石と水素から水が生まれる過程を再現――地球の海の起源に新説
アメリカのニューメキシコ大学(UNM)などで行われた研究によって、水分を抜き取った乾いた岩を高温の水素の中で熱すると、数時間のうちに大量の水が生まれることが実験で確かめられました。
地球の海の水は、彗星や小惑星が宇宙から運んできたと語られることが多いですが、生まれたての地球は、空から降る乾いた小石を材料に、自前で水をつくる力を秘めていたのです。
しかも計算では、その力でつくれる水の量は、最大で今の海の数百杯分にもなりました。
研究チームは論文の中で、この仕組みなら「外からの水の供給源は必要ない」と述べています。
では、岩と水素だけでどうやって水ができたのでしょうか?
研究内容の詳細は2026年9月24日に『Nature Geoscience』にて発表されました。
海の水は彗星や小惑星がなくても手に入った?
地球の表面のおよそ7割は、海に覆われています。
これほどありふれた水ですが、その出どころは、実はいまも決着がついていません。
そもそも地球が生まれた太陽の近くは、水にとって熱すぎる場所でした。
太陽から遠い寒い場所なら、宇宙を漂う小石は氷をまとっていられます。
ところが地球のあたりでは、水は氷のままではいられません。
そのため、地球を組み立てた材料そのものは、からからに乾いていたと考えられています。
乾いた材料からできた惑星に、なぜこれほどの海があるのか。
よく語られる答えが、いわば「宇宙からの宅配便」説です。
地球が育つ途中や、できあがったあとに、氷を抱えた彗星や水を含む小惑星がぶつかり、外から水を運び込んだという考えです。
しかし今回の研究チームが考えたのは、水を外から運ぶのではなく、育っていく地球がその場でつくってしまう道でした。
水の起源を、乾いた岩と水素に求める考え方です。
その鍵を握るのが、地球の育ち方です。
昔からの有力な説では、地球は岩の塊どうしが衝突と合体を繰り返し、数千万〜数億年かけて育ったと考えられてきました。
これに対して近年注目されているのが、宇宙を漂うミリからセンチほどの小石を次々に集めて、数百万年ほどで一気に育つという考えです。
この小石こそが、からからに乾いた地球の材料です。
その仲間は、いまも隕石の中に丸い粒(コンドリュール)として残っています。
生まれたばかりの太陽のまわりには、水素を主とするガスも漂っていましたが、このガスは数百万年ほどで消えてしまいます。
数千万年かけて育つのでは間に合いませんが、数百万年で一気に育つなら、地球はガスが残っているうちに大きくなれます。
そして大きくなった地球は重力でこのガスを引き寄せ、厚い水素の大気をまといます。
そこへ小石が次々に落ちてくると、落下のエネルギーが熱に変わります。
この熱は、大気の上のほうでは、すぐに宇宙へ逃げていきます。
ところが下のほうでは、そうはいきません。
大気の底ほど、上に積み重なるガスが多く、気圧が高くなります。
それは、底ほど分厚い毛布を何枚も重ねてかぶっているのと同じことです。
熱はこの毛布にさえぎられて、なかなか外へ逃げられません。
こうして熱は大気の底にこもり、大気は下へ行くほど熱くなっていきます。
地球ほどの大きさになると、大気の底は2700℃、200気圧(深さ2000メートルの海の底ほどの圧力)を超えることもあると考えられています。
岩石を溶かすには十分すぎる熱さです。
この熱い大気の中へ、小石は次々に飛び込んでいきます。
流れ星は猛スピードで大気に突っ込むので、一瞬で燃え尽きてしまいます。
これに対して小石は、分厚い大気のブレーキをまともに受け、秒速数メートルほどのゆっくりした速さで、何千キロメートルもの道のりを落ちていきます。
そのあいだに、まわりの熱で溶けていくのです。
つまり当時の地球の空では、溶けた石の粒が、熱い水素にどっぷり浸かったまま、何日もかけて落ちていたと考えられます。
この小石の雨にも、水素の大気にも、海をつくれるほどの「水」は含まれていません。
けれども、両方を合わせれば「水の材料」はそろっています。
水は、水素2つと酸素1つが結びついたものです。
水素のほうは、大気にいくらでもあります。
