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バレリーナの象徴である「トゥシューズ」。つま先だけで体重を支えられる特殊な靴なので、よく「木」や「金属」などの硬い素材でできていると思われていますが、実は違います。
今回「トゥシューズって何でできているの?」という疑問に答えるべく、完全に履きつぶしたトゥシューズを分解してみました。長年トゥシューズを履いている筆者でも「こんなものが入ってたの?!」と驚く結果に……!
ちなみに、本稿で使用しているトゥシューズは、筆者が愛用しているRクラスのアルマッズというトゥシューズです。
※トゥシューズの表記について:「toeshoes」をカタカナ表記する場合「トーシューズ」が正しいとされていますが、本稿では日本にあるバレエ用品店やバレエの専門書籍等が主に使用している「トウシューズ」「トゥシューズ」の2つのうち、「トゥシューズ」を優先して使用しています。
バレエで使用するシューズには、バレエシューズとトゥシューズの2種類があります。
バレエシューズは、布だけでできた柔らかいシューズで、トゥシューズのようにつま先立ち(シューズの先で立つこと)はできません。バレエシューズは、バレエをしている全ての人が履くシューズです。男性も履きます。バーレッスンやセンターレッスンと呼ばれる基礎練習(クラスレッスン)では、一般的にバレエシューズを履くことが多いです。(プロのダンサーなど上級者は、クラスレッスンからトゥシューズを履く人もいます)
一方、トゥシューズは、バレエの基礎や筋力が身につき、先生から「履いても良い」と許可された人のみが履けるシューズです。つま先(ボックス)や足の裏(ソール)が硬くなっているため、つま先立ちができます。女性のみが履くシューズですが、ごく一部の作品では男性ダンサーがトゥシューズを履いて踊ることもあります。
まずは、トゥシューズでつま先立ち(オン・ポワント)を可能にしているつま先部分(ボックス)を、ハサミでジョキっと切ってみました!
……が、1.5cmほど切り込みを入れたところでストップ。布が厚くて、筆者の力では一気に切ることができなさそうです。そのため、まずトゥシューズの表面を覆っているサテン部分のみに切れ込みを入れてみました。サテンは薄く、簡単にトゥシューズの先端まで切ることができました。
サテンをめくると、麻の布のような薄い布(布Aとします)が出てきました。筆者が履いているRクラス・アルマッズの場合、シューズの内側やインソール(足の裏に接するほうのソール)の表面に貼ってある布と同じ布です。
続いて、先ほど出てきた布Aを縦に切っていこうとしたのですが、ハサミが入りづらいため、履き口を少しカットすることに。(筆者が使っているアルマッズにはありませんが)通常、引き紐が入っている部分です。
布Aをカットすると、もう少し硬めの布が出てきました(布Bとします)。布Bは、布Aと糊付けされていたようで、軽く剥がす必要がありました。サテンや布Aは、つま先部分だけでなく、トゥシューズ全体を覆っているのですが、布Bは指の付け根から指先までを覆う程度の長さです。
布Bを剥がしてみると、ついに私たちのつま先をサポートしてくれている部分が見えてきました!上から順に、薄い紙・麻紐で編まれた布・細い紐でできた粗い布・布Aと同じ素材(シューズの内側、足に接する部分)となっていました!
薄い紙は、まるでティッシュのようですが、つま先部分は硬くなっており、おそらく糊や何らかの加工によって固められているのだと思います。履きつぶしたトゥシューズですが、薄い紙部分を爪で叩くと「カンカン」と音が鳴るくらい硬いです。紙の下にある麻紐の布が見えたときは、一瞬「え……私、トゥシューズカビらせちゃった……?」と思ってしまいました。それほど、トゥシューズの中に、麻紐の布が入っているとは思わなかったのです。
薄い紙はおそらく2層、麻紐の布・細い紐でできた粗い布・布Aは1層で、つま先から3cmほどが硬くなっていました。新品のトゥシューズを上から押したときに凹まない部分があるのですが、その凹まない部分がちょうど硬くなっている部分と一致しました。
こうして分解してみると、木や金属など”元々硬い素材”が入っているわけではなく、さまざまな素材が重なってできていることがわかりました。
続いて、足裏の部分(ソール)を分解してみます。一番足の裏に近い表面には、さきほど登場した布A(麻の布のような薄い布)があります。
布Aを剥がすとフェルトが出てきました。布Aとフェルトはかなりしっかりと接着されており、完全に剥がすことはできませんでした。
フェルトをめくると厚さ3mmほどの板状のものが。こちらが「シャンク」と呼ばれるものです。厚みはありますが(剥がしたあとのシャンク単体であれば)手で簡単に曲がります。素材が何かまではわかりませんでしたが、例えるなら厚みのある革のような感じです。決して「木」や「金属」ではありません。シャンクとフェルトもしっかり接着されており、剥がせませんでした。
シャンクをめくってみると、太めの糸で縫われていることが判明!糸を切りながら、シャンクを剥がしていくと、シャンクの下には特殊な形をした板状(板Aとします)のものが……!
板Aは、ホチキスでシャンクと留められており、剥がすのにかなりの力がいりました。紙が何層かに重なってできており、厚さは2mmほど、長さは指先から土踏まずくらいまであります。
シャンクを縫いとめていた糸は、床側のソール(アウトソール)と縫われていたようで、シャンクを縫いとめていた糸を切るとアウトソールも外れました。ここで初めて、サテンの端を発見!
インソール(足の裏に接するほう)とアウトソールを外すと、トゥシューズはペラペラに。つま先部分だけを持つと、へにゃっと曲がってしまいます。
ソール部分は、足裏に近いほうから布A・フェルト・シャンク・板A・布A(シューズの内側)・アウトソールとなっていることがわかりました。(下記の写真では、布A・フェルト・シャンクが一体化しています)
こちらも、つま先(ボックス)部分同様、さまざまな素材が重なってできていますね。
トゥシューズを分解してみると、布や紙、厚さ2〜3mmのソール(柔軟性あり)など、意外と一つひとつの素材は薄いことがわかりました。
糊や加工で固められているものの、これらの素材で体重を支え、身体の動きをコントロールしているわけです。「よくこれを履いて踊っているよなぁ……」とトゥシューズで踊ることの難しさを再認識しました。
今回は、筆者が使っているトゥシューズを使用しましたが、メーカーや種類によって、使われている素材や覆われている範囲などが違います。一度、履きつぶしたトゥシューズを分解してみるのも、トゥシューズを知るうえでヒントになるかもしれません。
また、お子さんの夏休みの自由研究などにも良いでしょう。ただし、トゥシューズによっては釘やホチキスが使われていたり、剥がすのに力が必要だったりするため、怪我には十分気をつけてくださいね。
(上村舞)