世界をリアルに表現したジオラマ作品は、それが実際の風景か否かを問わず、細かいところまで見入ってしまうもの。特に鉄道模型では、多種多様な素材が山河や海、そして鉄道施設作りに使われています。

 トンネルも、鉄道風景に花を添えてくれる施設の1つ。厚紙やスタイロフォーム、パテなど様々な素材で作られますが、実際のトンネルと同じく、セメントを使ってトンネル内壁を作り上げたモデラーがいます。

 飽き性モデラーさんは、小学生の頃から鉄道模型を自作するほどのモデラー。現在は軌間9mmのNゲージを主に、車両にギミックを仕込んでディティールアップして楽しんでいるそうです。

 ジオラマを手がけるようになったのはTwitterを始めてから、とのこと。最初に手持ちの車両が映える機関区をイメージした小品を作ったところ、ジオラマ作りの面白さに目覚め「欲を出して」JR信越本線の新潟県区間、鯨波駅~青海川駅をモチーフにした大型ジオラマ作品を作り始めたのだとか。

 今回、Twitterとブログにアップした「セメントで作ったトンネル」は、現在制作しているジオラマの一部を構成するもの。新潟県柏崎市、鯨波漁港の裏山を通る鯨波トンネルの青海川駅側ポータル(坑口)がモデルとなっています。

 リアルなものを作るには、実際に現地踏査しての資料集めが重要。現地に行ってトンネル入り口の様子や、周辺の施設などを撮影し、作品作りの参考とします。

 本物のセメントでトンネルを作ってみよう、と思い立ったのは、たまたま訪れた100円ショップで、同行者から「セメントがあるよ」と教えられたことがきっかけ。

 モルタルなどの補修用に売られている商品で、こんなものまで売っている、という意味での発言だったのではないかと思いますが、作品作りのヒントになったようです。「石膏やパテのように、セメントでも造形できるのではないかと考えました」と、早速購入。

 ポータル部分は、Nゲージの複線トンネル用に作られている市販のストラクチャーを活用して寸法を出し、トンネル内部の覆工(表面)コンクリート部分をセメントで造形することに。ポータルの開口部に合わせ、曲線断面の型枠を厚紙で作ります。

 実際のトンネル同様、型枠材で施工されているように見せるため、厚紙の型枠表面に短冊形に切ったプラ板を貼り付けていきます。曲面に隙間なく敷き詰めるように貼る作業は、かなりの忍耐を要求しそうです。とにかくコツコツと貼り込みます。

 内側の型枠が完成すると外枠内に設置し、いよいよ水で溶いたセメントを気泡ができないよう流し込みます。このセメントは手軽に使えるよう、すでにセメントと細骨材の混合品となっており、水と混ぜるだけでモルタルになってくれます。

 十分に硬化したところで、外側と内側の型枠を取り外します。柔軟性のある厚紙を使ったおかげで、内側の型枠も難なく外すことができたとのこと。

 今回は半分実験のつもりで、失敗してもいいやという気持ちで取り組んだそうですが、実際に型を外した表面の出来栄えは「読み通り、型枠跡もしっかり出てくれたので、本当に嬉しかったです」と飽き性モデラーさん。目論見はうまくいったようです。

 実物のセメントを使ったため、表面の質感は本物そっくりのリアルさ。そのため、改めて塗装はぜず、年月による変化を表現するウェザリングや、側面に書かれた注意書きなどのディティールアップにとどめたそうです。

 経年変化や、車輪とレールによる鉄粉の飛散といったウェザリングについては、「普段はエナメル塗料などを使っているのですが、セメント表面では滲んでしまい、うまくいきませんでした。ですのでパステルをメインに使っています」と、飽き性モデラーさん。初めての素材ならではの試行錯誤があった模様です。

 セメントに含まれる炭酸カルシウムの析出(白華現象)や雨水の漏出跡は、エナメル塗料のドライブラシや、ウェットクリアーのウェザリングペーストを使用。ロケハン時に外から確認できた内壁の「MTT100」というマーキングも再現しています。

 さらにディティールアップのため、内壁には信号ケーブルなどを設置していきます。「ケーブルは素材、細さを使い分けて表現しました。ケーブルの取り付け金具はプラ板で自作しています。視点を変えながら、少したわんで見えるように調整しました」と、細かいところにまで神経を行き渡らせたそうです。

 天井には、潮風でサビの浮いたトロリ線と吊架線、き電線を支える金具も設置。また、退避口の上にはELワイヤーを使い、照明の蛍光灯も設置しています。

 初めてセメントでトンネルを作った感想をうかがうと「良かった点は質感です。これは塗装では出せないと思います。今後の課題としては、セメント特有の気泡が目立ってしまったので、そこを消せるともっといい造形になるかなと思います」。やはり本物に勝る質感はないと感じたようです。

 もう1つ、重要な課題として挙げてくれたのは、その重さ。「セメントだけありかなりの質量です。多用しすぎるのも厳しいと考えられ、バランスを考えないといけないなと感じました」という、経験者ならではの貴重な情報も明らかにしています。

 本物のセメントでできたトンネルは、Twitterに投稿されると注目を集めました。これについては驚きつつも嬉しく感じたそうです。しかし、「ここまでツイートが伸びるのであれば、もっと綺麗な写真を撮っておけばよかったと思いました……」という反省点もあったとのこと。

 重量があるため、使うところや規模については一考する必要があるものの、本物同様の質感がセメントで出せると知った飽き性モデラーさんは、応用についても最後語ってくれています。

 「まだはっきりとした構想はありませんが、高速道路など鉄道以外のトンネルも作れたら面白いかなと思いました。また、ほかのセメント構造物にも応用できるかなと思っています」

 本物のセメントを使ってトンネル内部を作る、という発想にも驚きますが、本物ならではの質感はさすがの一言。ジオラマベースの強度や重量バランス調整など、考慮するべき点はありますが、チャレンジしてみる価値はありそうです。

<記事化協力>
飽き性モデラーさん(@get_bored13)

(咲村珠樹)

情報提供元: おたくま経済新聞
記事名:「 本物のセメントでトンネルを作成!こだわり光る信越本線のジオラマ