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現在の地球大気には20%を超える酸素が含まれています。
しかし意外なことに、地球の歴史において大気中の酸素が豊富にあった時代はごく限られていました。
生物が利用可能な濃度にまで酸素が増えたのは4.5~4.3億年ほど前であり、これは地球の年齢(45億歳)に比べると「最近の変化」といわざるを得ません。
つまり、何かの拍子に再び無酸素化しても、おかしくないのです。
そこで日本の研究者たちは地球大気の将来を予測することにしました。
予測するにあたってはまず、過去6億年から40万通りのシナリオを含むシミュレーションをおこないました。
シミュレーションの変数には生物活動だけでなく、海洋、大気、マントル、太陽活動も含まれており、非常に包括的なものとなります。
結果、4800通りのシナリオが、6億年ぶんの検証を突破して現在の大気条件にほぼ一致することが判明し、未来の予測に使用可能であることがわかりました。
次に研究者たちは、これらのシナリオ(4800通り)に対して、10億年後の様子を算出させました。
すると、非常に衝撃的な事実が判明します。
4800通り全てのシナリオにおいて、10億年後の地球では酸素濃度が現在の1%以下に減少していることが示されたのです(最も酷い場合は100万分の1)。
この結果は、比較的最近になって大気の主成分として登場した酸素が、早々と退場してしまう運命であることを示します。
しかし、なぜ未来の地球では、酸素が存在しないのでしょうか?
次のページで、未来の地球で何が起きるか示していきます。
なぜ未来の地球では酸素が失われているのか?
最も重要な要素となったのは、太陽活動の変化でした。
現在、太陽系の主星である太陽は1.1億年に1%の割合で光度を増しています。
これは太陽が属する主系列星は、核融合に必要な水素が減るにつれて活動を増し、膨張してていくという厄介な性質をもつのです。
そのため未来に進めば進むほど、太陽から降り注ぐ熱は増加し、地球は温暖化していきます。
しかし太陽熱に由来する温暖化では、二酸化炭素の濃度はどんどん減っていきます。
なぜなら温度が上昇すると、地球の地殻に多く含まれるケイ酸塩の風化が進み、大気中の二酸化炭素を吸い込んで(結合して)炭酸塩になってしまうからです。
そのため早ければ3億年、遅くても6億年後には大多数の植物が属するC3植物で二酸化炭素を必要とする光合成ができなくなり、10億年後にはサボテンなどの多肉植物に代表されるC4植物も光合成が止まります。
光合成が止まれば植物は死滅してしまうため、酸素を作る生物がいなくなってしまいます。
また酸素濃度の低下はほかにもオゾン層の崩壊を引き起こし地上には致命的な紫外線が降り注ぐようになります。
そのため陸上の動植物は駆逐され、生命は再び海中を生活基盤としなければなりません。
4800通りの未来をシミュレートした結果では、この劇的な無酸素化がわずか1万年の間に進行する可能性があるとのことです。
一方で、酸素の不足を補うように増加するのはメタンです。
酸素濃度が1%を下回ると、地球環境全体が嫌気化(脱酸素化)し、酸素を必要としないメタン生産菌などが大繁殖を起こし、メタンの濃度は1万倍にも膨れ上がります。
今回の研究により、地球上に私たちが呼吸可能な酸素濃度が存在するのは、極めて限られた時期に限定されていることが示されました。
地球にとっては、大気中に酸素がない状態が普通であり、私たち人類を含む多細胞生物は、わずかなイレギュラーな状態の上に浮かんでいる儚い存在だったのです。
4800通りの未来を予測した全ての結果は、地球の酸素濃度が現代の1%以上でいられるのは、現在から数えて残り10.8億年前後に過ぎないと算出しています。
この結果は、銀河に数多くの惑星があっても、知的な地球外生命体が地球人類にコンタクトできないという「フェルミのパラドックス」を説明するかもしれません。
エイリアンと地球人が出会っていないのは、地球生命が10億年後に対面するような未来の障壁のためかもしれないのです。
この未来を避けるためには、太陽の光を遮る遮蔽膜を軌道に展開するか、炭酸塩の石から二酸化炭素を放出させるといった人工的な手段が必要となります。
それまで人類の文明が続いていれば、科学の力が地球生命の救世主になるかもしれません。
参考文献
In the Distant Future, All Earth’s Creatures May Asphyxiate From Lack of Oxygen
https://futurism.com/distant-future-earth-creatures-asphyxiate-lack-oxygen
酸素に富む地球環境の持続期間は約10億年
https://www.toho-u.ac.jp/press/2020_index/20210302-1122.html
元論文
The future lifespan of Earth’s oxygenated atmosphere
https://www.nature.com/articles/s41561-021-00693-5
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部