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「検査(手術)の前日の夜9時以降はご飯食べないでください。水分は朝〇時以降は飲めません」といった感じで検査や手術の前の日に医師か看護師から説明を受けた経験がある人、まあまあいると思います。
大方の人はちゃんと絶食の意味を理解してくれるのですが……なかには「違う、そうじゃない」と頭を抱えてしまうことも。そんなエピソードをご紹介します。
(看護師ライター:梓川みいな)
※本稿に掲載する事例は、実際に筆者が見聞きした話をもとにフィクションを交えて紹介しています。
大人の定期テストみたいなノリの健康診断。Aさん(40)は初めての胃カメラにドキドキしていました。
前日から「胃の中を空っぽにして検査に来てください」とは言われていたものの、どうにもソワソワと落ち着きません。
Aさんは、「お茶でも飲んで落ち着こう」と、検査の30分前に大好きなミルクティーを飲んでしまいました。これがただのお茶だったらまだ良かったのですが……。
いざ胃カメラを鼻からいれ、画像をモニターで見た医師「濁ってて何も見えん」とすぐさま胃カメラを抜いてしまいました。
何故こんなことが起きたのか?実はAさん、お茶なら乳製品が入っていても大丈夫だと思ってしまったのでした。
ミルクティーやヨーグルトなど、固形物でなくても乳製品が胃の中に入ってしまうと、その中に含まれているタンパク質や脂肪分が胃の粘膜を覆ってしまい、クリアな画像を撮ることができなくなってしまいます。
こんなことがないように、検査の前には医療スタッフは必ず「検査当日は『水だけ』なら飲んでも大丈夫ですが、他は不可です」と伝えることが多いです。
軽い認知症を患っており、自宅で介護を受けていたBさん(70代後半)は、骨粗しょう症が酷く、自宅で敷いてあるお布団に足を取られて派手に転んでしまいました。
結果、足の付け根ががっつり折れてどうにもならない状態に。手術が必要と診断されて入院となりました。
筋肉はしっかりしていたので普通に歩き回る事ができていたBさん、足の痛みが骨折からくることは理解できても入院していることは微妙に理解が難しい様子。看護師の顔を見ると「あらここ病院なの?私は入院していたわね」と思い出すのですが、日課のお茶の時間がないので何だか不穏。足の手術は翌日に迫っています。
人工関節に取り換える必要があることから全身麻酔で手術と決定。その日の夕食はなし。だったのですが……。
夕ご飯は禁止となりお茶の時間以降不穏が増していくBさんに付き添っていた家族が「おなかが空いているのを見ていて可哀そうになってしまって」と、面会時間が終わるギリギリの時間にBさんの好物であるサラミやお菓子を食べさせてしまいました。
全身麻酔の前に何も食べないようにするのは、万が一麻酔をかける時に嘔吐した場合、気管に吐物が入って誤嚥(気管や気管支に吐物を吸い込む)ことを防ぐためとなることを防ぐため。
結局、手術はスケジュールを調整し、2日半遅らせて行う事となってしまいました。オペ室で待機していたスタッフが悲しそうな顔をしていたのは言うまでもありませんでした。
いつ生まれてもおかしくないという臨月のCさん(23)は、初めての出産に向けてせっせと支度中。その日はベビーカーの梱包を解いて玄関の決めた場所に置こうと頑張っていました。
ダンボール箱を持ち上げたCさん、「バシャッ」という感触とともに股から液体がとめどなく流れてくる状態にパニックに!慌ててかかりつけの産婦人科に電話したら「すぐにタクシー呼んで来院してください!帝王切開になるかもしれないから」と言われ、慌ててタクシーを呼び、病院へ。
そのまま保険証セットと準備してあった入院セットだけ持ってすぐに病院に行ったものの、Cさんは重大な過ちを犯してしまいました。それは、タクシーの車内で自宅にあったパンを食べてしまったこと。丁度お昼前ということもあり、大好きな総菜パンを用意していたのでした。
「ご飯食べないでそのまま来てください」と言われたので慌てちゃって車内でパン食べちゃった、とCさん。帝王切開になれば長丁場になるかもしれないし、腹ごしらえしないと、と。違う、そうじゃない……。
ご飯を食べないでというのは「悠長に食べてる暇はないから」ではなく、「胃に食べ物を入れないで来て欲しかった」という意味だったのです。
これはスタッフ側にも説明不足の落ち度があったと言われればそれまでの話ですが、電話口で慌てている人についつられてしまうこともあるでしょう。スタッフ側に求められるのは、常に冷静であることと正確で分かりやすい説明をすること。
幸い、Cさんは全身麻酔をせずに腰痛麻酔のみで帝王切開を行うことができ、事なきを得ました。
このケースは実際に筆者が見聞きした話をもとにフィクションを交えて書いたものですが、結構あるんですよこういうの。
医療スタッフはなぜ検査や手術前に飲んだり食べたりしてはいけないかを正しく理解しないと患者さんに正しい説明ができません。また、患者さんの理解度が不足している場合は付きそう家族にも説明と理解を求める必要があります。
緊急度が高い時ほど慌ててしまいがちですが、患者さんは大事なことだけは守るように、医療スタッフは絶飲食を守れるように落ち着いて、冷静に、分かりやすく説明を繰り返すことが大事ですね。
医療監修:井口光孝医師(日本内科学会総合内科専門医)
イラスト:看護roo 看護師イラスト集