もう一方の酸素は、乾いた石の中にたっぷり含まれています。
実は地球の岩石は、重さのおよそ半分が酸素です。
わかりやすいのが、水晶です。
水晶は、ケイ素1つと酸素2つが結びついたもの(二酸化ケイ素、SiO₂)で、重さの半分あまりを酸素が占めています。
岩石の多くは、このケイ素と酸素の組み合わせを骨組みに、鉄やマグネシウムなどが加わってできています。
石が乾いているというのは、水の粒(水分子)を含まないというだけのことなのです。
問題は、その酸素を石から引きはがせるかどうかです。
ケイ素やマグネシウムは酸素とがっちり結びついていて、熱い水素でも簡単には引きはがせません。
その点、鉄は酸素をそれほど強くは抱えていません。
そこで主役になるのが、鉄さびと同じく鉄と酸素が結びついた成分(酸化鉄)です。
熱い水素がこの酸化鉄に触れると、水素は鉄から酸素を奪い取って水(水蒸気)になり、酸素を手放した鉄は金属の鉄として残ります。
地上では、この反応が新しい鉄づくりに生かされ始めています。
鉄鉱石の酸素を石炭ではなく水素で奪い取り、煙突から二酸化炭素の代わりに水蒸気を出す「水素製鉄」です。
乾いた小石が熱い水素の中を何日も落ちていくなら、地球の空そのものが巨大な水素製鉄所になります。
石から次々に水が生まれても、おかしくないのです。
では、小石が落ちていくあいだに、本当に水はできあがるのでしょうか?
水を絞り切った岩が数時間で水を生んだ――地球全体なら海数百杯分にも
乾いた小石は、熱い水素の中でどれほどの速さで水をつくるのか?
それを確かめるため、ニューメキシコ大学のスシュミタ・ガライ氏らの研究チームは、溶けた小石が熱い水素にさらされる状態を、実験室の炉の中で再現しました。
材料は、小石と同じく酸化鉄を含む岩石で、海底の火山から生まれた玄武岩(中央海嶺玄武岩)などです。
ただし、岩を熱して水が出てきても、それが新しく生まれた水だとは限りません。
天然の岩には、もともと水が少しだけしみ込んでいるからです。
濡れたスポンジを絞れば水は出てきますが、それはスポンジがつくった水ではありません。
そこで研究チームはまず、ほかの物質とほとんど反応しないヘリウムガスの中で岩を溶かし、しみ込んでいた水(玄武岩の重さの0.8%ほど)をすっかり追い出しました。
ヘリウムの中で熱しただけでは、酸化鉄が金属の鉄に変わる様子は見られませんでした。
こうして乾ききった岩を、今度は水素を流しながら1200〜1450℃で熱しました。
すると岩の中の酸化鉄が減って金属の鉄が現れ、水蒸気が立ちのぼったのです。
水を出し切った岩から出てきたこの水は、岩に含まれていた酸素と、流した水素から新しく生まれたものです。
目を引くのは、その速さです。
1300℃以上では、15分から3時間ほど熱するだけで、岩の中の酸化鉄の最大8割が金属の鉄に変わり、1200℃でも2割ほどが変わっていました。
酸化鉄が鉄に変わったぶんだけ、酸素は水素に渡り、水になっています。
一方、今の7割ほどの重さまで育った地球に直径1ミリの小石が降ると、小石は溶けたまま約9日かけて落ちていくと計算されています。
これは、いちばん長い実験(3時間)の72倍にあたる時間です。
数時間で水を生む小石にとって、9日はたっぷりの持ち時間です。
では、地球全体では、どれほどの水が生まれるのでしょうか。
生まれる水の量は、減った酸化鉄の量から逆算できます。
研究チームはさらに、地球をつくった小石がもともと含んでいた酸化鉄の量を仮定し、今の地球の奥深くの岩に残る量との差から、この反応がどれだけの水を生むかを計算しました。
答えは、最大で地球の海の数十〜数百杯分です。
こうして水蒸気が生まれていたころ、地球の地表はどろどろに溶けた岩で覆われていました。
水蒸気は、その溶けた岩に溶け込むか、大気の外へ流れ出ていくかのどちらかの道をたどります。
もっとも海数百杯分ともなると、溶けた岩が抱え込める量を超えてしまいます。
あふれた水の多くは、宇宙へ逃げていったと考えられます。
溶けた岩に抱え込まれた分は地球にとどまり、のちの海のもとになりえます。
では、地球が本当にこうして自分で水をつくっていたのなら、その跡は今の地球のどこかに残っているのでしょうか?
