犬は『人の声』を聞き分けることができる?飼い主と他人を区別する判断基準まで解説
犬は飼い主と他人の声を聞き分けることができる
動物行動学における数多くの研究成果を持つ教授の著書の中で、以前京都大学で行われた『犬が飼い主を見分けているか』という研究が紹介されています。
その調査方法は、犬に飼い主または見知らぬ人の声を聞かせた後に、飼い主または見知らぬ人の顔写真を見せて、犬がより長く注視する声と写真の組み合わせを調べる、というものです。
注視する時間に着目する理由は、「犬が驚いたかどうか」を調べるためです。
例えば、母親の声で名前を呼ばれたので部屋のドアを開けたらそこに父親が立っていた場合、驚いて父親の顔を注視します。
それと同様に、飼い主の声の後に見知らぬ人の顔写真が現れたり、見知らぬ人の声の後に飼い主の顔写真が現れたら、犬は驚いて注視する時間が長くなるだろう、という訳です。そして結果は予想通り、声と写真の組み合わせが異なる場合に写真を注視する時間が長くなる傾向が示されました。
この結果から、犬は飼い主のことを声からも顔からも見分けられることが分かります。
犬は声だけでも飼い主を識別できる
次にご紹介するのは、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学での実験です。この実験の主目的は、犬が人の声の要素のうち、声の主を特定する判断基準が何かを調べることでした。
その実験の過程で、犬がニオイに惑わされずに声だけで飼い主を特定できることも判明しました。部屋の壁の中央に犬を立たせ、反対側の壁の2箇所に不透明なスクリーンを置き、その裏に飼い主と見知らぬ人を1人ずつ配置します。
見知らぬ人は必ず飼い主と同性で、それぞれのスクリーンの後ろのスピーカーから、声を流します。
犬は実験前の生の声を使った訓練で、飼い主の声の方に行って飼い主を見つけるとご褒美をもらうことで「飼い主の声の方に行く」ように教えられます。本番では録音済みの声を使い、隠れている人と声の主が異なるパターンも含め、複数回の実験が行われました。
実験では、隠れている人が誰でも「飼い主の声のスクリーンに行く」のが正解です。そして、実験は正解率88.2%という結果になりました。見知らぬ人が隠れていても声の情報に従ったということは、犬は「ニオイ」ではなく「声」で飼い主を聞き分けたと解釈できます。
犬が声を識別する判断基準
前述のロラーンド大学の実験では、犬が飼い主を判別した音響要素についても分析されました。この実験で、犬が飼い主を判別するための音響要素がすべて解明できたわけではありませんが、日常的なコミュニケーションにおける参考にはなるはずです。
この実験の結果をまとめる前に、私たちが耳にする「声」に関する基本知識をざっとおさらいしておきましょう。声は喉にある声帯の振動で発生します。この振動が波のように遠くまで伝わっていき、動物の耳で感知されると「声」と認識されます。
声には「大きさ」「高さ」「声色」という3つの要素があります。大きさは音圧(単位:dB)、高さは周波数(単位:Hz)、声色は波形によって決まります。ただし、1つの声に含まれる周波数は1つだけではありません。
声の高さは基本となる周波数で決まりますが、そこに倍音といって基本周波数の2倍3倍などの複数の周波数やノイズが混ざっているのです。この複数の周波数やノイズが集合した結果、最終的な波の形が決まります。この波の形の違いを、私たちは「声色」として認識するのです。
この実験では、どの声も同じ大きさと明確さで発話するように指示されたため、おそらく犬の認知要因として、音の大きさは除外されるでしょう。それ以外の要素で研究者たちが分析したところ、犬が飼い主の声を聞き分けるために使われていた主な音響要素は、「平均基本周波数」と、「ジッター」だったのです。
「ジッター」とは、基本的に声帯は一定の間隔で振動しますが、感情の揺らぎなどに影響を受けて振動間隔がずれることをいいます。ロボットなどの人工的な声と人の声を聞き分けられる要因のひとつが、このジッターといえるかもしれません。
まとめ
犬が人を見分ける基準は、声だけではありません。
愛犬が飼い主を認識する際には、姿、ニオイ、仕草などの要素も含めて総合的に判断して「飼い主さんだ!」と認識します。しかし、人の多い公園やドッグランなどで姿がよく見えない、遠くにいるといった場合に頼りになるのは、やはり「声」でしょう。
今回の研究結果をふまえると、愛犬には常に普段話しかけているときの声を使うように意識すると良いかもしれません。
人混みの中で必死に愛犬を呼び戻そうと高ぶった感情で怒鳴ったり、いつものトーンよりも高すぎたり低すぎたりすると、飼い主の声だと分からない可能性も。
他人と自分を区別してもらうためには、いつも通りの声で話しかけることを心掛けたいですね。
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