ボイジャー1号、人工物で初めて地球から「1光日」の遠さへ
夜に送ったメッセージに翌朝まで既読がつかないと、相手がずいぶん遠くにいるように感じます。
いま、人類が送り出したある探査機が、そんな「待ち時間」の新しい節目に近づいています。
NASAの探査機ボイジャー1号が、まもなく地球から「1光日」の距離に届こうとしているのです。
1光日とは、光が丸1日かけて進む距離のことです。
半世紀近く飛び続けてきたボイジャー1号は、いったいどんな場所を進んでいるのでしょうか。
NASAの公開情報と、科学メディアIFLScienceの記事をもとに紹介します。
この話題の詳細は2026年10月23日に『IFLScience』にて公開されました。
地球との「時差」が丸1日を超える日
NASAによると、その瞬間は協定世界時(UTC)で11月18日の10時16分7秒です。
日本時間に直すと、同じ日の夜7時16分7秒にあたります。
このときボイジャー1号は、地球から約259億km離れた所にいる計算です。
人が作った物が地球からここまで離れるのは、初めてのことです。
この先、ボイジャー1号が出すごく弱い電波は、地球に届くまでに1日以上かかるようになります。
つまり、地球から指令を送って返事を受け取るまで、往復で2日以上待つことになるのです。
ただし、この時刻の見積もりには多少の不確かさがあるとされています。
それでもNASAは、その瞬間までを刻むカウントダウン時計をネット上に公開しています。
一方で、「地球から」ではなく「太陽から」測るほうが筋がよい、という見方もあります。
地球は太陽の周りを回っているので、時期によってボイジャーとの距離が変わってしまうからです。
いま地球はたまたま、ボイジャーから平均より遠い側を通っています。
真反対ではないものの、ボイジャー1号から見ると、太陽は地球より約8100万km近くにあります。
そのため、ボイジャーの電波は地球より約4分早く、太陽の位置に届きます。
太陽から見て1光日に達するのは、さらに2カ月近く先になる見込みです。
どちらで測るにせよ、ボイジャー1号は光でさえ丸1日かかる遠さに、まさに差しかかっているのです。
「からっぽ」のはずの星の海で、ボイジャーが聞いた「音」
ボイジャー1号がここまで来られたのは、もともとの役目を終えたあとも働き続けたからです。
ボイジャー1号と2号は木星と土星のそばを通り、それまでの知識を大きく塗り替えました。
たとえば、木星の衛星イオは火山だらけの世界だと分かりました。
衛星エウロパの表面は不気味なほど滑らかで、のちにこれが、内部に海があるしるしだと考えられるようになりました。
その海は、生命を支えられるかもしれないと考えられています。
衛星ガニメデの意外な複雑さや、土星の衛星それぞれの個性も、ボイジャーが明らかにしたものです。
その後、2号は天王星と海王星へ向かい、1号は太陽系の外側へまっすぐ進みました。
1号は去り際に振り返り、地球の写真「ペイル・ブルー・ドット(青白い点)」を撮っています。
この時点で、ボイジャーの仕事は事実上終わったと見られ、地上での運用を止める話まで出ました。
それでも2機は、興味深いデータを送り続けます。
壊れた装置や電力節約のために止めた装置もありますが、残った装置はいまも働いています。
1号は一時、死んだように見えましたが、半年後に息を吹き返しました。
太陽から吹き出す粒子の風(太陽風)は、太陽とすべての惑星を包む泡のような領域(太陽圏)をつくっています。
1号は2012年、この泡と星の間の空間との境目(ヘリオポーズ)を越えました。
かつて天文学者たちは、境目を越えると周りの磁場の向きが変わるだろうと予想していました。
ただ、1号が着くころには考え方が変わっており、実際にそうした変化も見つかりませんでした。
代わりに分かったのは、周りの電子の濃さが、越える前の80倍になっていたことです。
つまり星間空間は、空っぽどころか、ある意味では太陽圏の外側の部分より混み合っていたのです。
地球の基準でいえば真空ですが、粒子や分子がまばらにあり、その濃さも場所によって違います。
さらに星間空間は、静まり返っているわけでもありません。
ボイジャーは10年以上、星間空間の「音」に耳を傾け、物質の濃さやそこを伝わる波を測ってきました。
そこで見えてきたのは、太陽の爆発(コロナ質量放出)の影響が泡の外にまで及ぶことでした。
米カリフォルニア工科大学のエド・ストーン氏は2014年、「ふだんの星間空間は静かな湖のようなもの」と語っています。
「しかし太陽が爆発すると、衝撃波が外へ広がり、約1年後にボイジャーに届きます」
「その波が、探査機を取り巻くプラズマ(電気を帯びた粒子のガス)を歌わせるのです」
ボイジャーはこの波を、観測装置がとらえる宇宙線の変化から、間接的に読み取っています。
泡の外は、混み合い、濃さにムラがあり、太陽からの波まで届く場所だったのです。
1光日は、星までの道のりのどのあたりか
