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このアイデアでは、宇宙船の後方で小規模なビッグバン(時空の膨張)を生み出し、前方で小規模なビッグクランチ(時空の収縮)を発生させます。
これにより、ワープバブルに包まれた宇宙船は、光速を超えて動く時空間の波に乗って、サーフィンのように移動していけるというのです。
ワープバブルの中は通常空間と同じ状態が保たれているため、ワープしている宇宙船の乗員と、その外から観測する人たちの間に、いわゆるウラシマ効果のような時間のズレは生じません。
これはさまざまな超光速航法のアイデアの中でも比較的現実味がある理論とされています。
ただ、比較的現実味があるというのは、実現できるという意味ではありません。
時空の収縮や膨張は莫大なエネルギーを必要とするため、現実的とは言えないと言われていますし、なによりこのアイデアは物理法則に従っていません。
一番の問題は、アイデアの肝となるワープバブルを形成するために負のエネルギーを必要とする点です。
負のエネルギーは、量子スケールの変動では存在しているとされていますが、私たちが利用できる形で存在するものではありません。
負のエネルギーを必要とするという前提条件の時点で、物理法則としては破綻したアイデアなのです。
そこで、今回の研究が提案したのが、この負のエネルギーの利用を回避して達成できる、アルクビエレ・ドライブの新バージョンなのです。
今回の研究チームが提案したのは、負のエネルギーのワープバブルの代わりに、非常に強力な重力場で宇宙船を包むというものです。
このために、宇宙船を超高密度材料の殻で覆うというのが今回のアイデアです。
これによって、少なくとも理論上は、物理法則に違反した負のエネルギーに頼らずとも、宇宙船を時空間の歪みから保護してアルクビエレ・ドライブを実現できるのだといいます。
ただ、物理法則には従っているものの、要の超高密度材料がどういうものになるかは明らかではありません。
彼らの理論によると、ここで必要となる重力場の殻は、地球質量を約10メートルサイズに圧縮した殻でなければならないとのこと。
かなり実現は難しい話のように思えますが、少なくとも物理法則には違反していないので、アルクビエレ・ドライブのアイデアをかなり現実味のあるものに変更したバージョンと言えるようです。
また、今回の研究からはもう1つ、興味深い発見がありました。
アルクビエレ・ドライブでは、必要とされるエネルギーの巨大さも問題となっていますが、ワープドライブで必要とされるエネルギー量は、宇宙船の形状でかなり変動する可能性が出てきたのです。
報告によると、細長い形状の船では必要なエネルギー量は大きくなりますが、幅の広い背の高い船の場合、エネルギーはもっと少なくて済むのだといいます。
なんだか実現の難しい話を数学で論じているような気がしますが、現在宇宙開発は驚く速度で発展し続けています。
百億光年以上も離れた天体を観測することも可能となっていて、人々の意識は光の速度を超えて遠い宇宙の彼方へまで及んでいます。
いずれ人類が宇宙へ飛び出していったとき、光速を超える技術は避けて通ることのできない必須のものとなるでしょう。
そのときに備えて、少なくとも理論上は実現可能な、ワープ航法のアイデアを科学者は完成させておく必要があるのです。
SF的なアイデアが単なる絵空事と笑われる時代は、終わりを迎えようとしてるのかもしれません。
参考文献
Physicists believe faster-than-light travel is indeed possible with new warp drive(zmescience)
https://www.zmescience.com/science/faster-than-ligh-travle-warp-drive/
元論文
Introducing physical warp drives
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6382/abdf6e
ライター
海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。
編集者
ナゾロジー 編集部