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1996年の発売以来、世界中で愛されているゲーム「ポケットモンスター」。
記念すべき第1作である「赤・緑」は、日本の関東一帯をモデルにした「カントー地方」が舞台となっていますが、これを紙のジオラマで完全再現した人物が現れました。
2年を超える制作期間を経て爆誕した「ペーパークラフト・ポケモンマップ」には、Twitterを通じて世界中から称賛の声が寄せられています。
制作者は会社員のUMA(うま)さん。小学1年生の時にポケモンに出会い、「赤」を夢中でプレイしていました。
しかしそんなUMA少年に、ある一つの疑問が浮かびました。それは「なぜ下から登ることが出来ないのだろう?」というもの。
実はゲーム内には無数の「段差」が存在しており、主人公が徒歩で移動する際に、下ることが出来ても、登ることが出来ない仕様となっていました。それは途中で入手する「自転車」においても同様。「緑」プレイヤーだった当時小学生の筆者も、ゲーム画面を見ながら「なんでや……」と何度もつぶやいたものです。
「『この段差を立体に起こすとどのような眺めになるのだろう?』という軽い気持ちがきっかけでしたね」
時は流れ2020年6月。30歳になったUMAさんは、折しものコロナ禍により「おうち時間」が増加します。時間的余裕が生まれ、何かできることはないかと思案している時に浮かんだのが子どもの頃の「疑問」でした。
もともと工作好きなこともあり、「ポケモンマップ」制作を決意。画用紙等の「紙」を用いて、「カントー地方」の再現に挑みました。
20数年の時を経て、「答え合わせ」に挑戦することになったUMAさん。1マス1センチの計算で、方眼ノートに製図をするという下準備をし、建造物や森林などの部分も紙で制作しました。
ところで、初代ポケモンの対応機種といえば初代ゲームボーイ。モノクロの液晶画面に表示される「ポケモンマップ」のドット絵を見つめながら、多くのプレイヤーたちは、電池切れの恐怖にも怯えつつプレイしたものです。
この“モノクロ”という表示特性もあり、マップ上に点在する「段差」は、下った際に鳴る「ボコッ」という効果音でしか実感できませんでした。
また当時は、現在のような細かいグラフィック表現は行われておらず、UMAさんは立体化するにあたって幾度かの「調整」を施しています。
「例えば海面の高さを素材のボードの『1センチ』と設定したら、同時に街や道路は、最低でも『2センチ』より上にしなければなりません。なので、所々傾斜をつけて納めた部分もありました。ただ、構造そのものに手を加えるような『変更』はしていません。モデリングを担当された方の凄さを実感しましたね」
シナリオ冒頭で“さよならバイバイ”する「マサラタウン」を起点に、カントー地方は10の街に8のジム、「おつきみやま」「サファリゾーン」などのダンジョン、じてんしゃで疾走する「サイクリングロード」をはじめとした道路、ひでんマシンの「なみのり」を駆使して遊覧する海、最終地点「ポケモンリーグ本部」につながるセキエイ高原などと、道中様々な見どころが存在します。
プレイヤーたちにとっては、どこをとっても思い出深い場所ばかり。そしてそれはUMAさんにとっても同じで、大いなる「リスペクト」の精神を抱きながら、紙で事細かな部分まで忠実に再現。その中でも、「『そんなのあったなあ』と皆さんに懐かしんでもらえるような」小ネタを随所に仕込んでいます。
とりわけこだわったものの一つに挙げたのが、ゲーム中盤に登場する「ヤマブキシティ」。劇中様々な場面で相対する敵組織「ロケット団」と激突した「シルフカンパニー」に、思わずニヤリとする仕掛けを施しています。
それはビル屋上に、「マリオ(スーパーマリオブラザーズ)」「ネス(MOTHER2)」「キャプテン・ファルコン(F-ZERO)」「カービィ(星のカービィ)」「フォックス(スターフォックス)」「リンク(ゼルダの伝説)」「ドンキーコング(スーパードンキーコング)」と、他作品のキャラがなぜか一堂に会しているというもの。あっ、このラインナップは!
