天の川に20年も強い電波を出し続ける正体不明の天体を発見
天の川銀河の中に、少なくとも20年にわたって強い電波を出し続けている天体があります。
名前は「VT J1906+0849」といい、2017年の電波観測で見つかりました。
明るさを変える電波天体はこれまでにも数多く見つかり、その一部は正体が説明されてきました。
新しい種類が1つ見つかると、似た仲間もほどなく見つかるのがふつうです。
ところがこの天体には、似た仲間がいまだに見つかっていません。
研究チームは過去の観測を掘り起こし、この天体の正体に迫ろうとしました。
20年鳴りやまないこの電波は、いったい何が出しているのでしょうか?
研究の詳細は、米カリフォルニア工科大学らにより、2026年10月14日付で学術誌『The Astrophysical Journal』に掲載されました。
1996年には写っていなかった電波
この天体が見つかったのは、大型の電波望遠鏡群(VLA)で空を調べる観測(VLASS)の中でした。
2017年10月の観測で、天の川の帯のほぼ真ん中の方向に、明るい電波の点が写っていたのです。
この観測で見つかった「明るさを変える電波天体」の中で、知られている限りいちばん明るいものでした。
この観測では、明るさが変わったり新しく現れたりする電波天体がすでに数千個見つかっていて、それまでの観測で見つかった候補が数十個ほどだったのと比べると大きく増えています。
ところが、1996年7月に別の電波観測(NVSS)で同じ場所を見たときには、何も写っていませんでした。
当時も十分な感度で見ていたため、その時の電波は、観測でとらえられる明るさを下回っていたことになります。
観測した周波数が違うため、電波源について一定の仮定を置いて換算すると、21年のあいだに電波は6倍以上明るくなったと見積もられます。
そこで研究チームは、この位置を写した過去の電波観測を調べ直しました。
すると2005年以降、複数の電波望遠鏡による30回以上の観測に、この天体がすでに写っていたのです。
このほか、2010年に別の電波望遠鏡網(VLBA)で行われた観測も、当初の解析では「写っていない」とされていました。
ところが2025年に発表された再解析で、写っていたことが分かりました。
記録をつなぐと、電波が初めてとらえられたのは2005年で、2014年に最も明るくなっていました。
その明るさは、2017年に見つかった時の3倍近くか、それ以上に当たります。
その後は暗くなっていきましたが、2025年の終わりに再び明るさを増しました。
集めた手がかりから、この天体は地球から5万〜11万光年ほど先、天の川銀河の円盤の中にあると見られています。
知られた天体と比べると、どこが合わないのか?
研究チームはまず、電波を出すことで知られる恒星と比べました。
表面で突発的な爆発を起こす星(フレア星)と比べると、この天体は電波で約10億倍も明るい値でした。
磁気活動の活発な連星と比べても、約100万倍明るいことになります。
比較的近いとされる磁場の強い激変星(爆発的に明るさを変える連星の一種)でも、差は約10万倍ありました。
つまり、ふつうの星の活動では、この明るさはとても説明できないのです。
次に考えられるのは、星の表面で爆発が起きる新星です。
新星も電波を出しますが、その電波が続くのは数日から数年ほどです。
この天体は何十年も電波を出し続けており、5〜8ギガヘルツの周波数で比べたピークの明るさも、典型的な新星を上回っていました。
新星なら見えるはずの、特定の色だけが強く光る線(輝線)の数々も見られませんでした。
では、かに星雲のように、高速で回る中性子星(パルサー)の力で光る天体ならどうでしょうか。
かに星雲は、中心のパルサーが粒子を送り込み続けることで、約1,000年にわたって光っています。
この天体の電波の性質や明るさも、若いパルサーの力でまかなえる範囲でした。
しかしこうした星雲は、数百年から数千年かけてゆっくり変わるのがふつうです。
この天体はわずか20年ほどの観測のあいだに再び明るくなり、電波が最も強く出る周波数まで動いていました。
遠い銀河の中心にある巨大ブラックホール(活動銀河核)が同じ方向に重なって見えている、という説明も、総合すると考えにくいとされました。
さらに不思議なのは、電波を出している領域の大きさです。
これほど明るいのに、光っている領域は木星の軌道ほどの大きさしかありません。
しかも5年間の観測で、この領域はほとんど、あるいはまったく膨らんでいませんでした。
超新星の爆発の跡であれば、領域はとても速く広がっていくはずです。
