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3月といえば卒業シーズン。各地の学校で卒業式が行われています。卒業式では卒業アルバムや卒業文集が配られるのも定番ですが、最近ではアルバムを一律に配るのではなく選択希望制にする学校や、自分たちがスマホで撮った写真があるからアルバムはいらない、といった意見も散見されます。
昔とは少し捉え方が変わってきた卒業アルバム。紙媒体とデジタル、それぞれの長所と短所について考えてみましょう。
卒業アルバムの源流にあるのが、クラスでの集合写真。筆者の実家には明治末期に撮影された祖父の小学校卒業時のクラス写真が残されているので、この時代にはすでに存在していたことが分かります。
当時はカメラを所有している人が極めて少なく、写真は写真館などで専門家から「撮ってもらう」ものでした。撮影するのも人生の節目など特別な場合に限られ、学校の卒業はまさに写真を撮る数少ない機会だったといえるでしょう。
卒業アルバムが登場するのは、もう少し時代が下ってから。第二次世界大戦後には、ほとんどの学校で卒業アルバムを作るのが一般的になりました。現在のようにクラス写真や学校行事などのスナップ、巻末に社会の写真年表という構成は、1970年代末ごろにはすでに定着していたようです。
かつて、学校生活にカメラを持ち込んでいるのは写真部の生徒か、修学旅行などの特別な機会に限られていました。それが様変わりしたのは携帯電話、特に高画素のカメラを内蔵したスマホが一般化したことがきっかけです。
いつでもどこでも、スマホでクラスメイトと撮影することができるようになった今、普段の学校生活や行事では生徒それぞれが思い思いの写真を撮り、SNSやクラウドを通じて共有しています。そういった意味では、わざわざプロの手を借りて卒業アルバムを作らなくても、思い出を残せる時代なのかもしれません。
また、昨今は事件などの報道に卒業アルバムの写真が使われることもあり、個人情報を含むプライバシーの問題も出てきています。しかも判型が大きくかさばるため、保管するにしても大変です。
こうした影響からか、一部の学校では卒業アルバムを作っても一律に配るのではなく、希望する生徒のみに配布する方式を採用するケースも。
アルバム制作業者でも写真をデジタルデータとして保存し、アルバムを作れるサービスを展開。業界大手の会社では、スマホやタブレットで見るデジタルアルバムのほか、デジタルアルバムと紙のアルバムを自由に選べるアプリも提供しています。
デジタルデータは枚数が多くてもかさばらず、データが劣化しないことが最大のメリット。複製も簡単で、必要に応じてクラウド上で共有することもできます。
これに対し紙のアルバムは大きく重く、書棚でスペースをとってしまいます。引越しや独立の際、実家に置いてきてしまった、という方も多いのではないでしょうか。
しかしデジタルデータにも弱点があります。それは「データが読み出せなくなる」こと。クラウドで保管していた場合、そのサービスやサーバがずっと提供され続けるとは限りません。
またファイル形式や記録するメディアの種類に依存しているため、将来対応する(読み込んで表示する)機器がなくなってしまう可能性があります。ほかにもデータが壊れていないかを外部から確認できないため、知らないうちに読み込めなくなってしまうことも考えられます。
今ではフロッピーディスクやMOがほとんど使われていないことでも分かるように、たえずファイル形式や記録メディアを新しいものに変え、バックアップし続けなければならないのがデジタルデータ。思い出をずっと残しておきたい場合、将来にわたって保証され続けるとは限らないのです。
紙に印刷されたアルバムの場合は、日焼けや水濡れ、破損があっても写真自体は見ることができ、破損についても修復が可能です。場所はとりますが、バックアップを気にせず何十年後も開いて見ることがきるのがデジタルデータにはない長所といえるでしょう。
劣化しないと思われるデジタルデータも、保存するファイル形式やメディアによっては20年〜30年程度で見られなくなる危険があります。かといって大きく重い紙のアルバムをずっと保管しておくのも大変です。
これからの卒業アルバムは、ずっと残しておきたいものは紙で、みんながそれぞれで楽しみたいものや紙に残せない映像と音声はデジタルデータで、という具合に用途を分けて作るハイブリッド型が主流になりそうです。作る学校側がそれぞれの長所と短所を把握し、使い分ける判断が必要かもしれませんね。
(咲村珠樹)