日本オムニチャネル協会の活動をサポートする役割を担う「フェロー」。各方面の専門家が集まり様々な活動に取り組みます。今回はそんなフェローの1人で、株式会社パルコ 顧客政策部 部長 兼 J. フロント リテイリング株式会社 経営戦略統括部 グループ経営企画部 専任部長 兼 株式会社パルコデジタルマーケティング 取締役として活躍する安藤 彩子氏に話を聞きました。パルコでCRMを駆使した施策推進を主導する安藤氏。なぜCRMを起点とした施策に注力するのか。データ活用のあるべき姿をどう定義するのか。同氏のこれまでの体験を振り返るとともに、今後の思いに迫ります。

CRMに出会うきっかけになったある疑問

鈴木:安藤さんの経歴を教えてください。

安藤:新卒で化粧品メーカーに営業として入社しました。その後、アパレル業などで経験を積み、現在はパルコの顧客政策部の部長としてCRMの運用に取り組んでいます。

鈴木:安藤さんはもととも、CRMを活用したマーケティング推進に尽力されてきました。CRMに注力するきっかけは何だったのでしょうか。

安藤:顧客情報を使ったマーケティング施策が機能すれば、現場を良い方向に改善できると考えたのです。顧客ニーズを満たす商品づくりを進めるためにも、CRMの構築と運用こそ不可欠と考えました。

私はさまざまな業界を経験してきましたが、目先の数字づくりに奔走するケースが少なくありませんでした。目標の売上額を達成するため、翌月分の売上を前倒したり、月末に値下げして一時的に売上を増やしたりすることがありました。こうした場当たり的な対応ではなく、「どんな商品が売れるのか」「顧客はどんなニーズを持っているのか」などの解に基づいた戦略を打ち出し、売上増を目指すのが望ましいと常々考えていました。顧客を起点とした商品づくり、店舗づくりを進めるためにも、顧客情報を活用したマーケティングが重要と思い、営業部からマーケティング部に異動したこともありました。

鈴木:これまでの経験から、パルコでもCRMを軸にしたマーケティングに取り組むのですね。

安藤:衣料品メーカー在籍時代にマーケティング部署へ異動したときは紙の顧客台帳をWeb化し、顧客情報をCRMで一元化してデータ活用できる環境と体制づくりを進めました。こうした取り組みが、現職でCRMを軸にしたマーケティングを重視するきっかけになっていると思います。

もっともマーケティング部に異動した当初、デジタルマーケティングもデータ分析もど素人で基礎知識もありませんでした。そこでマーケティングを基礎から学びつつ、業務を通じてCRMの機能や役割、効果なども改めて学び直しました。こうしたノウハウや知見を活かし、アパレル業へ転職後は実践的なデジタルマーケティングやCRMの運用に携わっていくようになりました。

株式会社パルコ 顧客政策部 部長 兼 J. フロント リテイリング株式会社 経営戦略統括部 グループ経営企画部 専任部長 兼 株式会社パルコデジタルマーケティング 取締役 安藤 彩子氏

データを活用してファンを増やすには?

鈴木:現在はパルコでどのようなことに取り組まれていますか。

安藤:パルコへ入社した当時に取組んだことは、データ活用とポイントサービスの構築でした。パルコの自社ポイント「PARCOポイント」や自社コード決済「ポケパル払い」のシステムを構築し、サービスを作ったのが最初の大きな仕事でした。ポケパル払いは、パルコで利用できるQRコード決済サービスです。クレジットカードを登録することで、PARCOポイントやクレジットカードのポイントを貯めることができるようになっています。ポイント化を行う前はお客様のクレジットカードのデータを扱っていましたが、クレジットカード会社にデータを共有してもらっていたのをポイント化することで、自社で直接データを収集できる環境を作りました。
現在は、そのサービスを運用しながらそこで収集できるデータを活用し、顧客理解を深めコミュニケーションを最適化することで、会員様にパルコへの愛着を高めていただけるような顧客政策の活動をしています。

鈴木:実際にデータ活用はうまくいったのでしょうか。

安藤:当初は、データを活用しながらお客様とどのようにコミュニケーションを取るかに悩みました。PARCO館内の区画をテナントに貸し出す当社のBtoBtoCモデルの場合、当社が来店者様を直接接客することは多くはありません。そこでパルコは、どのようにしてデータを活用しながらお客様とコミュニケーションを取るのかに非常に悩みました。そのように悩んでいる時に、世の中がコロナ禍に突入し、さらに悩みが深まりました。

鈴木:どのようにして答えを出しましたか。

安藤:「パルコに顧客はいるのか?」という問いを自分に問いかけました。初めは社長から問いかけられ、この問いを深く考えました。そして自分の中で「パルコに顧客はいない。テナントショップ/ブランドに顧客がいる。」という答えを出しました。そのため、パルコは購買者ではなく、取り組みやブランドに共感するファンを増やすことが重要だと気づきました。この考えが整理できると、次にやるべきことが明確になり、迷うことがなくなりました。

鈴木:パルコで今後やりたいことはありますか?

安藤:新たな視点を持ちながらファンを増やすことに注力していきたいです。現在は当社からお客様に向けてアプローチしている状態ですが、逆転させてファンが当社の取り組みに関心を持ってもらうような関係を築きたいですね。そのためには、どのようなコミュニケーションを通じてファン化を進めていくのかを検討しなければなりません。例えば、デジタルを駆使して顧客とのタッチポイントを増やしたり、データの新たな活用方法も模索したりする必要があると感じています。以前は購買者データを活用し、購買確率の高い方に情報を発信することに注力していた時期もありました。しかしそれだけではお客様はパルコに目を向けてくれません。当社からお客様といった関係をお客様から当社といった関係に反転させるためには、今までとは違うデータを取得して取り組まないといけないかもしれません。ファンづくりは全社で取り組むべきことですが、自分ができることは、データを使ってデジタルのタッチポイントを活用し、適切な接点を作ることだと思います。そのため、従来の購買データに縛られず、異なる視点を持ちたいと考えています。

鈴木:共感し、企業側に矢印が向くファンは、ファン同士がコミュニケーションを取っている状況が一番熱いように思います。そのような状況を自然発生的に作れるといいですね。

安藤:「なんかパルコいいよね」とファン同士が感じるような火種を提供することが必要なのかもしれませんね。

DXマガジン総編集長 兼 日本オムニチャネル協会会長 鈴木康弘氏

リアルな悩みを率直に質問できる場

鈴木:安藤さんは日本オムニチャネル協会のフェローとしても活躍されていますが、活動を通して役立ったことはありますか?

安藤:日本オムニチャネル協会の分科会活動では、実務の課題について非常に実践的な話し合いをしています。参加者には利害関係がないので、忖度なく質問でき、生の声を聴けることが非常に勉強になります。

鈴木:課題を持っている人が集まっていますよね。決して答えを持っている人が集まっているわけではなく、課題をぶつけ合うことで新たなイノベーションが生まれると思います。

安藤:そうですね。それに分科会のような議論の場だけでなく、交流会でフランクに話す機会もたくさんあります。なので、困った時にはわざわざメールでなく、その場で楽しみながら困りごとを相談できる機会があるのはありがたいと感じています。これからも日本オムニチャネル協会を楽しみたいです。

鈴木:一緒に盛り上げていきましょう!

情報提供元: DXマガジン_テクノロジー
記事名:「 どうやってファンを増やす?パルコのデータ活用を躍進させた「ある問い」とは