水をつくった跡は地球の奥に? 火星のマントルにはリンが地球の9倍も残っていた
水をつくった跡は、地球のどこを探せば見つかるのか?
手がかりは、水といっしょに生まれたもう一つのもの、金属の鉄にあります。
地球の中心には金属の鉄を主とする「核」があり、そのまわりを岩の層「マントル」が包んでいます。
このマントルのもとになったのが、当時の地表を覆っていた溶けた岩です。
水をつくる反応で生まれた金属の鉄は重いので、この溶けた岩の中を沈み、地球の中心で核の一部になったと考えられます。
しかも、鉄はひとりで沈んだわけではありません。
実験でできた鉄の粒は、岩に含まれていたリンという元素を強く抱え込んでいたのです。
その証拠に、ふつうは1538℃で溶ける鉄が、1300℃の実験でも溶けて丸いしずくになっていました。
一方、リンを含まない人工の岩で同じ実験をすると、鉄は溶けずに角ばった結晶になりました。
リンが混ざると、鉄は溶けやすくなるのです。
つまり空で水がつくられるたびに、鉄とリンがいっしょに地球の中心へ運ばれていったことになります。
そうだとすれば、今の地球のマントルでは、酸化鉄とリンが抜き取られたぶん、少なくなっているはずです。
その答え合わせの相手になるのが、お隣の火星です。
研究チームによると、小石が溶けて反応するほど大気が熱くなるのは、惑星が地球のおよそ3割の重さを超えてからです。
火星は地球の1割ほどの重さしかなく、空の水素製鉄はほとんど起きなかったと考えられます。
実際、同じ量の岩で比べると、火星のマントルには、地球の約1.8倍の酸化鉄と、約9倍ものリンが残っています。
研究チームは、この大きな差を、地球の空でだけ水づくりが進んだ結果として説明できると考えています。
小石の雨で育った地球で、もしこうして水がつくられていなければ、マントルは酸化鉄とリンが多すぎ、核の鉄は少なすぎるものになっていただろうというのです。
もちろん、今の海の水のうち、どれだけがこうして生まれたものなのかは、まだわかっていません。
それでも今回の実験と計算は、地球が宇宙からの宅配便に頼らなくても、自分の空で海を何杯も満たせるほどの水をつくる力を持っていたことを示しています。
しかもこの反応は、熱い水素の大気さえあれば、どの惑星でも起こりえます。
研究チームは、小石が降り積もってできた地球サイズの系外惑星(太陽以外の恒星を回る惑星)でも、こうして生まれた水はありふれたものかもしれないと述べています。
私たちが当たり前のように眺めている海も、生まれたての地球の空で、乾いた石の雨と水素がつくり出した水からはじまったのかもしれません。
専門家向け補足
乾いた岩石から水を作る反応は、惑星の内部組成まで変えるのでしょうか。
ガライ氏らの研究は、水の生成と金属鉄の生成を実験で結びつけ、その反応を初期地球の成長過程に当てはめました。
検討の中心にあるのは、水の量と、核・マントルに分かれる元素の量を、一つの物質収支で説明できるかという問いです。
乾いた岩石から水と金属鉄が生じた
主な試料には、海底で形成された中央海嶺玄武岩を使いました。
研究チームはまず、反応しにくいヘリウム中で試料を加熱し、もともと含まれていた水を除去しました。
この段階では、金属鉄の生成は認められていません。
その後、乾燥した試料を水素中で1200〜1450℃に加熱すると、岩石側の酸化鉄が減り、金属鉄と水が生じました。
反応の中心は、酸化鉄に結びついていた酸素が水素へ移り、水になることです。
酸素を失った鉄は、金属として残ります。
このように酸化鉄から酸素を取り去る反応を、還元と呼びます。
したがって、この実験は岩石に含まれる水の放出を調べただけでなく、岩石の酸素を使う水の生成を捉えています。
水量の測定には、実験の種類に応じて二つの方法を使っています。
誘導加熱の実験では、生成した水蒸気を冷却して回収し、質量を測りました。
初めの質量が約0.5〜1gの玄武岩試料では、15分間の水素との反応で8.2〜20.3mgの水を回収しています。
