皆さん、こんにちは。コートクです。今回は、テレビ東京系列で放送中の『テガミバチ』を取り上げようと思います。この番組は集英社『ジャンプスクウェア』に連載されている漫画をアニメ化したもので、郵便配達員の少年ラグ・シーイング(声・沢城みゆき)の成長を描いています。劇中世界では、郵便配達員が「テガミバチ」もしくは「ビー」という呼び名で呼ばれています。

さて、主人公であるラグが尊敬している郵便配達員に、ゴーシュ・スエード(声・福山潤)という人物がいました。ラグは、ゴーシュを見習って郵便配達員の活動をしています。
劇中の時間軸では既に行方不明となってしまっているこのゴーシュという人物、行方不明となる以前は、ただひたすら郵便配達の仕事に打ち込む人物だったそうです。劇中では、ゴーシュが仕事に専念していた理由が2つ語られました。

1つは、足の不自由な妹・シルベット(声・水樹奈々)に手術を受けさせると共に、妹に貧しい思いをさせないために金を稼ぎまくろうと意気込んでいたからです。しかしシルベットは、足の手術や、裕福な暮らしを望んでいた訳ではなく、兄と仲睦まじく暮らすことを望んでいました。それにも拘らず、ゴーシュは金を稼ぐために猛烈に働き、あまり家にはいなかったようです。そのため、シルベットは寂しい思いをしていたのでした。ゴーシュは妹を幸せにするために働いていたにも拘わらず、結果的に妹を悲しませていたのは、皮肉なものです。『テガミバチ』とは関係ありませんが、現在フジテレビで放送中のドラマ『不毛地帯』の主人公・壹岐正の場合も、家庭を顧みずに仕事に打ち込んだため、奥さんが悲しんでいました。それと同様の悲劇と言えるでしょう。

ゴーシュが仕事に邁進した2つ目の理由は、自身の仕事が持っている普遍的意義を確信していたからです。ゴーシュは次のように語っています。
「これほど重く、素晴らしい仕事はありません。人々の心を届け、心を繋ぐビーの仕事だからこそ、誇りを持ち、命を懸けて危険と戦うことができるのです。」
このゴーシュの理念は、ラグも受け継いでいるものであり、ゴーシュの姿勢は非常に立派です。
とは言うものの、ゴーシュが仕事に打ち込むことは良いことばかりではありませんでした。あまりにも働きすぎるため、周囲からは休息を取るよう勧められます。しかしゴーシュはそのような気遣いすらもやんわりと断ってしまうのでした。
金儲けという世俗の物欲と、命を懸けるに相応しい仕事の価値という、2つの相反するものに挟まれたゴーシュ。その姿は、ひたすら欲望に突き進む人物であると同時に、一般人を超越した聖人君子のようでもあり、矛盾した2つの姿をゴーシュは内含していたのです。それに加え周囲から見ると、休養を要するような疲れ果てた人という第3の顔もありました。
滅私奉公の精神は当然の如く推奨されるものかもしれませんが、一方で滅私奉公をしている本人はあくまでも自分の生活を持った1人の人間なのであって、そのバランスをいかに取るか、ということが大切です。ゴーシュの場合、滅私奉公の精神と、世俗的な金儲けを両立することができましたが、一方では、妹との幸せな生活を犠牲にしていました。
つまりゴーシュは、金儲けの目的である、妹を幸せにするということを達成できなかった訳です。
或るものを追いかければ、また別のものを失うことになり、二兎を追うことはなかなか難しいことかもしれません。『テガミバチ』で描かれたゴーシュのエピソードは、視聴者に対して、何を目的として人生を生き、その目的のために人生をどうやって生きるべきか、という問いを投げかけていたように思います。

■ライター紹介
【コートク】
戦前の映画から現在のアニメまで喰いつく、映像雑食性の一般市民です。本連載の目的は、現在放送中の深夜アニメを中心に、当該番組の優れた点を見つけ出して顕彰しようというものです。読者の皆さんと一緒に、アニメ界を盛り上げる一助となっていきたいと考えています。宜しくお願いします。

Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By おたくま経済新聞編集部 | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2010030101.html
情報提供元: おたくま経済新聞
記事名:「 【新作アニメ捜査網】第六回 テガミバチ