ダンボールという素材を愛し、これまでに数多くの精巧な立体作品を世に送り出してきた「ダンボール女子」こと大野萌菜美さん。2022年5月16日、Twitterにて最新作を発表しました。

 作り上げたのは、宮崎駿監督の映画「ハウルの動く城」に登場する、動く城のファンアート。生物的なボリューム感と繊細なディティール表現、見どころの多い力作です。

 大野さんはいつも「私が好きでリスペクトしているもの」を、作品のモチーフに選んでいます。この「ハウルの動く城」も、大好きな映画作品に登場する魅力的な存在を、ダンボールという素材を用いて愛情たっぷりに表現しました。

 細かな部分まで神経が行き届いている作品ですが、実は作品作りにあたって、設計図を用意することはないんだとか。今回も「両手でサイズ感を決めて、そこから立体に起こしていきました」と語ってくれました。

 わざわざ図面に起こさなくても、目指すべき形が明確にイメージできているからこそ可能な制作方法。もちろん、イメージを固めるためにはたくさんの資料にあたったとのこと。

 「映画を見たり、本を見たり、ネットを使って資料を集めました。ジブリのグッズショップにも見に行ったりしました。動く城はいろいろな解釈がしてあるので、できる限りいろんな『動く城』を調べました」

 イメージとサイズ感が固まると、いよいよダンボールを切り出して作業に取り掛かります。まずは宮崎監督独特の曲面に満ちた本体部分のフォルムから。

 内部に補強を入れつつ、張り子のような感じでフォルムが出来上がっていきます。直線的な構造であれば、俗に「箱組」と呼ばれる手法で作っていけますが、曲面の表現は丈夫なダンボールにとって難しい部分。

 柔らかめのダンボールを使ったりと、試行錯誤を続けた大野さん。

 「平面のダンボールから丸みを作るのに苦労しました。素材はダンボールを使うと決めているので、難しい部分があってもダンボールで表現するために日々試行錯誤しています。難しい部分ですが、一番楽しい部分です」

 大きなフォルムの表現とともに、細かい部分の再現も作品の魅力。口にあたる部分の奥、大きく出した舌の隙間から見えるか見えないか……といった壁の部分も妥協せず、レンガや柱にいたるまで表現しています。

 動く城は、メカっぽい城であるとともに魔法使いハウルの「住居」でもあります。納屋や建物といった住居部分も作っていきますが、大きな部分と小さな部分を並行して進めることで、行き詰まりを避ける気分転換にもなるようです。

 ちょうどお尻の部分にある、入り口ドアもしっかり表現。別の建物部分では、表面に塗ったしっくいが剥がれ、中のレンガ構造が見えるようにもなっています。


 砲塔も完成し、徐々に動く城らしさが出てきました。脚の付かないこの段階で見てみると、ちょっと魚のようにも見えてきますね。

 城の後ろにくっつく煙突は5本。それぞれが微妙にゆがみ、ねじれながら存在しているので、このバランスも難しいところです。この煙突は取り外し可能にしてあるとのこと。

 レンガや石積みとともに、動く城の重要なディディールがリベット。これも細く切ったダンボールを丸め、1つずつ丁寧に貼っていきます。

 脚を取り付けると、一気に生物っぽさが出てきます。この動く城は内側からどんどん肥大したような形になっているため、フォルムとしては重心が高くアンバランスなフォルム。

 それでも4本の脚でちゃんと自立できるよう、脚の強度や全体のバランスも考慮して作ってあるのだとか。うまくまとめ上げる感覚の鋭さは驚くばかりです。


 完成した動く城は、ハウルという魔法使いが自身の膨れ上がる感情をそのまま反映させたかのような、無機物でありながら生命感たっぷりの姿。「一番力を入れたのは全体のフォルムです」との言葉通り、今にも煙突から煙を吐いて動き出しそうです。

 リベットでつぎはぎしたディティールもそのままに、異形ながら愛らしいフォルムの「動く城」。これからどこへ歩いていくのか、ついつい想像したくなりますね。

<記事化協力>
大野萌菜美さん(@mbrid02)

(咲村珠樹)

情報提供元: おたくま経済新聞
記事名:「 ダンボール女子の最新作「ハウルの動く城」曲面表現と4本脚で自立する姿に驚愕