一方、試料の少ない抵抗加熱の実験では、反応前後の岩石に含まれる酸化鉄の量から、水の生成量を換算しました。
この二つは測定法を使い分けた結果であり、すべての実験で水量と酸化鉄の減少を別々に測って一致を確認したわけではありません。
反応時間は15分〜3時間で、本文では1300℃以上で初期の酸化鉄の最大約80%が金属鉄へ変わったと報告されています。
この割合は、初めにあった酸化鉄のうち、どれだけが反応したかを表します。
抵抗加熱の比較では、1200℃より1300℃で反応率が大きくなりました。
一方、加熱時間を1時間から3時間へ延ばしたときの増加は小さく、著者は反応速度が時間とともに低下すると解釈しています。
経過時間に比例して水が増え続ける反応ではないことが、ここから分かります。
生成した金属には、岩石からリンが取り込まれていました。
1300℃で1時間反応させた試料では、岩石側のリン濃度は平均で約0.15重量%から約0.005重量%へ下がりました。
生成金属には約1.0重量%のリンが含まれており、リンが金属側に集まる傾向を確認できます。
これらは、反応前後の各部分の濃度を比較した値です。
天然試料では球状の金属粒が生じ、純鉄の融点である1538℃より低い温度でも、金属が溶けていたことが示唆されます。
これに対し、リンと硫黄を含まない合成玄武岩では、角ばった金属鉄の結晶ができました。
著者らは、少量の元素、特にリンの取り込みによって金属の融点が下がったと説明しています。
この結果は、リンを含む金属が岩石から分かれる経路を、組成と形態の両面から支えています。
惑星規模の水量はマントルの組成を手がかりに計算した
実験結果を惑星形成へ結びつけるうえで重要なのが、反応に使える時間です。
論文が用いる大気モデルでは、地球質量の0.7倍の原始惑星に落ちる直径1mmの粒は、約9日間、溶融状態にあります。
数時間で進む実験結果と比べると、落下中に反応する時間的な余地があることになります。
ただし、9日間という値は大気モデルによる計算であり、実験で小石を落下させて測った値ではありません。
地球全体の水量については、地球の主要元素組成を再現する二種類の小石材料モデルを用いました。
計算を制約するのは、原始マントルの鉄とマグネシウムの比です。
原始マントルとは、地殻が分かれる前の、核の外側にある岩石部分を指します。
酸化鉄を反応させて金属鉄を核へ移すほど、この岩石部分に残る鉄は少なくなります。
そこで著者らは、現在推定されている原始マントルの組成に合うように、反応した酸化鉄の割合を求めました。
その割合は、小石中の鉄が初めからどれだけ金属だったか、核に酸素がどれだけ入ったかによって変わります。
二つの材料モデルでは、組成と両立する還元率の最大値が、それぞれ約79%と約48%になりました。
この最大還元率に対応する水の生成量は、前者の材料モデルで現在の海の数百個分、後者で数十個分です。
反応をさらに進めれば水は増えますが、マントルに残る酸化鉄が少なすぎて、地球の組成と合わなくなります。
つまり、この水量は、岩石側に鉄をどれだけ残せるかという制約を受けた計算結果です。
水の生成と惑星内部の組成は同じ反応でつながる
今回の結果から見えてくるのは、水の起源を惑星内部の元素分布と結びつけて調べる道筋です。
水ができるたびに、岩石の酸化鉄の一部は金属へ変わります。
この金属が溶けた岩石の海を沈んで核へ加われば、マントルから鉄が取り除かれます。
実験で確認されたように金属がリンも取り込むなら、リンも核へ運ばれることになります。
水の生成と、マントルからの鉄・リンの除去は、同じ化学過程の異なる結果として説明できます。
この見方を具体化するのが、地球と火星の比較です。
論文が引用する組成推定では、火星のマントルには、地球の原始マントルより酸化鉄が約1.8倍、リンが約9倍多く含まれます。
