧になっているように思います。

鈴木:データサイエンスには「データアナリスト」と「データサイエンティスト」がいますが、大学などの講義で用いられるデータサイエンスは、データアナリストの役割に近い領域を教えているように感じます。過去のデータを分析するだけでは未来は見えません。大切なのは問いや仮説を立てることです。しかし仮説を立てられない人が多く、データサイエンティストの育成こそが本来は求められるべきだと考えます。ブレインパッドでは、どのようにデータサイエンティストを育成しているのでしょうか。

近藤:ブレインパッドでは、毎年40~50名の新卒をデータサイエンティスト職として採用し、キャリアの途中でビジネスコンサルティング職を選べるようにしています。データはビジネスと密接に関係していると考え、データとビジネスの領域を行き来できる機会を社員に提供しているのです。これにより、単なるデータ分析だけでなく、ビジネスを構築するための問いや仮説を見つけ、立証するデータサイエンスを実践できるようにしています。

鈴木:データとビジネスの職種は異なるものの、双方を踏まえて経験を積めるのは良い環境ですね。

DXマガジン総編集長 兼 日本オムニチャネル協会会長 鈴木康弘氏

日本オムニチャネル協会「AI 分科会」リーダーへの挑戦

鈴木:日本オムニチャネル協会に参画したきっかけを教えてください。

近藤:実は2023年に開催された第一回「オムニチャネル Day」で登壇させていただいたのがきっかけです。その際、「SaaSベンダーに語らせたくない」と言われたことが非常に衝撃的で、売り込みの場ではなく、データやDXの重要性を伝える場を持ちたいというお話から参画するようになりました。

また、日本オムニチャネル協会で DX の重要性を発信している中、ブレインパッドでは DXがデータ活用を核にしていると考えており、協会のビジョンに共感しました。DX がマーケティングのみに限定されず、サプライチェーンや CIO・CMO がどのように考えるかが重要だと思っていた矢先に、分科会のテーマが非常に的を射たものでした。当時、ブレインパッドが掲げていたビジネスアジェンダを分科会のテーマが網羅していたのです。そこで、私は自社のマーケティングを進める立場として、お客様や支援会社のリアルを学べる場として日本オムニチャネル協会は理想的だと感じました。また、分科会でのディスカッションのみならず、その後の懇親会で本音で話せる機会に恵まれることも魅力に感じ、思わず全ての分科会に参加しました(笑)。

鈴木:日本オムニチャネル協会も 6 年目を迎え、やっと体制が整ったと感じています。今年度から共創システム部会を新設し、現場と情報システム部の壁を打破したいと考えていますが、その中で「AI 分科会」のリーダーを担っていただくことになりました。いかがでしょうか。

近藤:新設される「AI 分科会」のリーダーにお誘いいただき、正直迷いました。支援会社として自分が何を提供できるのか悩みましたが、日本オムニチャネル協会を通じて支援会社のリテラシーとモラル向上を目指すことで協会全体を盛り上げていけるのではないかと考えました。また「AI 分科会」というテーマは他の分科会とも多くの関連性があると思います。「データ活用分科会」や「Next リテール分科会」とのシンクロが難題である一方、むしろ楽しみでもあります。

鈴木:AI活用 は「データの著作権」が重要だと思うので、AI 分科会のリーダーは近藤さんに担ってもらいたいと思っています。どのような分科会にしていきたいですか。

近藤:年齢・立場・業種を超えた「対話の場」としての価値をもっと伝えていきたいです。自分もまだ若手だと思っていたのですが、今や自分より下の世代と多く接するようになりましたし、同時に上の世代の方々の元気さに驚きます。この年齢差を楽しむと共に、年齢や立場、業種を超えた「対話の場」としての価値を生み出せると思っています。それを「AI 分科会」を起点に広めたいですね。また、「AI 分科会」を通じて新たなビジネスを生む環境を整えていきたいと考えています。

鈴木:私は日本オムニチャネル協会の会長として、様々な壁を壊し、次世代人材を育てたいと活動しています。当協会の特徴は、リーダーが特定の会社に縛られないことです。「会社に何かを持ち帰らないといけない」ではなく、「これからの日本をどうするか」といった壁を感じずに行動できる人が次世代人材だと思っています。ぜひ近藤さんにもそのような存在になってほしいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。

近藤:よろしくお願いいたします!

情報提供元: DXマガジン_テクノロジー
記事名:「 AI・DX時代をリードする!社会を変える“本物のデータサイエンティスト”を育てる方法とは?