では、星間空間に入ったボイジャー1号は、もう太陽系を出たのでしょうか。
実は、そうとは言えません。
恒星の「系」は、いちばん遠くを回る彗星の軌道までを含むと定義されているからです。
太陽系の内側へ、数十万年に1度しかやって来ない彗星もあります。
ボイジャーは、そうした彗星の軌道のいちばん外側を越えるずっと前に、電波を出さなくなるでしょう。
そもそも、そのいちばん外側がどこなのかは分かっておらず、この先も分からないかもしれません。
それでもボイジャーには、星々までの遠さを実感させてくれる「足がかり」という役目があります。
ボイジャー1号が1光日に届くまでには、49年かかりました。
太陽系を出ていくほかの人工物はどれもこれより遅く、1光日に届くにはさらに時間がかかります。
一方、太陽にいちばん近い恒星までは4.3光年あります。
光でおよそ1570日かかる距離で、ボイジャー1号がやっと届いた遠さの約1570倍にあたります。
「4.3光年」と聞いてもぴんときませんが、1日と4年の違いなら誰でも分かります。
1光日の線を越える瞬間に、物理的に特別なことは何も起こらないかもしれません。
切るべきゴールテープも、紙吹雪を投げて祝う人もいない場所です。
それでも、人類が星へ向けて送った最速の探査機でさえ、ここまで49年かかったのです。
地球から呼びかけても返事はあさって以降という遠さでも、星までの道のりから見れば、ほんの入り口にすぎません。
ボイジャーに積まれた金色のレコードが、ふたたびどこかの星の温もりに触れる日は、まだはるか先なのです。
メッセージの既読が翌日になっても、相手はボイジャーよりずっと近くにいるはずなので、気長に待ちましょう。
ここからは、太陽圏をもっと知りたい人へ
太陽圏とは、太陽から吹き出す風が届く、すべての惑星を包む大きな泡です
太陽圏は、天の川銀河の中で、物質がおもに太陽からやって来ている一帯のことです。
英語では「heliosphere」と呼ばれ、日本語にもヘリオスフィアや太陽系圏といった別の呼び名があります。
太陽圏は太陽と一緒に星間空間を進んでいるので、その形は長い吹き流しのようになっています。
その中では、太陽風が平均で秒速300〜700kmという速さで、末端衝撃波面と呼ばれる境目まで流れていきます。
さらに外側の端(ヘリオポーズ)では、太陽風と星の間から吹く風(星間風)の押す力がつり合うため、太陽風は向きを変えて太陽圏の尾の方へ流れていきます。
この端の向こうに広がる星間空間では、太陽の磁場はもう力を持ちません。
太陽風があること自体は、探査機が打ち上げられる前から、彗星の尾の観察をもとに考えられていました。
その太陽風を測る装置が、ボイジャー1号では1980年に止まっていたため、1号が太陽圏を出たことはすぐには確かめられませんでした。
写真で見るボイジャーの旅
参考文献
Voyager 1 Is About To Reach 1 Light-Day From Earth. What Do We Know About What's Out There? (IFLScience)
https://www.iflscience.com/voyager-1-is-about-to-reach-1-light-day-from-earth-what-do-we-know-about-whats-out-there-85014
コトバンク「光年」
https://kotobank.jp/word/%E5%85%89%E5%B9%B4
コトバンク「太陽圏」
https://kotobank.jp/word/%E5%A4%AA%E9%99%BD%E5%9C%8F
NASA「Voyager Interstellar Mission」
https://science.nasa.gov/mission/voyager/interstellar-mission/
NASA「What’s It Like Where Voyager Is?」
https://science.nasa.gov/missions/voyager-program/whats-it-like-where-voyager-is/
ベルギー王立宇宙高層大気研究所「Heliosphere」
https://aeronomy.be/en/encyclopedia/heliosphere-long-elongated-gas-bubble-inflated-solar-wind
Nature Asia(研究ハイライト)
https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/13141
NASA「Oort Cloud: Facts」
https://science.nasa.gov/solar-system/oort-cloud/facts/
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部