お察しの方も多いかもしれませんが、実はヤマブキシティは、1999年に発売されたゲーム「ニンテンドウオールスター 大乱闘スマッシュブラザーズ」にて、バトルステージの一つに選ばれたマップ。UMAさんは、シルフカンパニー屋上を“スマブラ仕様”に変更したのです。
「夢のコラボ」という名の遊び心を加えた一方、再現性にこだわったのが、タマムシシティからセキチクシティに繋がる「17番道路」。いわゆる「サイクリングロード」です。
ハナダシティで入手し、それまでのスピード感が一変する乗り物「じてんしゃ(自転車)」に跨がり、北から南(タマムシ→セキチク)へ駆け抜けるエリアですが、他よりも移動速度が増し、反対側から(セキチク→タマムシ)へ進めば半減するという仕様は、ジオラマの高低差を伝えるにはうってつけです。
しかしそれは、2年の制作期間における最大の難関でもありました。17番「道路」とはいうものの、その実はしまなみ海道のような高架橋である道路構造が主だった原因でした。
「『長距離で傾斜のある橋』を立体に起こすとすると、これまでにメインの材料として使っていた『画用紙』や『カラーボード』では自重が支えられずに、下方向に大きな『弧』を描くことになってしまったんです。どうすれば解決できるか色々と悩んだ部分でしたね」
なかなか打開策が見つからなかったUMAさんですが、思わぬところから手を差し伸べてくれる人物が現れます。
それは自身がこれまで制作風景を配信し続けていたYouTubeチャンネル「UMAのクラフトチャンネル」がきっかけでした。
「視聴者の中に現役の建築設計士の方がいたんです。その方から、橋の補強案などのアドバイスをいただき、自分でも橋の構造を勉強して、最終的に『吊り橋』にすることで対応しました」
既にプロの建築士さながらの制作を続けていたUMAさんですが、ここで“本物”のエッセンスを加えることになりました。「設定」とは異なるものとはなりましたが、無事問題解決。同時にある「矛盾」も解消します。
それは、クチバシティに停泊している豪華客船「サント・アンヌ号」。第一のひでんマシン「いあいぎり」を獲得する重要ポイントです。
「船が橋の下を抜けることができるようになったんです。満足な仕上がりになりましたね」
実は当初の設計だと、東側に位置するサント・アンヌ号は“湖”に閉じ込められ、大海原へ抜け出せないものとなっていました。結果的に、UMAさんはプロからのアドバイスにより積年の課題を解決したことになります。
ところで、編集部では、過去にUMAさんのジオラマ制作の様子を記事で紹介しています。
2020年10月に配信した記事では、第1のジムリーダー「タケシ」が待ち構えるニビシティの完成を目前に控えるという制作状況。この時も筆者が担当しましたが、UMAさんのポケモン愛と、すさまじいまでの作品へのこだわりぶりにただただ感服しました。
一方で、「これは完成までに相当な時間がかかるだろうな」という感想も同時に抱いていました。それは現実のものとなり、完成したのは1年9か月経った2022年7月。
「今だから言えますが、1センチマス計算で作ったが故、作品がここまで大きくなり過ぎました。実は序盤の時点で後悔していたりします(笑)」
最終的に4000時間もかけて刻み続けた1センチマスは、最終的に横幅が3.6メートル・奥行き3.9メートルにまで“増床”しました。ジオラマというよりはオブジェと言った方が、より近しい表現なのかもしれません。
「YouTubeでもTwitterでも100%バズるネタを思いついたけど行動に移す元気がない」
制作に着手した当初、まるで未来を予見するかのような投稿をしていたUMAさん。
「元気」に加えて、継続する「勇気」と、最後まで諦めない「根気」を出した結果、作品は、ポケットモンスターシリーズのゲームミュージック作曲者である増田順一氏を含めた、世界中のポケモンファンから激賞される傑作となりました。
と、ゲーム内ではここでクリアになりますが、UMAさんの旅は終わっていません。
「カントー地方」からはじまったポケットモンスターですが、26年が経過した現在では、日本どころか世界中の都市を舞台にした作品が発表され続けています。
その中でUMAさんが次なる舞台に選んだのは、シリーズ第2作「金・銀」の舞台である「ジョウト地方」。近畿地方をモデルとしたここは、カントー地方と「繋がり」があります。
「シリーズで唯一地続きになっているんです。やはりこの2つは並べたいですね」
その言葉通り、完成の余韻も冷めやらぬ翌8月より制作に取り掛かったUMAさん。もうちっとだけ続くんじゃ。
<記事化協力>
UMAさん(@UMA_RABBIT)
(向山純平)