6月某日、メールボックスを開いてみるとFacebookから「知り合いかも」というおすすめユーザーの通知が届いていました。いつもなら即、捨てるところですが思わず目を疑ったのはその名前。

 「Kimura Takuya」と書かれています……。木村拓哉!?!?

 木村拓哉さんといえば国民的大スター。知り合いというわけではありませんが、誰もが知る存在です。

 気になってプロフィールを開くと、使われている写真はどう見ても木村拓哉さん本人。しかしフォロワー数はわずか281人と、国民的スターのアカウントとは思えない少なさです。

 まぁ、間違いなくなりすましのアカウントでしょうが何が目的なのか?調査することにしました。

 アカウントを見てみると、プロフィール欄にLINEのリンクが掲載されています。恐らくここへ接触をうながしているのでしょう。潜入用のLINEアカウントで連絡を取ってみることにしました。

 登録しようとすると、画面下に表示されたのは「日本以外の電話番号で登録されているアカウントです。海外のアカウントを利用した詐欺にご注意ください」の文字。ほぼ答えがいきなり出てしまいました。あらら。

■ 「こんにちは」で即電話 怪しさ全開のやり取り

 気を取り直して、LINEの登録完了。早速「こんにちは」と送ると、すぐに相手から感謝を伝える旨の返信があり、さらにいきなり電話をかけてきました。

 大スターにしてはあまりにもフットワークが軽すぎる……。

 続けて、相手は木村さんのオフィシャル写真を添付し、あたかも本人であることを装いつつ、筆者の素性を知るために、自撮り写真の送付をしつこく要求してきます。個人情報の収集が目的でしょうか。筆者は今回、あくまで男性としてやり取りを進めるつもりだったので、生成AIで作った自撮り風の男性写真を送って対応しました。

 すると、その日は急に音信不通に。「しまった、女性設定にすべきだったか……」と、ここで調査終了も頭をよぎりましたが、翌朝しれっと「おはようございます」と送ると、再び返事がありホッとひと安心。調査続行です。

■ 突然始まる、謎の「認定ファン」勧誘

 気を取り直して、その後もやり取りを続けていると、木村拓哉を名乗る相手から唐突に質問が飛んできました。

 「あなたはどれくらい私のファンですか?」

 筆者にとって、木村拓哉さんは小学生の頃からドラマや映画でずっと見てきた、文字通り住む世界が違う憧れの存在。コンサートにも行ったことがあることを告げると、相手は急に熱を帯び、「認定ファン」という謎の制度を勧めてきました。

 聞くところによると、認定ファンには「一般」「レギュラー」「VIP」の3ランクがあり、VIPになると年3回のプライベートバンケットへの招待や、年に1度無料でヨットクルーズに参加できる特典があるのだとか。

 そしてそのVIP会員の料金は5万円。いやいや……木村拓哉さんクラスのスターなら、もし本当にそんなVIP制度を作ったら100万円でも応募が殺到するはず。それがたったの5万円?木村拓哉さんをぽっと出のインフルエンサーか何かと勘違いしてるんじゃなかろうか。

 ちなみに、一般会員のほうはというと会費1万円で「コンサートチケットが受け取れる」とのこと。うーん、どんどん怪しさが増していきます。

■ Appleギフトカード購入を要求

 さらに詳しく話を聞くと、VIP会員の登録のために、コンビニで「アップルカードを買ってきてほしい」と指示されました。

 アップルカードとはもちろん「Appleギフトカード」のことを指すもの。コンビニ等で気軽に購入できる反面、詐欺に用いられるケースが多いことでも知られています。他人にギフトコードを教えてしまったばっかりに、金銭をだまし取られてしまった……という被害が後を絶ちません。

 しかも、今回の場合は入会費の支払い。これをギフトカードで済ませることがあるわけありません。適当にあしらいながら支払いを引き延ばしつつ、銀行振込の場合だとどうなるのか?たずねると、どうやら銀行振込の場合は10万円が必要とのこと。なぜ2倍?そんなバカな。

 ここでも振込先を教えてもらうと、相手から提示されたのはまったく木村拓哉さんとは関係のない個人名義。相手によると「マネージャーの口座」だそうですが、木村さんほどの大物が個人名義で金銭のやり取りをするはずがありません。

■ 有名作品の話題を振るも、大スターのはずがまさかの大混乱

 ここまでのやり取りで100%偽物であることはわかりきっているのですが、相手がどのくらい木村拓哉さんについて理解しているのか?確認するために、過去の出演作品について聞いてみることにしました。

 まず、過去に出演したドラマでどれが一番好きかを聞くと、相手は8タイトルを列挙しましたが、その中に見慣れない「勇者」という作品名が。もしかして「HERO」のことか?

 これはツッコミどころがありそうと思い、田中要次さん演じるバーのマスターの名台詞について話を振ってみましたが、相手は完全スルー。何のことだか全然わかっていない様子です。

 さらに木村拓哉さんが主演したゲーム「ジャッジメント」シリーズについても質問。筆者はこのゲームの大ファンなのですが、2作が発売された以降は、続編の情報は一切出ていない状況です。そこで「続編は制作中か?」とたずねると「はい」と即答。もし仮に事実だとしても、漏らしちゃダメでしょう……。

■ ネタバラシで幕引き 最後は逆ギレする始末

 いつまでたってもお金を払う様子のない筆者に対し、相手は次第に苛立ち始めます。いよいよ支払いの意思がないことを伝えると、温厚だった態度が一変し、「あなたこそ詐欺師ではないか」と逆ギレしてくる始末。やれやれ。

 そこで筆者はついにネタバラシを決行。「今すぐ木村拓哉を名乗るのをやめてほしい」「日本の記者である」と告げると、「私は金持ちだ」「あなたには本当にがっかりしました」等と捨てゼリフを吐き、ほどなくして相手からの返信は途絶えました。

 当然ですが、今回の木村拓哉Facebookアカウントは真っ赤な偽物。本物の木村拓哉さんが個人アカウントで一般人とLINEを交換したり、Appleギフトカードで会費を集めるはずがありません。

 また、相手はこちらの質問に対し、ネットで拾える程度の浅い知識しかなく、出演作品の内容についても全く答えられない始末。古典的な詐欺の手口ではありますが、いまだにこうしたやり方で詐欺が続いていることに驚かされます。

 なお、偽木村拓哉のLINEアカウントは今も生きていますが、Facebookアカウントのほうは削除されたようです。しかし、こうしたなりすまし問題は正直いたちごっこ状態。しばらくすればまたアカウントが復活、もしくは別の人物の名を騙ってアカウントが作られるでしょう。皆さんも、SNSで急に接触してくる「有名人」にはくれぐれもご注意ください。

(山口弘剛)

Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 山口 弘剛‌ | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2025072201.html
情報提供元: おたくま経済新聞
記事名:「 ちょ、まてよ。それ何のドラマだよ!「勇者」出演の偽キムタクとLINEで対峙した一部始終