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日本オムニチャネル協会は2025年5月20日、定例のセミナーを開催しました。今回のテーマは「未来の働き方とは?~AIエージェントの可能性~」。注目を集める「AIエージェント」に焦点を当て、その役割と可能性、そして来るべき未来の働き方について考察しました。
業務効率化や生産性向上を目的として様々な業務にAIが浸透しつつあります。その中でAIエージェントは自律的な判断とタスク遂行を可能にし、これまで人の判断を要するとされてきた業務さえも代行する可能性を秘めているとされています。
セミナーでは、AIエージェントが企業に浸透した際に、人にはどのような働き方が求められるのか、そして人が担ってきた業務の大半が本当にAIエージェントに置き換わってしまうのかといった重要な問いにまで踏み込みました。ABEJA CEO室 LABO長 藤本敬介氏と、マイクロソフトコーポレーションのリテール&コンシューマグッズ日本担当インダストリーアドバイザーである藤井創一氏をゲストに迎え、活発な議論が交わされました。ここでは、セミナーの模様をお届けします。
セミナーは、IT業界の過去の大きな技術革新を振り返ることから始まりました。約10数年に一度、大きな技術革新が訪れてきたとされ、1995年のWindows 95の登場は、文書作成や表計算といった業務用アプリケーション、そしてオフィス環境の様子を大きく変革しました。次に2007年のiPhoneの登場は、当初は単なる電話機としての認識もありましたが、やがてオムニチャネル的な世界を築き、いつでもどこでも誰もが調べ物をし、SNSが広がり、決済やUber、Spotifyといった新しいモデルも生まれ、メディアやゲームのあり方までも変えたと説明されました。
そして、現在注目されているのがAIの時代です。特に2023年には、マイクロソフトがOpenAIに100億ドル規模の巨額投資を行い、生成AIが大きく話題となりました。多くの人がアイデア出し、情報収集、文書やレポート作成などでAIを活用している現状が指摘されつつも、さらなる進化も示唆されました。その代表となるのが、2025年のトレンドとなっているAIエージェントです。これはLLM自身が目的達成のためのプロセスを提案し、システムを制御する仕組みです。例えば、「流行っている芸人の動画を見たい」という目的をLLMに伝えると、LLMが自ら「最近のお笑い芸人を検索する」「代表的な作品名をピックアップする」「動画をユーザーに提示する」といったプロセスを立案し、検索クエリの自動実行など、ツールとしてのLLMを活用して様々なタスクを遂行します。
さらに、AIエージェントは進化を続けており、LLM自身が複数のエージェントを計画・制御し、それぞれ得意な役割(ソースコード作成、分析、テストなど)を持つエージェントを組み合わせることで、より複雑なタスクもこなせるようになっています。セミナーでは、「まるで1つの会社のように、複数の人間が連携して働く様子をLLMが再現するような仕組み」だと説明されました。
ABEJAの藤本氏は、自社のAI導入実績やAIエージェントの活用法を紹介しました。藤本氏はAI導入について、「これまではAIを企業が導入、活用するのは難しいとされていた。しかし、ABEJAは高い精度が求められる領域にも対応できるAI基盤を開発している。例えば、化学プラントの運用保守や損害保険のアンダーライティングなどがミッションクリティカルな業務であり、ミスが事故や大きな問題につながる可能性があるため、高い信頼性が求められる。こうした領域にもAIの導入が進んでいる」とセミナー参加者に強調しました。
ABEJAは、このようなミッションクリティカルな業務を支援するために、「ABEJAプラットフォーム」という仕組みの中で「Human in the Loop(人間参加型ループ)」というアプローチを活用しています。これは、AIの初期段階では精度が完璧ではないため、いきなりAIに完全に任せるのではなく、最初は人間がAIを支援し、作業をサポートする形で利用するというものです。この過程でデータを蓄積し、AIの精度を徐々に高めていくことで、AIが担当できる領域を増やしていく仕組みです。これにより、ABEJAはこれまでに数百社以上のAI導入と運用を支援し、小売からプラント、製造、電力、医療など、多岐にわたる分野で実績を上げています。
AIエージェントの実用例として、様々なデモンストレーションや事例が紹介されました。 コンピューターの作業を自動化サービスでは、例えば「AIエージェントの最新事例を調査してほしい」と依頼すると、サービス側がパソコンを自動操作し、ファイルを生成し、ブラウザを開いてウェブを巡回し、画面の情報を認識しながら調査を進め、最終的に調査レポートを自動作成します。今日のセミナーで話したようなAIエージェントの定義や背景まで含んだレポートさえ自動生成できるといいます。
ABEJA社内での取り組みとして、会議中にAIが会話をサポートする事例も紹介されました。AIが会議内容をリアルタイムで分析し、現在の会話のトピックや話すべきポイント、関連する社内情報や顧客事例などを自動で検索・提示することで、あたかもエージェントが自ら判断してサポートしているかのような状況が実現されていると説明しました。また、店舗分析のデモンストレーションでは、店舗のデータ分析から、最終的な示唆出しまでをAIが自動で行う仕組みも紹介されました。
マイクロソフトの藤井氏からはAIの活用事例が多数紹介されました。 海外の小売事業者の事例では、ユーザーの商品選びにAIアシスタントを活用。顧客のコンテキストや目的に応じて、自然言語での対話型チャネルを通じて適切な商品を提案できるようにしているといいます。こうしたAI活用の取り組みが、「顧客のロイヤリティ向上に寄与している」(藤井氏)と説明しました。
オーストリアのスーパーマーケットでは、在庫の最適化と廃棄コスト削減のために生成AIを活用しているといいます。データサイエンスの能力を持たない従業員でも、自然言語を使って分析を行うことで、廃棄率20%削減、廃棄コスト15%削減といった成果を上げているとのことです。藤井氏は、「多くの従業員はアナログのナレッジを中心に業務に従事する。店舗にデータサイエンスのスキルを持つ人は必ずしも多くない。そのような中で自然言語を使った分析を実施して効果を上げている事例の1つ」(藤井氏)と述べ、現場の知識をAIで補完する重要性を指摘しました。
一方の日本では、イオングループの事例を紹介。イオングループはグループ全体から集まるさまざまなデータを分析し、AIを活用して事業会社への示唆出しを進めています。とりわけ特徴的なのが、店長からのインサイト(洞察)を活用する取り組みです。経営データだけでは捉えきれない、店舗のリアルな状況や顧客、従業員、地域コミュニティに関する店長の「アナログな知見」をアンケートなどでデータ化し、これと経営データをクロス分析することで、質の高い判断が可能になったといいます。藤井氏は、「流通のプロは現場の人間に他ならない。人間の見方を変えていくことによって、企業としての価値を高められるようになる。AIの技術に目を向けるだけではなく、それを駆使する人間の価値を再認識することが大切だ」と述べ、AI時代においても現場の人間が持つ知識や経験の価値を認めるべきと強調しました。
さらに、AIエージェントの需要予測への応用可能性についても言及しました。これまで店舗の仕入れなどは、店舗ごとの経験や勘に頼る部分が大きかったものの、今後は過去の実績データに基づいて将来を予測することが可能になります。AIの汎用性向上により、これまでカスタマイズに多大なコストがかかっていた現場ごとのデータ形式や場所ごとの違いを吸収し、幅広い現場で導入が容易になることが期待されています。株の分析のように、バラバラなフォーマットのデータもAIがうまく扱えるようになったため、開発コストも大幅に下がり、今まで難しかったりコストが高すぎたりして実現できなかった業務の効率化が、今後は可能になるだろうと予測しました。
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