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遂に2010年第1クールのテレビアニメにも最終回を迎える作品が出始めました。当コラムでも、急いで2010年第1クールの新作テレビアニメをご紹介したいと思います。今回は、一度に『おおかみかくし』『おまもりひまり』『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』の3作品をご紹介したいと思います。なぜこの3作品を一度にご紹介するかと申しますと、ストーリー上の共通点が見られるからです。それは、“人間と異種族の共存を描いている”という共通点。
人間と異種族の共存は、近年に放送された多くの深夜アニメにおいて目指されています。
『ヴァンパイア騎士』二部作、『あまつき』、『ロザリオとバンパイア』二部作、『夜桜四重奏』では人間と妖怪の共存が、『ゼロの使い魔 三美姫の輪舞』では人間とエルフの共存が、『ワールド・デストラクション 世界撲滅の六人』では人間と獣人の共存が目指されました。
しかし、いずれの番組においても劇中で共存が実現することはありませんでした(良い方向に向かいつつある番組はありましたが)。
ここ数年の深夜アニメで人間と妖怪の共存が実現したのは『夏目友人帳』二部作ぐらいじゃないでしょうか。本稿で取り上げる3作品もまた、そういった難しい問題に取り組もうとしているのです。
さて、まずは番組の基本データから。
『おおかみかくし』は、関東ではTBSテレビ、関西では独立UHF局のサンテレビで放送されている番組で、原作はコナミデジタルエンタテインメントのゲーム、ゲーム監督は『ひぐらしのなく頃に』『うみねこのなく頃に』で知られる竜騎士07です。
『おまもりひまり』は独立UHF局等で放送されている番組で、原作は富士見書房『月刊ドラゴンエイジ』に連載されている漫画です。
『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』は独立UHF局等で放送されている番組で、原作はメディアファクトリー『月刊コミックフラッパー』に連載されている漫画です。
さて、一通り基本データを説明したところで、これら3作品が、人間と異種族の共存にどう向き合ったか見ていきましょう。
『おまもりひまり』は、主人公である人間の少年・天河優人(声・平川大輔)と、その周囲を取り巻く人間の少女、そして妖怪の少女達を描く番組です。
時にはお色気アニメに、時にはドタバタコメディアニメに、時には痛快アクションアニメになります。
まずは第3話「メイドin猫」から。この回では、ティーカップに宿った付喪神・リズリット・L・チェルシー(声・大亀あすか)が登場します。優人はリズリットを、おいしい紅茶を振る舞う良い妖怪と見なしますが、優人を守る任務を帯びている猫の妖怪・野井原緋鞠(声・小清水亜美)はリズリットを悪い奴と見なして叩っ斬ろうとするのでした。人間が妖怪を悪い奴だと一方的に決めつけるのはアニメでよく見られる光景ですが、本作では、妖怪が妖怪に対して偏見を持ち、人間が妖怪に対して偏見のない眼差しで見つめるという逆説的現象が見られました。
更に中盤以降には妖怪を退治せんとの使命感に燃える人間の少女・神宮寺くえす(声・松岡由貴)が登場。第7話「猫の想いと魔法少女のユウウツ」で優人は次のように語り、くえすの姿勢に心を痛めます。
「善悪関係なく全てのあやかしを滅ぼすなんて、くえすの考えはやっぱりおかしいよ。どうしたらくえすの考えを変えられるんだろう。」
優人の思いも空しく、第9話「猫鳴く忍び寄る闇」で、西日本で妖怪を次々と滅ぼしているという強力な妖怪・九尾の狐のタマ(声・水原薫)&酒呑童子(声・菊池正美)が出現したことから、『おまもりひまり』においては人間と妖怪の争い、そして妖怪同士の争いが終わる気配は残念ながらありません(註・本稿執筆時現在)。
2本目の『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』は、ヴァンパイアが東京湾沖にバンド(=租界)を樹立するというものです。
本作ではヴァンパイアが人間の女子高生・東雲ななみ(声・伊藤静)を襲うという痛ましい悲劇が起きたこともあったし、人間とヴァンパイアの共存にはまだまだ障壁も多い。しかし一方で、人間を襲って吸血することを拒否し、自らの牙を抜いたヴァンパイアもいます。
