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三重大学生物資源学研究科の立花義裕らの研究グループは、39年間にわたる地球気候の観測値の分析と数値シミュレーションから、日本の猛暑がアフリカのサヘル地域の雨雲の発達と関連していると報告しています。
サヘル地域とは、サハラ砂漠の南に位置する一帯を指します。
この地域の気候については、主にヨーロッパの研究者が調査を行っていて、あまり日本で着目している研究者はいません。
確かに地球の気象は遠隔地の気候と複雑に絡み合っていて、日本の異常気象がエルニーニョなど太平洋上の気候に影響されるという報告はあります。
しかし、これまで遠く離れたサヘル地域のような陸上の雨雲が、日本の気候に影響するという視点は見逃されていました。
では、いったいどういった理屈で、遠いアフリカの雨雲が日本の猛暑の引き金となるのでしょうか?
サヘル地域は雨季と乾季が明確に区別されたサバナ気候で、雨季は6月~9月にやってきます。
このときサヘル地域一帯は、広く上空が雨雲におおわれ、大量の雨が降ります。
雲は上空で水蒸気が周囲に熱を放出し水に変化することで発生します。
そのため雲が発生すると、周囲の大気の温度が上がる凝結加熱というものが起こります。
サヘル地域の雨季のように、大量の雲が広域に発生した場合、それは大量の凝結加熱を大気中に引き起こすのです。
これは、アフリカ北部上空の高気圧を強める原因となります。この強化された高気圧はヨーロッパ上空に吹く偏西風を蛇行させます。
この偏西風の蛇行は、遠くアジア地域にまで続いていきます。
偏西風は通常真っ直ぐに吹きますが、これが南北に大きく蛇行して遠くまで続いた場合、その山と谷に対応する場所に長く停滞する高気圧と低気圧を発生させます。
結果的にこれは、その地域に異常気象を引き起こす原因となります。
そして日本上空では、この偏西風の蛇行により、強い高気圧が張り出すのです。
遠いサヘル地域の雨雲により発達した高気圧が、偏西風によってまるで電界と磁界で伝わる電磁波のように、低気圧と高気圧をつなげて伝わってくるわけです。
高気圧が強まると、雲がなくなるため日差しが地上に届きやすくなり、また大気が圧縮されるため気温が高くなります。
これがサヘル地域の雨雲が、日本に猛暑を引き起こすメカニズムです。
実際、日本で観測史上最高の猛暑を記録した2018年には、サヘル地域でも記録的な雨量が観測されています。
近年サヘル地域の雨量は増加に転じていることが報告されています。
この傾向が続く場合、日本も今後は猛暑が頻発することになるでしょう。
人間にとっては、何の関連も見いだせないような遠く離れた地域の天気でも、地球にとってはすべてが連鎖してつながった巨大な大気の運動です。
この地球全体の大気の動きが乱れることで、日本の天気もおかしくなるというのが地球温暖化の影響としてもっとも恐ろしい部分でしょう。
風が吹くと桶屋が儲かるように、サヘルで大雨が降ると日本で猛暑が起きるのです。
※この記事は2021年7月公開のものを再掲載したものです。
参考文献
日本やアジアの異常気象の一因が アフリカのサヘル地域の雨雲にあることを初めて解明 ― アフリカのサヘル地域で大雨が降れば、日本は猛暑に ―(三重大Rナビ)
https://www.mie-u.ac.jp/R-navi/release/cat-1/post-39.html
元論文
Possible semi-circumglobal teleconnection across Eurasia driven by deep convection over the Sahel
https://link.springer.com/article/10.1007/s00382-021-05804-x
ライター
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。
編集者
やまがしゅんいち: 高等学校での理科教員を経て、現職に就く。ナゾロジーにて「身近な科学」をテーマにディレクションを行っています。アニメ・ゲームなどのインドア系と、登山・サイクリングなどのアウトドア系の趣味を両方嗜むお天気屋。乗り物やワクワクするガジェットも大好き。専門は化学。将来の夢はマッドサイエンティスト……?