生活者の購買行動はEC中心に大きく変化し、「実物を見ずに買い物なんてできない」、「購入までの手続きが煩雑で買い物しづらい」など、登場した当初は否定的な評価が大半を占めていました。しかし現在、こうした懸念は払しょくされ、「ECなしに生活できない」という人さえ生まれつつあります。ではなぜ、ECは消費者のインフラとして台頭するようになったのか。また、未来はどう変化していくのか? 激動するテクノロジーの変遷の中、企業が生き残るための要因を探ります。【連載第11回:ECの進化とシステムの変遷】

ECが市民権を得る上で大きな契機となったのが、2007年に登場した「iPhone」です。iPhoneが登場した当初、私たちの暮らしさえ変えるインパクトを与えるとは誰も想像できなかったでしょう。生活者の行動様式がスマホを中心に大きく変化し、「電車での移動中にスマホで買い物をする」「実店舗で実物を調べてからネットで買い物をする」などの近年では当たり前の購買行動が生まれました。ビジネスは、スマホをどう活用するか、スマホユーザーをどう巻き込むといった視点での変革を求められ、ユーザー体験を定義しなおしサービスが進化しました。

iPhone発売当初に、その真の魅力や派生するビジネスの可能性を見抜けた人はごくわずかでした。デジタル業界の常識として、「派生するビジネスが誰もに説明・理解可能になった時には、すでに先行者利益は得られない」という現実があります。一方で、理解不能な数えきれないほどのアイデアの多くが、日の目を見ることなく消えていきます。

ちなみに、NTTドコモのモバイル社会研究所が2024年4月に発表した調査結果によると、携帯端末所有者のうち、スマートフォンを所有する割合は97.0%。iPhoneが登場した直後の2010年は、わずか4.4%でした。iPhoneをはじめとするスマートフォンの所有率向上とともにECの利便性は改善し、EC市場も拡大することになったのです。スマートフォンという端末がEC市場を成長させたといっても過言ではないのです。

一方、iPhoneが登場した2007年当時、マイクロソフトはスマートフォンや検索エンジン分野で思った以上に成長できず、さらにOS「Windows Vista」の不人気も重なり、低迷期を迎えました。低迷期を脱したのは、2014年にサティア・ナデラ氏がCEOに就任し、「Microsoft Azure」という、クラウド技術によって復活をしていくことになります。従来ECなどシステムを提供する際には、物理的にサーバーを構築する必要があり、トラフィックが増えればさらに物理的に増設や入れ替えが必要でした。 クラウド技術は、物理的な増設を必要とせず、サービスとして急拡大するネットインフラを提供することができ、時代のニーズとマッチし拡大します。

そして今、テクノロジーの主役に躍り出たのがAIです。EC分野においてもAIをどう売上向上や業務効率化に活かすかが議論されるようになっています。ECサイトで販売する商品の中から欲しいものを探し出す手段として、さらには個人の趣味や嗜好に応じた商品をサイト上に表示させる手段としてなど、さまざまな用途でAIは使われ始めています。EC事業者向けにも、顧客分析や在庫最適化などの手段としてAIが使われるようになっています。

Appleにおいては、2023年から始まった生成AIの急速な進化の波に乗り遅れているという指摘もあります。これまでの成功体験が、新たな技術への対応を遅らせる要因となることは、どの企業にとっても警鐘となります。巨大な技術革新が、いかに企業の命運を左右するかを痛感させられます。

これまでのEC業界の変遷を見る限り、最新のテクノロジーが市場の成長に大きく寄与していることが分かります。つまり、EC事業を展開する小売事業者や、今後EC市場への参入を検討する他業界の企業は、新たなテクノロジーの動向に注視することが何より求められるのです。テクノロジーが消費者の購買行動にどのような影響を及ぼすのか、ECサイトの運営業務にどんな効果をもたらすのかを考え、そのインパクトを考察すべきです。さらに、効果を見込めると判断したら、アーリーアダプターとして他社に先駆けてテクノロジーを活用する積極性も示すべきです。こうした先見性や姿勢が、競合ひしめくEC市場で抜きんでる要素となるのです。

私たちを取り巻く社会はもちろん、消費者の関心やニーズは短期間で目まぐるしく変化しています。こうした状況に追随するには、現状に満足することなく挑戦し続ける姿勢が必要です。テクノロジーを駆使して事業をドライブさせる覚悟が、自社のEC事業を成長させるのです。

林雅也

株式会社ecbeing 代表取締役社長
日本オムニチャネル協会 専務理事

1997年、学生時代に株式会社ソフトクリエイトのパソコンショップで販売を行うとともに、インターネット通販の立ち上げに携わる。1999年にはECサイト構築パッケージ「ecbeing」の前身である「ec-shop」を開発し、事業を推進。2005年に大証ヘラクレス上場、2011年に東証一部上場へ寄与。2012年には株式会社ecbeingの代表取締役社長に就任。2018年、全農ECソリューションズ(株)取締役 JAタウンの運営およびふるさと納税支援事業を行う。2020年からは日本オムニチャネル協会の専務理事を務め、ECサイト構築パッケージecbeingの導入サイトは1600サイトを超える。

情報提供元: DXマガジン_テクノロジー
記事名:「 AppleがAIブームに乗り遅れた!?テクノロジーの変化で激変する市場で企業がすべき行動とは