歯周病

歯の根っこの部分を歯根部といいます。

この歯根部は歯肉、セメント質、歯根膜、歯槽骨から構成されており、それらを歯周とよんでいます。

猫の歯周病は歯肉炎を放置することによって起こります。

歯肉炎とは猫の歯に歯垢や歯石がたまり、細菌感染を引き起こすことで歯茎(歯肉)に炎症が生じた状態のことです。

日頃から歯の手入れを行っていないかぎり、シニア猫の歯には歯石がついています。

したがって、程度の差はありますが、ほとんどのシニア猫は歯肉炎を患っていると言えます。

歯周病を防ぐには歯肉炎の段階で、歯石除去などの処置を行う必要があるのです。

しかしながら、歯石がたくさんついている猫がひどい歯周病になるかというと、そこは一概には言えません。

歯石が少ししかついていない猫でも、猫エイズなどのウイルス疾患にかかっていいる場合は、歯肉炎などの症状が悪化しやすいのです。

このような猫の場合は治療も手こずることが多く、免疫力を高める薬を併用することもあります。

また、シニア猫には水分補給のためにウエットフードが推奨されることもありますが、ドライフードに比べると歯石がつきやすくなるとの指摘もあります。

ドライフードにウエットフードを混ぜるのがいいかもしれません。

症状

  • 食べ方がおかしい
  • フードを口からよくこぼすようになった。
  • 口臭がきつい
  • よだれがでる
  • 前足で口のまわりをひっかくようなしぐさをする。
  • フードを残すようになり、残ったフードに血がついている。

自宅でやっておくといいこと

日頃からデンタルケアをしておくのが、一番の予防となります。

猫のデンタルケアの方法は使う道具もいろいろとあるので、まずは獣医師に相談してみてください。

飼い主さんが猫の口のなかを見て歯茎が赤くなっていたり、歯石がたくさんついているのがわかったら動物病院につれていきましょう。

ただし、このような症状を示す猫は、口を触られるのをとても嫌がるため、症状がみられたら早めに獣医師に相談するほうがいいです。

治療法

内科的には抗生剤を使用します。

痛みや炎症が激しいときにはステロイドが用いられることもあります。

外科的には麻酔をかけて歯石の除去をおこない、場合によっては抜歯が施されることもあります。

変形性関節症

加齢にともない関節軟骨がすり減ったりすることで関節炎が生じ、関節に痛みを生じる病気です。

肘関節、肩関節、膝関節での発症が多くみられます。

症状

  • 歩きたがらなくなる(悪天候のときは特に歩きたがらない)
  • 起き上がる動作が鈍くなった。
  • 足を引きずって歩く。
  • 関節がゴツゴツしてきた。
  • 関節が腫れて、熱をもっている。
  • 関節付近を触ると嫌がる。

