日本オムニチャネル協会は2024年10月、インドの視察ツアーを実施。バンガロール訪問後に訪れた首都デリーでは、医療系スタートアップ企業やインド工科大学デリー校を訪問。インドという国と向き合う企業や学生は、インドをどう捉えているのか。その本音を探りました。

医療系のインフラ構築がスタートアップの成長を後押し

バンガロール視察後は、インドの首都であるデリーに移動。デリーでは企業訪問のほか、店舗や商業施設、消費者の熱気などを中心に視察しました。

まずは、コーディネーターの相良さんからの紹介により、医薬品クイックコマースのスタートアップ「Farmako(ファーマコ)」を訪問。ファウンダー兼CEOのアマンさんに話を聞きました。

アマンさんは歴史あるインド工科大学ルールキー校出身で、AIを学んでいた同級生3人でファーマコを起業。アマンさんの一族には医師が多く、父親も医薬品業界に長く関わってきたなどの理由から医薬品を扱う会社を起業したといいます。自身がケガで通院したとき、処方が次々と変わるのを見ておかしいと感じ、こうした業界の課題をデジタルで課題したいと考えるようになったそうです。ファーマコは現在、米シリコンバレーのスタートアップアクセラレーター「Y Combinator(ワイ コンビネーター)」の出資も受けています。

ファーマコでは医薬品を取り扱うほか、処方箋のデジタル化にも取り組みます。医薬品を提供し始めた当初は、取り扱う処方箋の9割が紙だったといいます。しかし同社は、デジタルを駆使して状況を改善。政府と協議するなどして処方箋のデジタル化を進めた結果、120万米ドルの売上に達しました。現在は1000万米ドルの売上目標を掲げ、電話での医療相談を受け付ける「メディグリー」と協業するなど、多くのビジネスパートナーとの新たな展開を視野に入れます。

アマンさんの説明後、配送の現場も見学。医薬品のオーダーを受けてダークストア(直接販売しない小型倉庫)でピックアップ、配送に出発するまでの流れを視察し、30分以内に商品を届けるクイックコマースの心臓部を実際に体感しました。安価な人件費のもとで成り立つビジネスモデルという点は、以前の中国で繰り広げられたモデルと同じです。ただしインドの場合、全人口に対する若者の比率が圧倒的に高いこと、さらに発展途上の地域が国内に多くあることが、クイックコマースのニーズを今後も引き上げるのではないかと推察されます。ファーマコは今後、国内20の主要都市に約60店舗を出店し、事業のエリア拡大を進めるといいます。

ちなみに、インドでは現在、「ABDM (Ayushman Bharat Digital Mission、アーユシュマン・バーラト・デジタル・ミッション)」という医療のデジタル基盤となるインフラ構築プロジェクトが推進中。4億人の健康情報をIDに紐づけて管理しようとしています。政府が必要な基盤づくりを進めれば、デジタル化に取り組むファーマコのような企業も成長するいう、行政と企業が同じ方向に向かって突き進んでいることを強く感じました。

図1:30分以内に運ぶライダーたち
図2:アマンさんからダークストア内で注文から出荷までの流れの説明を受ける

理工系学生が活躍できる企業の成長に期待

次に視察したのは、気になるインドの教育事情。インド工科大学の23校の1つ、デリー校を訪問しました。ここでは学生とディスカッションする機会がありました。

デリー校はFlipcartやZomatoの創業者を輩出する名門校。キャンパスには売店や病院があり、学生と教授が近しい中で深い学びを得られる環境でした。

1961年に設立された同校では、技術・エンジニアリングを中心にハンズオンで学べるのが特徴。STEM(science, technology, engineering and mathematics:科学・技術・工学・数学)教育が注目される中、科学技術を使って問題解決に取り組むことにも重点を置いているそうです。

私たちのような外部の来訪者に対し、デリー校では国際連携担当の学生たちが資料やカリキュラムを準備して対応するといいます。こうした対応を学生主導で進めること自体、成長の機会を得やすいと感じました。学生との対話では日本のアニメ、特に「クレヨンしんちゃん」や「NARUTO」が好きということまで話が及び、優秀さと気さくさを併せ持つ学生らしさも感じました。

なお、インドでは一次産業の比重が高く、理工系の学生が能力を発揮できる製造業などはまだ少ない状況です。若年層の失業率が高いという社会的な情勢、直近の選挙ではインド人民党が議席を減らしたという政治的な動きも見逃せません。理工系の学生が今後、国内でどんな飛躍を遂げるのか。日本企業がインドという国でビジネスを模索するなら、インドの国内情勢や学生の動向にも注視すべきと痛感しました。

図3:インド工科大学デリー校では学生の本音を垣間見れた

第4回となるインドの視察レポートはここまで。次回はインドの多様性と未来について考察します。インドには14億人という巨大な内需があり、若い人口構成がもたらす成長力は他国と比較しても特筆すべきです。しかし、文化や宗教、言語、カーストなどが社会と複雑に密接しているのも事実。こうした背景がビジネスにどう影響するのかを見極めることも必要です。今後のビジネス展開に向けた具体的なアプローチも考えます。

【筆者】

逸見光次郎
日本オムニチャネル協会 理事 

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情報提供元: DXマガジン_テクノロジー
記事名:「 医療系スタートアップCEOや名門工科大学の学生との対話から見えるインドの課題