犬のフィラリア症(犬糸状虫症)について【獣医が解説】
フィラリア(犬糸状虫)ってなに?
フィラリアはよく「そうめんのような長くて白い虫」と言われる見た目をしている、寄生虫の一種です。成虫ではオスが12~20cm、メスがより大きく25~30cmで太さ1㎜程度の大きさがあります。
フィラリアの成虫は、「肺動脈」という心臓近くの血管に寄生し、幼虫(ミクロフィラリア)を増やします。幼虫は血液の流れに乗って全身を巡り、その血を蚊が吸血することで蚊の体内に取り込まれます。幼虫は蚊の体内で成長し、蚊の吸血によって他の犬へと感染を広げていくのです。蚊から感染した幼虫は、組織の中で成長して静脈に入り、肺動脈へと移動していきます。犬の体内に入ってから成虫に成長するまで数ヶ月、成虫の寿命は5~6年と言われています。
熱帯~温帯にかけて世界中に分布しており、日本では北海道から沖縄まで、全国で確認されています。
予防が進み、現在飼育されている犬の間ではフィラリア症にかかる犬は減少していますが、犬以外での野生動物などでも感染が確認されており、フィラリアが根絶される状況にはありません。
フィラリア症とはどういう病気?
フィラリアの寄生した数や寄生した部位によって、症状は多岐にわたります。
本来の寄生部位である肺動脈に寄生した場合、少数の寄生であれば症状が出ないこともあります。寄生数が増えてくると、運動をしたがらない、咳が出るなどの軽度の症状から始まり、貧血や失神、栄養不良、呼吸困難などの症状へ進み、やがては循環不全となって腹水が溜まるなど、全身が浮腫むようになります。黄疸や喀血の症状が出る場合もあります。
本来の寄生部位である肺動脈から心臓へと移動した場合、心臓の弁の働きを妨げることによって強い循環不全の症状を起こします。血管内で赤血球を壊し溶血を起こすことで、黄疸や血色素尿の症状を起こすこともあります。
肺動脈からフィラリアが移動する原因としては、寄生数の増加や死亡したフィラリアが肺動脈に詰まること、またショックや心機能を抑制する薬剤など様々な原因があります。フィラリアに感染している犬がフィラリア予防薬を飲むことによって、幼虫の大量死滅を起こすことも原因の一つとなります。
その他にも、体内を移動している幼虫が他の臓器に迷い込むことによって臓器を傷害したり、多数のミクロフィラリアが死滅した場合にアレルギー反応が起き、肺水腫や肺炎を起こす場合もあります。またフィラリアに対する免疫のはたらきによって、腎炎を起こすこともあります。
フィラリア症はどうやって治療するの?
外科的に成虫を摘出する方法
成虫が多く寄生しており、症状が出ている場合には外科的に成虫を摘出する方法があります。これは首の太い静脈から長い鉗子を入れ、肺動脈や心臓に寄生している成虫を取り除くやり方です。勿論、全身麻酔をかけての処置になります。成虫を取り除いても臓器や血管の傷害が大きい場合には、予後不良となる場合もあります。
薬剤によって成虫を死滅させる方法
薬剤で成虫を駆除することも出来ます。しかし血管の中に寄生している成虫を殺すことで、血管に塞栓が起きる危険性が高く、また薬自体の作用が強いため、犬にも大きな負担がかかるので現在はほぼ行われていません。
ミクロフィラリア(幼虫)を駆除する方法
成虫を摘出することはリスクが高いため、これ以上フィラリアを体内で増やさないために幼虫のみを駆除する方法です。寄生数が少ない場合など、近年では主流となっている治療法です。成虫を駆除することはできませんが、繁殖を抑えながら成虫の寿命が来るのを待つ方法です。
対症療法
成虫を取り除くことが困難な場合や、フィラリアを駆除しても臓器の傷害が大きく残ってしまう場合には、症状に合わせた治療をおこなっていきます。主な治療は循環の改善や血栓防止、血管の炎症を抑えることが目的となります。
フィラリア症を予防する方法は
フィラリアは蚊の吸血によって感染します。
現在「フィラリア予防薬」と呼ばれている薬は「幼虫(ミクロフィラリア)を駆除する薬」です。幼虫を駆除し成長させないようにすることで、成虫が起こす病害の予防をおこなっているのです。
蚊が吸血行動をおこなうのは、気温が20℃~30℃程度の時期が多いとされています。
ある程度フィラリアが育ってしまうと、通常のフィラリア予防薬では効果が不十分となってしまいます。
そのため、蚊が吸血行動を開始し、フィラリアがまだ成長しきらないうちに予防薬を飲むことが、フィラリアを予防する方法となります。
1ヶ月に1度と定期的に予防薬を使用することにより、蚊の吸血がおこなわれるたびに駆除することができるのです。
また、現在では温暖化の影響や室内環境の安定化、地域ごとの気温の変化にも対応できるよう、フィラリアの通年予防を勧めている動物病院も増えてきました。
予防を始める前に検査が必要なのはなぜ?
前に述べたように、フィラリアにすでに罹っている犬が予防薬を飲むことで、幼虫が大量に死滅したり、成虫が寄生部位を移動するなどの影響が出ます。それが原因となって、重大な症状を引き起こすこともあるため、必ず「フィラリアに罹っていない」ことを確認してから予防薬を飲み始めるよう、動物病院での啓発がおこなわれているのです。
近年ではフィラリアの予防も進み、フィラリアに感染していても寄生数がごく少数である場合もあります。このような場合には重大な症状を示さない場合も多く、検査してみて初めて感染を確認できることもあります。
冬の間には蚊の吸血行動は起こらないとされていますが、暖冬だったり、気温の高い地域へ旅行へ行ったり、またお薬の飲み忘れなど「もしかしたら」フィラリアに感染する可能性はゼロではありません。
フィラリア予防シーズン前には、必ず動物病院で検査を受けてくださいね。
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