猫は犬ほどは症状を示さないことが多いようです。

治療法

猫が足を痛そうにしている時には、非ステロイド系消炎鎮痛剤を用いて痛みを緩和させるなどの対症療法を行います。

サプリメントが効果的なこともあります。

また、体重過多は関節に負担をかけてしまうので、体重管理は症状を悪化させないためには必要です。

巻き爪

猫が若いうちは頻繁に爪とぎをします。

爪とぎをすることによって、古い爪が剥がれ落ち、新しい爪に生まれ変わるのです。

ところが、年をとってくるとあまり爪とぎをしなくなります。

古い爪がそのまま残り、残ったつめは固く分厚くなっていきます。

それでも取れないとその爪はどんどん伸びていき、丸まって肉球に刺さってしまうのです。

すべての指の爪で起こりますが、とくに第一指(親指)は巻き爪になりやすいようです。

症状

  • 歩き方がおかしい。
  • 歩く時に爪が床にあたってカチカチ音がする。
  • 足の爪あたりをよくなめる。
  • 肉球に血がついている。

治療と予防

猫の肉球に爪が刺さっていたら、動物病院で処置してもらいましょう。

肉球が化膿している場合は爪を取り除いたあとに、抗生剤が処方されることもあります。

巻き爪は繰り返しますので、一度そうなった猫は放っておくとまた爪が肉球に食い込むことになります。

飼い主さんは日頃から猫の爪を見てあげてください。

伸びていると思ったら爪が丸くなる前に切ることです。

ただし猫の爪切りは案外難しいので、ご自分で行うのが無理そうでしたら、爪が肉球に刺さってしまう前に動物病院で切ってもらうといいでしょう。

甲状腺機能亢進症

甲状腺が大きくなることにより、甲状腺ホルモンが過剰に分泌され全身性の障害が引き起こされる病気です。

この病気の進行は穏やかなので、はじめは気づきにくいかもしれません。

食欲も旺盛で元気に走り回るので、「年なのにすごく元気なんです」と言う飼い主さんが多いですね。

症状

  • ガツガツとよく食べるようになる。
  • 水をよく飲む
  • 痩せる
  • 今まで以上に元気になり、夜中に走り回る。
  • 脱毛する

治療法

治療は甲状腺ホルモンの過剰分泌をおさえるために、甲状腺ホルモンの合成を妨げる薬を投与する方法や、甲状腺を摘出する手術が行われることもあります。

よく食べるのに痩せてくるといったことがみられたら動物病院で相談してください。

子宮蓄膿症

細菌感染により子宮内部に炎症がおこり、膿がたまる病気です。

子宮の病気なので、避妊手術で子宮を切除してあればこの病気にかかることはありません。

高齢猫は免疫力が衰えてきているので、細菌感染がおこりやすくなっています。

そのため、避妊手術をしていないシニア猫は注意が必要です。

症状

  • おしりをしきりと舐める。
  • お腹が少し大きくなった
  • 嘔吐
  • 食欲不振
  • 外陰部からおりものが出ている。
  • 水をよく飲み、おしっこの量が増える。

猫は子宮に膿がたまっても、初めのうちは症状を示さないことが多いです。

膿がたくさん溜まり、体が熱を持つようになると、全身症状が出てきます。

飼い主さんが動物病院につれてくる時には病状がかなり進行していることが少なくありません。

治療法

治療は手術(子宮卵巣摘出術)が第一選択肢となります。

術後の経過は良好なことが多いですが、猫があまりに弱っていると、手術のリスクが高まります。

少しでも元気があるうちに飼い主さんが異常に気づいてあげることが大切です。

避妊手術をしていない猫の飼い主さんは、猫が高齢になったら日頃からよく観察することです。

猫がおしりをなめていたら、尻尾を持ち上げて外陰部を見てみましょう。

ゼリー状のおりものがでていたら、様子を見ずに動物病院に行ってください。

乳がん

乳腺腫瘍は乳腺が腫瘍化する病気です。

腫瘍が悪性のものですと、乳がんと呼ばれます。

猫の場合は乳腺腫瘍の90%が悪性です。

乳腺が腫瘍化しても、猫は特に症状を示しません。

飼い主さんが猫のお腹あたりを触っている時にしこりのようなものがある、と気づいて動物病院につれてこられるケースが多いようです。

治療は手術による腫瘍の摘出となります。

再発を可能なかぎり防ぐために乳腺の全摘出が行われることが多いです。

しかし、猫の乳腺腫瘍は転移することが多く、なかでも肺に転移する確率が高くなっています。

腫瘍が肺に転移すると、それまでなんの症状も示さなかった猫も咳をするようになります。

そうなってからだと、手術の適応外となってしまいます。

そのため、腫瘍がまだ小さなうちに手術を行うことが重要です。

ただし、早期に手術を行ったとしても、猫の乳腺腫瘍は再発することが少なくありません。

それぐらい、悪性度の高い腫瘍です。

猫の乳腺腫瘍は子猫のうちに避妊手術をおこなうと高い確率で予防することができます。

避妊手術を施されていないシニア猫や避妊手術はしてあるけれど、1歳を超えてから行ったという場合は、猫の乳腺あたりをときどき触り、ちいさなしこりを発見したら獣医師に相談してください。

便秘

高齢になり、運動量や水分摂取量が減ってくると、猫も便秘がちになります。

日頃からお水を飲みやすいように工夫したり、水分の多いウエットフードを与えるなどして便秘予防をしてあげてください。

それでも便が硬いようなら、オリーブオイルを少量食餌に混ぜると排便が楽になることがあります。

ここでひとつ注意していただきたいことがあります。

猫が何度も排便姿勢をとっているのをみて、便秘だなと判断してしまわないことです。

「猫がトイレで唸っている、どうやら便秘みたいです」といって連れてこられた猫のなかには、便ではなく、おしっこが詰まって出ない状態になっていることがあるからです。

便が1~2日出なくても、猫が元気なら様子をみても構いません。

ただし、おしっこは毎日でないと腎臓が悪くなってしまいます。

猫がトイレで何回もしゃがみ込んでいるのを見たら、おしっこが出ているかは確認してください。

がん(悪性腫瘍)

乳腺腫瘍は避妊手術をしていないシニア猫が注意すべきがんですが、それ以外の猫も高齢になるとさまざまながんにかかる可能性があります。

シニア猫に比較的よくみられる腫瘍について解説します。

リンパ腫

胸の縦隔というところにできる縦隔型と、腸管にできる消化器型とに分けられます。

縦隔に腫瘍ができる猫はネコウイルス性白血病に罹患していることが多いので、検査でウイルスに感染していることが判明している猫は注意が必要です。

この腫瘍が大きくなると胸に水が溜まってくるため、猫は呼吸困難になります。

消化器型リンパ腫では腸管に腫瘍ができるため、猫は下痢と嘔吐を繰り返すようになります。

皮膚の腫瘍

猫は犬ほど皮膚腫瘍の発生は多くはありませんが、発生すると悪性であるものが多いのが特徴です。

鼻や耳などにできる扁平上皮癌、肥満細胞が腫瘍化した肥満細胞腫などがあります。

慢性腎臓病(慢性腎不全)

猫を飼っている人なら、猫は年をとると腎臓が悪くなる、という話は一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?

