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オムニチャネルとは、顧客を起点に考えるアプローチであり、その実現にはマーケティングの視点が欠かせません。ところが、世の中にはさまざまなマーケティング論が存在し、特に「マーケティング=販売促進」、「デジタルマーケティング=デジタルツールを使った販売促進」といった誤解が多く見られます。今回は、オムニチャネルの文脈で本当に考えるべき「マーケティング」とは何かを整理します。【オムニチャネル~ビジネスを共創する時代の基本思考#10】
マーケティングは一言で言うと、「顧客理解」そのものです。単なる販売促進やデジタルツールの活用にとどまりません。自社の商品やサービスを繰り返し利用する人を「顧客」と定義し、顧客の行動や興味を探ることがマーケティングの基本です。
顧客を深く洞察するには、「市場」の特性を理解することも欠かせません。例えば実店舗を構える地域の周辺にはどんな人が多く暮らしているのか、どのくらいの年収の世帯が多いのか、さらに年代や職種などを調査するのもマーケティングでは重要です。商圏に縛られないECサイトなら、「市場」は原則として全世界に広がります。ただし、取り扱う商品によって「市場」は限定されるでしょう。このようにマーケティングでは、自社のチャネルや商品・サービスの特性に応じて「市場」を細かくセグメントし、市場に沿った施策や戦略を立案、実施することが何より求めれます。そこで「3C」や「SWOT」などのフレームワークを使い、市場の環境や競合の状況を可視化、分析することが大切です。この分析や調査の精度を高めることでマーケティング施策の成功率を高められるようになります。「顧客理解」も進められるようになるのです。
なお、「顧客理解」を深める市場分析は一度実施するだけでは不十分です。マーケティングという言葉は「マーケット+ING」である通り、進行し続ける取り組みでなければなりません。常に変化する市場を調査、把握し続けることが大切です。小売事業者の中には、「小売業は変化対応業である」という人も少なくありません。この言葉からも分かる通り、変化に追随する対応力を身に付けることが「顧客理解」には求められるのです。
とりわけ近年は、変化対応力がより求められるようになっています。例えば人気商品の場合、爆発的に売れたとしても、その期間は短期化しています。さらに、突然売れなくなるリスクさえあります。これまでなら商品は緩やかに売れ出し、売れる期間も長期化していました。突然売れなくなるリスクはなく、徐々に売れなくなるケースが大半でした。つまり、以前なら急激な変化は起こりにくかったものの、現在は先行きが極めて不透明で、急激な変化が常態化しつつあります。そのため企業は、変化の兆候をいち早く察知して対応する力がこれまでに以上に必要になっているのです。
「顧客理解」をさらに深めるためには、自社商品やサービスを継続して購入する顧客の行動や興味を正確に把握することも重要です。数ある商品群の中から、自社の商品・サービスを選んだ理由、継続して使い続ける理由などを調査、把握することはマーケティングでは極めて重要な施策となります。
これらが明らかになれば、漠然と良くしようという発想ではなく、顧客の立場に立った、本質的な改善に向けた仮説を立てられるようになります。結果として、施策の精度も成果も向上します。
中には「お客さまは安いから買うんだよ」「他社より価格で負けないようにしないといけない」といった声をよく聞きます。しかし、あなたが日常生活の中で買い物をする際、お店や企業を選ぶ理由は本当に価格だけでしょうか?
たしかに「最寄りだから」「安いから」といった要素はあります。ただし、安さだけが理由なら、より安い店が現れた途端に乗り換えてしまうはずです。それでもなお、特定のお店に通い続けるのは、きっとそれ以外の理由があるからです。
例えば、「このお店なら安心できる」「信頼して任せられる」「お店の人の顔が見える、知っている」といった、価格以外の価値があるのではないでしょうか。ところが企業側は、「当社ににそんなに強みはない」と卑下するケースが少なくありません。しかし、それは実際にお金を払って商品やサービスを選んでいる顧客に対して失礼です。自社の強みや弱みを整理し、「なぜ顧客が自社を選ぶのか」を理解することが顧客理解の基本です。これこそがマーケティングの出発点なのです。
逸見光次郎
CaTラボ 代表取締役
日本オムニチャネル協会 理事
1994年に三省堂書店に入社し、神田本店や成田空港店などで勤務。1999年にソフトバンクに移り、イーショッピングブックスの立ち上げ(現:セブンネットショッピング)。2006年にはアマゾンジャパンに入社し、ブックスのマーチャンダイザーを務める。2007年にイオンに入社し、ネットスーパー事業の立ち上げ後、デジタルビジネス事業戦略担当となる。2011年、キタムラに入社し、執行役員EC事業部長を経て、2017年にオムニチャネルコンサルタントとして独立。現在はプリズマティクスアドバイザーやデジタルシフトウェーブのスペシャリストパートナーなどを務める。
日本オムニチャネル協会
https://omniassociation.com/