デジタルシフトウェーブは2024年10月2日、定例のDX経営セミナーを開催しました。今回のテーマは「従業員体験向上が顧客体験向上につながる!~いま企業が取り組む従業員体験向上の実際~」。従業員体験(EX)向上に向けた施策の重要性が増す中、企業はどんな取り組みに目を向けるべきか。さらには、EX向上施策を起点に顧客体験(CX)を向上させる取り組みや考え方について考えました。

近年、企業は従業員体験(EX: Employee Experience)を向上させる取り組みに注力するようになっています。従業員の働きやすさや満足度を向上させるために、福利厚生を充実させ、多様な働き方を許容するなど、企業が従業員のエンゲージメントを高める施策を次々と導入しています。このようなEX向上の取り組みが、実は企業にとって顧客体験(CX: Customer Experience)の向上にも大きく影響していることが徐々に明らかになってきました。

本セミナーでは、EXとCXの両方に焦点を当て、ヤプリの代表取締役CEO 庵原保文氏が、同社の取り組みを通じて感じたEXとCXの関連性について語りました。

EXとCXの取り組みの進化

ヤプリは、創業から11年を迎えるアプリ開発会社で、特にノーコードのアプリ開発プラットフォームの提供を通じて、多くの企業に貢献しています。これまでの主な顧客は小売業を中心とした企業であり、顧客との接点を強化するためのCX向上を目指すアプリの開発に注力してきました。たとえば、顧客にポイントカードやスタンプカードの機能を提供することで、店舗やECサイトへの顧客のリピートを促進するなどの取り組みが行われてきました。

しかし、ここ数年、特に新型コロナウイルスのパンデミックを経て、企業のデジタル投資が急増し、CX向上にとどまらず、従業員体験の向上にも企業の関心が集まるようになりました。これは、パンデミックによってリアルな店舗へのアクセスが制限され、デジタルを通じて顧客とつながる必要が出てきた背景に加え、労働力不足という社会的課題が企業に大きな影響を与えているからです。

写真:ヤプリ 代表取締役CEO 庵原保文氏

労働力不足がEXの重要性を高める

日本の労働市場においては、少子高齢化に伴い人手不足が深刻な問題となっています。特にサービス業や小売業、飲食業といった人手を多く必要とする業界では、従業員の確保が難しくなっており、それが事業運営に深刻な影響を与えています。このような状況下で、企業が従業員を惹きつけ、リテンション(定着率)を高めるためには、従業員の働きがいやモチベーションを高める施策が欠かせません。

ヤプリでは、従業員体験の向上がCXにも直結するという考え方を基に、従業員向けのアプリ開発を進めています。従来は顧客向けのアプリ開発が主流でしたが、最近では従業員向けのアプリ開発が全体の10%を占めるまでに成長しており、企業がEXの向上に力を入れていることが伺えます。

写真:セミナーのモデレータ―を務めたデジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木康弘氏

従業員エンゲージメントが企業の成功を支える

従業員エンゲージメントが企業のパフォーマンスに大きく影響することは、多くの研究で示されています。米国の調査会社ギャロップの調査によると、エンゲージメントの高い従業員を持つ企業は、欠勤率や離職率が大幅に低く、安全性や収益性も向上するとされています。従業員が自らの仕事に主体的に取り組み、企業やそのブランドを好きになることが、最終的には顧客に対しても良い影響を与え、CXの向上につながるのです。

例えば、従業員が企業のビジョンや価値観に共感し、自らの役割に誇りを持つことで、顧客対応が丁寧になり、顧客満足度が向上するという好循環が生まれます。庵原氏は「優れた従業員体験を提供できる企業が、優れたCXを提供できる」と強調しており、EXとCXは切っても切れない関係にあると述べています。

アプリを活用したEX向上の事例

ヤプリが提供する従業員向けアプリは、主に4つのカテゴリーに分けられています。

インターナルコミュニケーションの促進
従業員間のコミュニケーションを円滑にし、企業のビジョンや理念の浸透を図る機能が提供されています。例えば、幹部や役員のメッセージをポッドキャスト形式で配信するなど、従業員がいつでもどこでも企業のメッセージにアクセスできる環境が整っています。

リスキリングと人材育成
従業員が新しいスキルを習得し、成長できるようなコンテンツがアプリで提供されます。たとえば、化粧品会社のオルビスでは、ビューティーアドバイザー向けに商品知識や接客スキルを学べるコンテンツをアプリで提供しており、日常的に利用されるようになっています。

チームビルディング
従業員同士のつながりを強化するための仕組みもアプリに組み込まれています。ヤプリでは、従業員が七夕に願い事を投稿する機能を設けたり、社内イベントをアプリ上で展開したりと、楽しみながらエンゲージメントを高める工夫がされています。

ウェルビーイング
健康管理や福利厚生に関する機能も充実しており、従業員が日々の歩数をカウントして目標を達成するとポイントが貯まり、それを福利厚生に利用できる仕組みが導入されています。このポイント制度は、店舗向けのポイントカードアプリのノウハウを応用したもので、従業員の健康増進とアクティブ率の向上に寄与しています。

写真:セミナーではヤプリのアプリ開発プラットフォーム「Yappli」がさまざまな用途で活用されている事例を紹介

EXとCXの未来

ヤプリが提供するサービスは、EXとCXの向上が企業の成功に不可欠であるという考え方を具現化したものです。特に日本のような人手不足の深刻化が進む市場において、従業員のエンゲージメントを高めることは、企業の競争力を維持するために極めて重要です。

庵原氏は「従業員体験の向上が、最終的には顧客体験の向上につながる」と結論付け、EXとCXが相互に作用する未来を展望しています。企業が従業員を大切にし、働きやすい環境を提供することが、ひいては顧客に対する質の高いサービスの提供につながるのです。

ヤプリの事例を通じて明らかになったのは、EXとCXはもはや別々に取り組むものではなく、両者を一体的に捉えることが、企業の成功の鍵であるということです。

当日のセミナーの様子を動画で公開しています。ぜひご覧ください
情報提供元: DXマガジン_テクノロジー
記事名:「 EX向上がCX向上を招く! 従業員の主体的な姿勢が顧客に良い影響をもたらす