残る有力な候補は、中性子星やブラックホールのような小さく重い天体に、ガスが落ち込み続けているという考えです。
落ち込むガスのエネルギーなら、強い電波も、小さく光る領域も自然に説明できます。
実際、この天体の相棒として、青白く光るB型かそれより高温の星があると見られています。
こうした組み合わせは、X線を強く出す連星(X線連星)として知られています。
ところが、X線観測衛星スウィフトで調べても、X線はとらえられませんでした。
電波の明るさから見込まれるX線と比べると、この天体はX線が暗すぎたのです。
エネルギーが1回の大きな噴き出しで出ただけなら、電波は10年もたたずに弱まるはずだとも計算されました。
20年にわたって見え続けていることや、はっきりした増光がいくつも見られないことなどから、エネルギーは絶えず補給されていると考えた方が自然だとされました。
ただし、噴き出しが何度もくり返された可能性も、まだ消えてはいません。
赤外線の1本の線が示した、意外な姿
電波しか手がかりのなかったこの天体に、研究チームは赤外線からも迫りました。
過去の観測データを探すと、同じ位置に、4つの波長の赤外線で光る天体が見つかったのです。
この赤外線を色ごとに分けて調べると、幅の広い輝線が1本だけ見つかりました。
線の中心の位置は変わらない一方で、線の幅や明るさは時期によって変わっていました。
研究チームはこれを、水素が出す「Brγ(ブラケットガンマ)」という線が、ずれて見えたものと読み解きました。
光の出どころがこちらへ近づいていると、線は波長の短い側にずれて見えます。
そこから、ガスが秒速約2,000kmで、片側に偏って吹き出し続けている姿が浮かびました。
時速に直すと約720万kmにもなります。
こちらへ向かうガスはよく見え、遠ざかる側のガスは何かに隠されている可能性があります。
こうした手がかりを合わせ、研究チームは考えられる解釈の一つとして「SS 433」という天体を挙げました。
SS 433は、ふつうの星と、ブラックホールと疑われる天体の組み合わせです。
星から引きはがされたガスの一部は、勢いのある噴流(ジェット)となって宇宙へ吹き出しています。
VT J1906+0849は、このSS 433の若い版かもしれないというのです。
この考えでは、噴流が電波を出す粒子を絶えず送り出し、その流れを、ガスの円盤から吹く濃い風が押さえ込んでいると見ます。
押さえ込まれているなら、電波を出す領域が小さいまま、ほとんど広がらないことを説明できます。
もし噴流がこの強さのまま数十年続いているなら、この天体は天の川銀河のX線連星の噴流の中でも、最もエネルギーの大きい部類に入ることになります。
濃いガスの円盤がX線をさえぎり、X線が暗く見える一因になっている可能性もあります。
ただしこれは仮説の一つで、周波数ごとに振る舞いが違う理由など、まだ説明のついていない点も残ります。
では、宇宙人の信号という可能性はないのでしょうか。
科学ニュースサイトのIFLScienceは、電波が幅広い周波数にまたがっていることから、人工の信号とは考えにくいと説明しています。
わざわざ信号を送るなら、狭い周波数に絞った方が、少ないエネルギーで受け手にも見つけやすいからです。
研究チームは、天の川を広く見渡す電波観測が進めば似た天体が見つかり、正体の理解が深まると期待しています。
木星の軌道に収まるほどの小さな場所から出る強い電波が、明るさを変えながら、20年にわたってとらえられ続けているのです。
写真で見るかに星雲
参考文献
One Radio Source In Our Galaxy Has Been Producing Signals For At Least 20 Years That No One Can Explain (IFLScience)
https://www.iflscience.com/one-radio-source-in-our-galaxy-has-been-producing-signals-for-at-least-20-years-that-no-one-can-explain-85019
元論文
VLASS Discovery of a Luminous Galactic Radio Transient Evolving on Decade Timescales
https://doi.org/10.3847/1538-4357/aea0d5
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部