実際、高齢の猫のほとんどが程度の差はあるにせよ、腎臓病にかかっているといっても過言ではありません。

慢性腎臓病とは、腎臓が長期間かけて機能を低下させ、その結果体内の老廃物を排出できなくなってしまう病気です。

慢性という名の通り、急におきる病気ではなく加齢にともない徐々に進行していきます。

慢性腎不全になりやすい猫

先述した通り、慢性腎臓病は年をとればどんな猫でもかかる可能性のある病気です。

しかし、シニア期に腎臓が特に悪くなりやすい猫というのがいます。

それは、若い時に膀胱炎や尿石症などの下部尿路疾患にかかったことのある猫です。

特にオス猫は尿石症になるとおしっこが出にくくなり、なかには全く出なくなってしまう子もいます。

その時は治療しておしっこを出すのですが、下部尿路疾患は繰り返しやすいため、腎臓へのダメージが蓄積されていくものと考えられます。

猫の慢性腎臓病を完全に防ぐことは難しいかもしれませんが、若い時から水分不足や運動不足に気をつけて下部尿路疾患にならないようにすることは重要かと思います。

症状

  • 水をたくさん飲むようになる。
  • 食欲が減る
  • 毛づやが悪くなる。
  • 痩せてくる。
  • おしっこの量が増え、あまり匂わなくなる。
  • 嘔吐する
  • 口臭がきつくなる
  • 貧血で歯茎の色が白っぽくなる。

腎不全が進行すると尿毒症となり、毒素が脳にダメージを与えるため、痙攣発作が起こることもあります。

治療法

一度壊れてしまった腎臓の機能を元に戻すことはできません。

そのため、治療は腎不全に伴う不快な症状を軽くして、猫の生活の質(QOL)を向上させるために対症療法が行われます。

腎機能が低下すると、猫は脱水が進行します。

そのため、ときどき点滴をすることでその都度脱水状態を改善していきます。

また、点滴は体に溜まった老廃物を体外に出すためにも行われます。

腎臓では赤血球産生を促すホルモンが産生されているため、腎機能が低下するとそのホルモンが減ってしまいます。

そのため猫は貧血になってしまうのです。

貧血のひどい猫には、造血ホルモン剤が投与されることもあります。

療法食による食事療法、内服薬、サプリメント、点滴などにより病気の進行を遅らせ、延命をはかります。

自宅でできること

慢性腎不全になると、猫は老廃物を体外に排出しようとして、おしっこをたくさん出します。

そのぶん、水を多く飲む必要があるので、飲水量は増えます。

それでも、脱水は進行してしまうので点滴で補ったりするのですが、自宅では猫が水分不足にならないように気をつけてあげてほしいと思います。

水を数か所にわけて置いたり、流水が好きな猫には循環式の自動給水器を用いる方法もあります。

飲水だけで水分を補うのは難しいこともあるので、ウエットフードを使うのは良い方法だと思います。

また、猫の腎臓病にはストレスも関わっているという報告もありますので、ストレスが少ない環境にすることは延命につながるものと思います。

かなりの高齢になってくると、猫も動くのが億劫になるようです。

トイレが遠いこともストレスになり得ます。

トイレの数を増やしたり、入りやすいトイレに変えるなどの工夫が効果的なこともあります。

ただし、急にトイレの形状を変えるとびっくりしてしまう猫もいるので、まずは今までと同じトイレをもう一つ用意して、残りの一つを入りやすそうなトイレに変えるといいでしょう。

お盆や正月など、家族以外の人がたくさん来た時などは、猫によってはとてもストレスになります。

来客があっても猫が静かに過ごせる場所を用意できるといいのではと思います。

まとめ

シニア期に入ると消化機能が衰え、免疫力も落ちてきます。

これは致し方ないことです。

今回解説してきた病気は早期発見が重要だと書きました。

その通りではあるのですが、猫が病気にならないかとあまり神経質にありすぎるのも、また考えものです。

飼い主さんが心配しすぎるあまり、猫がストレスを抱え込むようになってしまうのも困りますよね。

例えば、加齢による弊害を防ぐ目的で猫用にもさまざまなサプリメントが用意されています。

これらを用いることもいいのですが、猫は投薬の難しい動物です。

フードに混ぜて簡単に食べてくれるのであれば、試す価値はあります。

ただし、口を開けて無理やり飲ませなくてはならない場合、それを毎日続けるのは猫とって大きなストレスだと思います。

効果のあるものだとわかっていても、ご自分の猫には合わないということもあるのです。

また、シニア期といっても10歳の猫と18歳の猫とでは違ってきます。

10歳の猫に積極的に行っていた検査や治療を、18歳の猫に行うとかえってよくないことがあります。

猫がなるべく快適に生活を送れて、飼い主さんも納得のいく方法を選択していくことが大切ではないでしょうか。

とくにシニア猫は住環境の変化に弱いので、お気に入りの静かで落ち着ける環境を用意してあげるといいと思います。


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情報提供元: ねこちゃんホンポ
記事名:「 【獣医が解説】シニア猫がかかりやすい病気|主な症状や注意点、対策方法について