昨今は有力な商品の購買動機にもなっている「SNS」。「バズ投稿経由」ともなると、購入者が殺到し、結果売り切れなんてこともしばしば。

 各企業もそれを意識した商品作りをするようになっていますが、岩手県にある「南部鉄器工房及富(おいとみ)」の職人である菊地海人さん(以下、菊地さん)は、「一過性かどうかの見極め」も重要であると、自身のTwitterで発信しています。

「いいねはつきにくいけど人気のある鉄瓶ってある。それは昔からあるスタンダードなもの。もの作りにおいて、バズを指標にし過ぎると見失うものがあるから、一過性のものか見極めが必要」

 この日、1枚の写真を添えながら、上記のつぶやきをした菊地さん。そこに写っていたのは、南部鉄器独特の黒い鉄瓶「小あられ」。自身の祖父である、及川修氏が制作を手掛けたそうです。

 菊地さんは、1000年近い歴史を通する日本を代表する伝統工芸品「南部鉄器」の現役職人の傍らで、自身のSNSで積極的な広報活動をされている人物。

 その投稿は都度話題になり、編集部でも元号変更にちなんで制作した「令和急須」、人気アプリゲーム「刀剣乱舞」登場キャラクターの紋様と偶然似ていたことが話題となった「鶴のことほぎ」について記事として紹介しています。


 言うなれば菊地さんもまた、「バズ投稿経由」の“恩恵”を受けた身。その上で今回敢えて投稿したのは、同時に「南部鉄器古来の伝統を強く意識している」という面もあってのもの。

 今回の投稿に寄せられたいいねの数は約1000。相応の反響ではありますが、先述の記事の発端となったものを含め、菊地さんの投稿は、度々万を超えるいいねが寄せられます。

 しかしながら、今から約50年前に取り扱いを始めたという「小あられ」は、今も変わらず不動の人気を誇る商品とのこと。

 取材にあたり筆者は、菊地さんに「小あられ」の販売リンクも紹介していただいているのですが、そこを覗いてみると「次回3月下旬受付再開予定」との一文が。確かに「いいねはつきにくいけど人気のある鉄瓶」という言葉通りの売れ筋でした。

 とはいえ、続く投稿で菊地さんが述べられているように「現在のスタンダードはかつての最先端のものでもあったりする」のであり、バズ経由が全て「一過性」で終わるわけではありません。ただ、いつ何時も基準となる「原点」は大切である、というのが今回の話。昨今の商いは、その見極めも重要なスキルとなっていますね。

 そんな菊地さんは、もちろん最先端の取り組みにも都度挑戦されています。前回紹介時(2021年夏)はクラウドファンディング、そして今回(2022年冬)は越境ECを始めたとのこと。伝統と革新、両方を併せ持った希代の南部鉄器職人、今後の動向に要注目です。

<取材協力>
菊地海人さん(@kaito_kiku327)
南部鉄器工房及富(https://oitomi.jp/)

(向山純平)

情報提供元: おたくま経済新聞
記事名:「 バズだけが全てではない 南部鉄器職人が語る「一過性の見極め」の大切さ