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日本オムニチャネル協会の活動をサポートする役割を担う「フェロー」。各方面の専門家が集まり、様々な活動に取り組んでいます。今回はそのフェローの一人で、ピアリビングの代表取締役を務める室水房子氏に話を聞きました。音を遮断するカーテンや壁材を扱う防音専門店の経営に携わる室水氏。現在は海外展開を果たすほどの経営手腕を発揮していますが、経営に参画した当初は必ずしも順調とは言えない状況でした。「防音」という市場で事業をどう軌道に乗せたのか、日本オムニチャネル協会のフェローとしてどんな取り組みに注力しているのか。室水氏のこれまでとこれからについて迫ります。
鈴木:室水さんは現在、防音材を扱う「ピアリビング」の代表取締役として活躍されています。会社を始めるきっかけを教えてください。
室水:もともとは生活費を稼ごうと、オークションサイトで防音商品を販売したのが始まりです。会社の経営が厳しくなる中、子育てをしながらでも稼げる手段としてオークションサイトを使った事業を展開し始めました。
1993年にピアリビングの前身となる内装業をスタートしましたが、私が妊娠8ヶ月の時、夫は出張で常に不在でした。「領収書が送られてきたけれど、これからどうすればいいのか?」という状態で、本を片手に経理と子育てをしていました。また、下の子を妊娠・出産しながら二人の子供を抱えて法務局や銀行、税務署に通い、子供のそばにいながらお金を稼ぐためにオークションで自分のものを売る生活をしていました。
しかし、税理士から倒産させるようにと言われ、代表者を交代。全ての借金を背負ってピアリビングをスタートしました。そんな中、営業先で不良在庫となっていた防音カーペットを見つけました。オークションサイトに出すと、3か月目に100万円が売れ、驚きました。それに個人出品にもかかわらず、「騒音で困っているので助けてください」というメッセージがたくさん届きました。私自身も子育て中の親だったので、なんとか助けてあげたいと思い、防音商品を探しましたが、家庭向けのものは見つからず、音の問題は個人の感覚もあり面倒なので大手はやらないとのことでした。しかし諦めきれませんでした。
販売を続ける中で、「妊娠中なのに階下から苦情が来て安心して出産できない」「子供が騒いで隣から苦情で社宅を追い出されそう」という悲痛な質問をいただき、ないなら作ろう!と思いました。主婦の「ありあわせで料理を作る」感覚で、一般常識では考えられない遮音シートや吸音材の設置方法を考案し、「主婦でもできる防音!」を掲げてブログやSNSで発信し、お客様に寄り添ってきました。また、自社開発の商品がヒットし、7年で借金を完済しました。
鈴木:子育てをしながらの仕事は大変だったのではないでしょうか?
室水:そうですね。オークションサイトからの問い合わせには24時間対応していたので、1日3時間の睡眠で7年を過ごしました。子育てや借金返済と今の基盤づくりは大変でしたが、喜んでくださるお客様の声と子供たちがいたからこそ頑張れたと思います。
そんな中、リーマンショックの影響で取り扱い商品の9割が売れなくなる事態が発生しました。売上を伸ばせない中、打開策として目を付けたのが、当時は十分に認知されていなかったYouTubeです。効果を紹介する動画を作成し公開したところ、動画がバズり、大手企業から商品の開発依頼が届くなどしてV字回復しました。倒産の危機を3度経験しましたが、今があるのは大切な顧客がいたからだと思います。ネットを通じて防音商品を届けることで、音の悩みを解決し、心地よい未来をつくりたいと全力を注いできたことが良かったと感じています。
鈴木:常に「今」を生きてこられたのですね。
室水:私は経営や事業に向く才能や能力を持っているとはまったく思っていません。大切なことはとにかく行動。当時も今もこう考えます。
鈴木:その姿勢こそが才能だと思います。言葉にするだけで行動しない人はたくさんいます。しかし、言ったことを行動に変えなければ何も始まりません。
とはいえ、もちろん大変だったと思いますが、挑戦を続けることは楽しかったのではないでしょうか?挑戦が習慣になっていると、のんびりできないと思います(笑)
室水:私の場合、何もせずにいると不安で仕方ありません。失敗してもいいから「まずはやってみよう」とお客様の声と世の中の流れにあわせて行動しスタッフのみんなと変化し続けたから31年事業をさせていただけていると振り返ります。
鈴木:まさに挑戦する精神ですね。多くの人が挑戦したがらない中、室水さんにとっては挑戦することが当たり前だったと感じます。挑戦することを楽しいと感じていたに違いありません。
鈴木:今後はどのような挑戦をしていきたいと考えていますか?
室水:今後は海外展開に力を入れたいと考えています。特にシンガポールでの事業展開を視野に入れています。2019年にシンガポールで1ヵ月間ポップアップストアを開催した際、現地の方々から騒音に悩む声を多聞きました。あれから5年、相談してくださったお客様を気にかけ助けたい想いが強くなりました。やっと解決に向けて動き出しています。
シンガポールでは2021年以降、騒音トラブルが急増し、社会問題化しています。そこで政府は、一定以上の騒音を発生させた場合に罰金を科す規制を打ち出しました。しかし、防音材を使った騒音対策を講じるケースは必ずしも多くありません。現地の生活を体感するため、現在、シンガポールに家を借り、日本と行き来する生活をしています。実際に住んでみると、「床が大理石なので子供が転ぶと危ないな」「紫外線が日本の4倍以上あるのにカーテンが薄すぎる」といった、現地で生活している人の声を聞くことができます。
ITに関しては世界をリードするシンガポールですが、生活面ではまだ発展途上だと感じています。日本の商品やその細やかさ、サービスの良さを再認識し、日本文化をアジアで伝えたいと思っています。
鈴木:室水さんは日本オムニチャネル協会のフェローとして、活動に参画してもらっています。日本オムニチャネル協会で今後、どんな取り組みを実施したいと考えていますか。
室水:日本オムニチャネル協会には今後、大学をはじめとする教育機関と新たな取り組みを進めてほしいと期待します。
当社でも現在、防音商品の効果を科学的に示すため、大学との共同研究や共同開発を模索しているところです。このように大学の専門的な知見や研究環境を活用したいと考える企業は少なくはいはずです。日本オムニチャネル協会には、企業と大学をつなぐ橋渡し役を担ってもらうことを期待します。産学連携による共創が企業のDXを後押しすると思います。
鈴木:大学側にとって企業との連携は学生に良い経験をもたらすはず。双方とも大きなメリットを見込めるはずですね。
室水:日本の経済が不安定な今、日本の優れた製品や技術を世界に広めて、次世代の子供たちにも誇れる国を残したいと強く思っています。
私の娘が子供を産んだとき、「この先の将来を考えると、子供を産んでよかったのかな」と言っていたのを聞いて、何とかこの世界を良くしていきたいという思いが強まりました。 日本人の心使い日本のすばらしいクオリティを世界に伝えたい、騒音トラブルなどなく安心して暮らせる世の中に貢献したいと思っています。
鈴木:ぜひ一緒に、より良い社会をつくるために活動していきましょう!