私たちの血が赤いのは鉄のおかげ、タコやカニは銅で青くなる
鼻をぶつけたときや、指に針が刺さったときに出てくる私たちの血は、赤い色をしています。
血が赤いのは当たり前に思えますが、動物の世界では当たり前ではありません。
生き物によっては、血が紫だったり、黄色や緑だったり、白かったりするのです。
同じ「血」なのに、なぜこれほど色が違うのでしょうか。
そして、その色の違いには、それぞれの生き物のどんな暮らしが映っているのでしょうか。
2人の研究者への取材とこれまでの研究をもとに、血の色の裏にあるしくみがまとめられました。
研究の詳細は、2026年10月23日付で学術誌『Knowable Magazine』に掲載されました。
私たちの血が赤いのは「鉄」のおかげ
取材に応じたのは、オレゴン大学で発生遺伝学を研究するジョン・ポストルスウェイト氏です。
もう1人は、モンタナ大学で生き物の体と環境の関係を研究するザカリー・シェブロン氏です。
まずは、人を含む背骨のある動物(脊椎動物)の血から見ていきましょう。
あの濃い赤色を生んでいるのは、赤血球の中にあるヘモグロビンというタンパク質です。
ヘモグロビンの役目は、体のすみずみまで酸素を届けることです。
ヘモグロビンには鉄の原子が含まれていて、この鉄が酸素をつかみます。
そして、この鉄こそが、私たちの血を赤く見せている正体です。
鉄が酸素と結びついているとき、血はあざやかなさくらんぼのような赤になります。
反対に、結びついている酸素が少ないと、くすんだ茶色がかった赤に変わります。
つまり血の色は、酸素を運ぶ係がどんな物質でできているかと深く結びついているのです。
ところが動物の世界を見渡すと、ヘモグロビンを使わない生き物がたくさんいます。
青、紫、緑……赤くない血はどうやって生まれる?
たとえばタコやイカ、エビやカニのなかまは、ヘモシアニンというタンパク質で酸素を運んでいます。
ヘモシアニンが持っているのは、ヘモグロビンのような鉄ではなく、銅の原子です。
この銅は、酸素と結びつくと青く見えます。
これが、タコやカニの血が青い理由です。
ただし、ヘモシアニンはヘモグロビンほど効率よく酸素をつかめません。
それでも、深い海のような冷たい環境では、特によく働くとされています。
さらに、ヘモシアニンは酸素を運ぶ以外の仕事もしているようです。
研究からは、体を守る働き(免疫)にかかわり、傷の治りを助けている可能性が示されています。
一方で、紫色の血を流す海の生き物もいます。
二枚貝に似た腕足動物(わんそくどうぶつ)や、海底にすむホシムシのなかまです。
彼らの紫は、ヘモシアニンによるものではありません。
ヘムエリトリンという、鉄を多く含む紫色の色素タンパク質で酸素を運んでいるのです。
同じ鉄を使っていても、それを抱える物質が違えば、血は赤にも紫にもなるわけです。
ジャガイモのような形をしたやわらかい海の生き物、ホヤの一部は、緑がかった黄色の血を流します。
緑がかった黄色の血を流すこれらのホヤは、ヘモグロビンを作りません。血が黄色い原因については、血にためこむ金属の元素なのか、エサに由来する色素なのかなど、説が分かれています。
そして、血がはっきりと緑色になる動物もいます。
ニューギニアにすむ数種のトカゲです。
このトカゲたちは、ほかの脊椎動物と同じように、ヘモグロビンで酸素を運んでいます。
違うのは、ヘモグロビンを分解したあとです。
ヘモグロビンが分解されると、ビリベルジンという緑色の色素ができます。
人の体でこの物質が濃くたまると、黄疸(おうだん)に見られる黄緑っぽい見た目になります。
ほとんどの脊椎動物は、ビリベルジンを別のくすんだ色の物質に作り変えてしまいます。
ところがニューギニアのトカゲは、この緑の色素を血の中にため込んでいきます。
その量はヘモグロビンの赤を上回るほどで、血も体の組織も緑色に見えるのです。
緑の血は、赤い色素を捨てたのではなく、赤い色素を分解したあとの扱いを変えることで生まれていたのです。
色を手放した魚と、酸素を握りしめるネズミ
なかでも風変わりな血を持つのは、南極の海にすむコオリウオのなかまでしょう。
彼らは、ヘモグロビンも赤血球も持たない、知られている限り唯一の脊椎動物です。
その血は、ミルクのように白く、半透明をしています。
ポストルスウェイト氏は「本当に、どこか幽霊のようなんです」と話します。
コオリウオは、ヘモグロビンに代わる酸素をつかむタンパク質も持っていません。
酸素は、血液にそのまま溶かして運んでいるのです。
また、ほかの南極の魚より心臓や毛細血管が大きく、より多くの血を送り出して巡らせられます。
狩りも、動き回らずに獲物を待ち伏せるやり方で、使うエネルギーも酸素も少なくて済みます。
ポストルスウェイト氏らは最近、複数の魚のゲノム(全遺伝情報)を調べました。
コオリウオのDNAから、ヘモグロビンを作る遺伝子が消えた理由を探るためです。
けれども、赤血球とヘモグロビンのどちらを先に失ったのかは、まだ分かっていません。
何がきっかけで失ったのかも謎ですが、研究者たちは1つの考えを示しています。
南極海の冷たい水は酸素が十分に豊富で、ヘモグロビンという仲介役が要らなくなったのではないか、というものです。
反対に、酸素の少ない高い山では、ヘモグロビンを強化した動物がいます。
シカネズミというネズミは、標高約4,300メートルの高さまで暮らせます。
これは、多くの人が高山病になり始める高さを、はるかに超えています。
シカネズミは、酸素を特に強くつかむヘモグロビンを進化させました。
アンデス山脈のハチドリや、高地にすむカエルの一種にも、似たヘモグロビンの変化があります。
ただしシェブロン氏によると、適応にはいつも引き換えがあります。
酸素を強くつかむぶん、シカネズミはその酸素を体の組織へ渡すのが苦手なのです。
シカネズミは、その不足分を、筋肉の線維にミトコンドリアを多く持つことで補っているといいます。
シェブロン氏は、シカネズミのヘモグロビンの進化が、人の治療のヒントになりうると話します。
対象は、慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)など、体が酸素不足になる病気です。
また、赤血球やヘモグロビンが足りない貧血の人は、世界に20億人近くいます。
その新しい治療にも、南極の透明な血の魚が手がかりを持っているかもしれません。
「コオリウオは、明らかにうまくやる方法を見つけています」とポストルスウェイト氏は語ります。
鼻血の赤も、タコの青も、トカゲの緑も、コオリウオの白も、それぞれの生き物と酸素の付き合い方を映す色なのです。
写真で見る、酸素の運び方がさまざまな生き物たち
参考文献
Why Some Animals Have Blue, Green, or Purple Blood Reveals the Strange Ways Evolution Works (ZME Science)
https://www.zmescience.com/ecology/animals-ecology/why-some-animals-different-blood-colors/
元論文
The bloody palette of the animal kingdom
https://doi.org/10.1146/knowable-102326-1
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部