芸術の創造力が高い人ほど「心の不調」を抱えやすいと判明
絵を描くことや小説を書くこと、科学の研究や発明は、どれも「創造力」が発揮される分野です。
では、創造力が高い人は、心の不調を抱えやすいのでしょうか?
この問いはこれまでも調べられてきましたが、研究によって答えが食い違っていました。
理由の1つは、「創造力」も「心の健康」も、研究ごとに違うもので測られてきたことです。
そのため、「創造力が心の不調を招くのか、それとも逆なのか」という問いには、答えが出ていませんでした。
「芸術と科学で、創造力と心の関係は同じなのか」という問いも同じです。
今回、スウェーデンの双子1万4658人のデータを使った研究が、この絡まった糸をほどこうと試みました。
芸術の創造力と科学の創造力、心の不調と結びついていたのはどちらだったのでしょうか?
研究の詳細は、2026年10月8日付で学術誌『Molecular Psychiatry』に掲載されました。
双子と遺伝子のデータで「創造力」を5通りに測る
研究に使われたのは、スウェーデンの双子の登録データのうち、1959〜1985年に生まれた双子の集団です。
参加者は、2012〜2013年の1回目と、その約10年後の2回目のオンラインのアンケートの、少なくとも一方に答えています。
両方に答えたのは6419人です。
唾液を提出した人は遺伝子の情報も調べられ、国の患者記録からは2017年初めまでに受けた心の病気の診断も分かります。
この研究の工夫は、創造力を1つの物差しで測らなかったことです。
1つ目は芸術の実績で、音楽・文章・ダンス・演劇・美術の5分野で、自分がどこまで到達したかを7段階で答えます。
2つ目は科学の実績で、科学と発明の2分野について同じように答えます。
3つ目は職業で、仕事の創造性を点数にしたうえで、芸術系の創造的な職と、科学や技術などそれ以外の創造的な職に分けました。
4つ目は性格で、新しい経験や芸術に心がひかれる傾向(開放性)を測りました。
5つ目は発想の広さで、「意味がなるべく離れた単語を10個挙げる」という課題を使いました。
単語どうしの意味の近さをコンピューターで計算し、平均して遠いほど発想が広いとみなす仕組みです。
心の健康のほうは、仕事の場面での抑うつの症状と、精神病に近い体験の起こりやすさ(精神病傾向)を本人に答えてもらいました。
あわせて、うつ病、不安症、ストレス関連の病気、統合失調症、双極性障害の診断記録も使っています。
科学や技術の創造的な職に就く人の精神病傾向は、芸術系と同じ?
まず1回目のアンケートを見ると、芸術の実績が高い人ほど、抑うつの症状が多く、精神病傾向も高いという結びつきがありました。
芸術系の創造的な職に就いている人でも、同じ傾向が見られました。
開放性が高い人も、精神病傾向が高めでした。
ところが科学の側を見ると、様子が変わります。
職業の創造性が高い人や、芸術以外の創造的な職に就く人は、むしろ精神病傾向が低かったのです。
科学の創造力を測った指標は全体として、心の不調とはっきりした結びつきがないか、逆向きの結びつきを示しました。
次に診断の記録を時間に沿ってたどると、ここでも芸術の実績が目立ちました。
1回目で芸術の実績が高かった人ほど、その後に統合失調症、不安症、ストレス関連の病気と診断されやすかったのです。
では、創造力が先で、心の不調が後なのでしょうか?