このようなヴァンパイアは、他のヴァンパイアから迫害されることもあったそうですが、ヴァンパイアの中にも心ある人達はいるし、一方の人間にも心ある人達はいる。
穏健派ヴァンパイアと人間の共存には希望が差していると思います。それを象徴するのが、第8話「ニア ダーク」においてヴァンパイアの女王・ミナ・ツェペッシュ(声・悠木碧)と人間の女子高生・三枝由紀(声・斎藤千和)の間で友情が芽生えるシーンです。
ミナが自身のことを「お前を恫喝し去れとまで言ったわらわ」と言って恐縮する一方、由紀も「私だって姫様のことを疑ったり、嫉妬したり」と卑下しますが、ミナは「それは相身互いじゃ。欠けたところを持ち寄って合わせてみよ。存外収まりがよいかもしれぬぞ。」と指摘し、2人の間に友情が生まれるのでした。本作では一歩ずつ、人間とヴァンパイアの共存に近付いていると言えます。
最後に取り上げるのが『おおかみかくし』です。本作は、嫦娥町という町に暮らす人狼(劇中では“神人(かみびと)”と呼ばれる)を描いたものです。人狼は苛酷な掟の下で正体を隠しながら暮らしてきました。しかし本作に登場する人狼は、本人の意思では抑えられない衝動によって、目を赤く爛々と輝かせて人間を襲ってしまうことがあります。人狼のこの衝動を抑えるためには、安寧効果のある八朔を原料にした薬品が必要であり、人狼の医者は、薬品の開発を急いでいました。人間との共存を望む人狼は、薬品さえ開発できれば人間と同じように生活することができるからです。同時に人狼は、人間との共存を望むが故に、或る掟を定めていました。その掟とは、人間を襲ってしまった人狼を殺害するという掟です。人間との共存を望むが故に同族を殺さねばならないというのは悲劇であり、掟を執行する役割を背負った人狼の少女・櫛名田眠(声・伊瀬茉莉也)も大変辛い思いをしておりました。
このように本作の人狼は、悲しい犠牲を払ってでも人間と共存しようとしていたのですが、第10話「八朔祭」で、事態は破綻を迎えます。
人狼は、人間との共存を望んでいるが故に、苛酷な掟にも従ってきました。但し、掟によって身内を殺害された人狼の胸の内には複雑な心境も含まれており、掟に対する恨みつらみがない訳ではなかった。そんな中、人狼に恨みを持つ人間・賢木儁一郎(声・遊佐浩二)が人狼に対して「化け物」と言い放つと、人狼の心の奥底に溜まっていた鬱憤が一挙に爆発。
人間との共存を諦め、怒りに任せるかのような発言が人狼の間から次々と飛び出しました。賢木が発した一言によって、一部の犠牲によって成り立っていた人狼と人間の共存の矛盾が露呈し、共存関係は崩壊してしまったのでした。
結局、第10話から第11話「終焉」にかけて、今まで人狼が必死で隠していた正体が人間の住民達の知るところとなり、人間の住民達は殆どが嫦娥町を離れました。ゴーストタウンと成り果ててしまった嫦娥町。しかも、引っ越した人間達によって人狼の噂が広まり、人狼の安住が脅かされるかもしれない。人狼の発作を抑える薬品の開発は順調に進んではいるものの、悲惨な結末を迎えてしまいました。
しかし第11話のラスト附近で、主人公である人間の少年・九澄博士(名前の読み方は“ひろし”。声・小林ゆう)は重要な台詞を呟きます。
「あれから僕なりに考えてみたけど、それは自分と違うものを、異なるものを理解したり、認めたりすることなんじゃないか。それは神人に限らず色んな意味で自分とは違う存在をただ恐れたり忌み嫌ったりせずに、分かろうとすることだと思う。」
この台詞は『おおかみかくし』の世界のみで通用する考え方ではなく、『おまもりひまり』や『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』でも、ひいては現実の世の中でも普遍的な意義を持った台詞とは言えないでしょうか。流石に現実の世界に妖怪とかヴァンパイアとか人狼とかはいないけれども、以上に見たようなテレビアニメ3作品は、我々が、自分達とは異なる文化を持った人々と接する際の心構えに、大切な示唆を与えてくれていると思います。
■ライター紹介
【コートク】
戦前の映画から現在のアニメまで喰いつく、映像雑食性の一般市民です。本連載の目的は、現在放送中の深夜アニメを中心に、当該番組の優れた点を見つけ出して顕彰しようというものです。読者の皆さんと一緒に、アニメ界を盛り上げる一助となっていきたいと考えています。宜しくお願いします。