話はそう単純ではありません。
逆に、1回目に抑うつの症状が多かった人ほど、10年後の開放性と芸術の実績が高いという結びつきもあったからです。
精神病傾向が高かった人も、10年後に開放性が高く、芸術系の職に就いている傾向がありました。
つまり芸術と心の不調は、どちらか一方が先というより、両方の向きでつながって見えたのです。
研究チームは遺伝子にも目を向けました。
使ったのは、たくさんの遺伝子の小さな影響を足し合わせて、ある病気へのなりやすさを点数にした「遺伝リスク得点」です。
すると、双極性障害や統合失調症、ストレス関連の病気の遺伝リスク得点が高い人ほど、芸術の実績が高いことが分かりました。
双極性障害の遺伝リスク得点が高い人は、芸術系の創造的な職に就いている傾向もありました。
一方で、うつ病の遺伝リスク得点が高い人ほど、職業の創造性は低く、芸術以外の創造的な職に就いていることも少なかったのです。
遺伝子レベルの重なり(遺伝相関)を調べると、開放性はどの心の不調とも同じ向き(片方が高いと、もう片方も高い)につながっていました。
反対に職業の創造性は、うつ病や不安症、ストレス関連の病気と、逆向きの遺伝的なつながりを示しました。
ただ、双極性障害とだけは、わずかに同じ向きのつながりでした。
ただし研究チームは、この職業の物差しが芸術より科学系の仕事に偏っている点に注意を促しています。
芸術の創造力と科学の創造力は、心の不調との関係で、まるで違う顔を見せていたのです。
双子どうしで比べると、結びつきの多くは弱まり、はっきりしなくなった
ここまでの結びつきには、大きな落とし穴がありえます。
遺伝子が似ていて同じ家で育つ家族の中で、芸術の才能と心の不調の両方が受け継がれているだけかもしれないのです。
そこで研究チームは、双子のきょうだいどうしを比べる方法(双子対照分析)を使いました。
この方法では、双子が共有する遺伝や環境の影響を差し引いて比べられます(一卵性なら遺伝子もほぼ同じです)。
もし芸術の創造力そのものが心の不調を生むのなら、双子の中でも芸術の実績が高いほうが、不調も多くなるはずです。
その結果、多くの結びつきが小さくなり、はっきりした差とは言えなくなりました。
1回目のアンケートの中で比べた結びつきのうち、はっきり残ったのは、開放性と精神病傾向の結びつきだけでした。
芸術の実績と、その後の病気の診断との結びつきも、ほとんどが目立たなくなりました。
つまり芸術と心の不調は、片方がもう片方を生むというより、共通の根っこでつながっていたと考えられます。
ここでいう根っこは、家族で共有する遺伝子や育った環境のことです。
それでも、10年をまたいで追った分析には、双子どうしで比べても消えなかった結びつきが1つありました。
1回目に抑うつの症状が双子の片割れより多かった人は、10年後の開放性も片割れより高かったのです。
研究チームは、ここに因果関係がある可能性を指摘しています。
なぜ抑うつの症状が、新しいことへの開かれた心につながるのでしょうか?
研究チームは、症状をやわらげるために創造的な活動に取り組む人がいるのかもしれないと考えています。
また、診断に至らない程度の抑うつがある人は、自分の内面を見つめる考え方をしやすいかもしれません。
それが当たり前を疑ったり、世界の複雑さやあいまいさを味わったりする姿勢、つまり開放性につながるという見方です。
ただし、うつ病と診断されたことは、双子どうしの比較で開放性の高さと結びついていませんでした。
診断されるほどのうつでは、やる気や好奇心が落ちやすく、それが開放性を下げる方向に働くのかもしれません。
この結果は、「ほどほどの心の不調は創造力を助け、行き過ぎると妨げる」という考え方とも大まかに合っています。
とはいえ、本人が答える心の健康は1回目にしか測っていないため、創造力がその後の心の状態をどう変えるかは、アンケートでは追えていません。
また、ここで見つかったのは結びつきであり、芸術を始めると心を病む、という意味ではありません。
キャンバスに向かう才能と心の揺らぎは、一方が他方を生むというより、同じ家族の木から伸びた2本の枝に近いのかもしれません。
参考文献
Unraveling the multifaceted relationship between creativity and mental health with longitudinal analyses of genotyped twins (Molecular Psychiatry)
https://doi.org/10.1038/s41380-026-03925-5
元論文
Unraveling the multifaceted relationship between creativity and mental health with longitudinal analyses of genotyped twins
https://doi.org/10.1038/s41380-026-03925-5
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部