著者らは、この差を惑星の大きさと大気中の反応に結びつけました。
大気モデルによれば、大きく育った地球では、落ちてくる小石を溶かす高温の水素大気が成立しえます。
小さい火星では、そのような大気中の還元が進みにくかったと考えられます。
この違いなら、地球側でリン入り金属を多く作り、それを核へ送る方向の組成変化を説明できます。
ここで得られたのは、組成差を説明しうる仕組みです。
金属の生成とリンの取り込みは実験結果ですが、金属が惑星の核へ移る段階は、惑星形成に当てはめた著者の解釈です。
また、火星との比較値は既存研究に基づく推定であり、今回新たに測定したものではありません。
それでも、水の生成を考える際に、岩石側に残る元素まで同時に問えるようにした点には意味があります。
生まれた水が次の水生成を抑える
もう一つ重要なのは、水が反応の生成物であると同時に、反応の進み方を左右することです。
著者らの熱力学的な検討では、水蒸気が周囲にたまると反応は平衡に近づき、それ以上の還元が進まなくなります。
ここでいう平衡とは、酸化鉄から水を作る向きと逆向きの反応が釣り合い、全体として反応が進まなくなる状態です。
水素が豊富で高温だからといって、酸化鉄の還元と水の生成が際限なく進むわけではありません。
生成した水がマグマに溶け込んだり、大気から周囲の星雲のガスへ流れ出たりすると、反応がさらに進む余地が生まれます。
ただし、惑星の外へ流れ出た水は、その惑星に残る水量には加わりません。
このため、水を多く作れる条件が、そのまま多くの水を保持できる条件になるとは限りません。
海の起源を説明するには、反応の総量と、生成した水の行き先を一緒に扱う必要があるのです。
制限 実際の海への寄与を決めるには何が足りないか
第一に、実験条件と原始惑星の環境には違いがあります。
実験では、装置内に保持した試料に純水素を流し、約84kPaという地上の大気圧に近い圧力で加熱しています。
一方、想定する原始大気にはヘリウムや水蒸気もあり、深い場所でははるかに高圧です。
落下する粒の温度変化やガスとの接触、物質の出入りも含めて、同じ反応率になるとは限りません。
今回確かめた反応の成立と速さを、惑星内の場所ごとの生成量へ変換するには、さらに大気と反応を結びつけた検討が必要です。
第二に、水量の計算は、小石による成長という形成史と、材料や核の組成に依存します。
「海の数十〜数百個分」は、異なる仮定から得られる生成量であり、観測から決まった信頼区間ではありません。
図5の狭い誤差の幅も、主にマントルの鉄とマグネシウムの比の推定誤差を反映しています。
原料や核組成の不確かさを、すべて含んだ予測誤差として読むことはできません。
また、その元素比は計算条件を選ぶために使っているため、一致したこと自体を独立した実証として数えることもできません。
鉄・リンの組成差についても、今回の経路だけが原因だと特定したわけではありません。
地球と火星の出発材料や核形成の違いを含む、別の形成史との比較が必要です。
論文の水量計算には、後の衝突で運ばれる酸化鉄も含まれていません。
水を含む小天体からの供給が、この生成経路と併存する可能性も残されています。
水の由来を調べる別の手がかりとして、著者らは水素の同位体比も測っています。
これは、通常の水素に対して重い水素である重水素が、どれほど含まれるかという比です。
生成した水と供給した水素ガスの間で、重水素比が異なる程度は、理論的な平衡値とよく一致しました。
ただし、原始の星雲ガスから作った水を現在の地球の値へ結びつけるには、生成後の変化も考える必要があります。
著者らは、星雲が消えた後に軽い水素が優先して失われ、残る水素の重水素比が上がるモデルを加えています。
この部分は生成時の実測と、その後の損失を仮定した計算の組み合わせです。
最終的に残る課題は、生成した水のうち、どれだけが地球に取り込まれ、現在の海へつながったかです。
海の数百個分という大きな生成量は、それだけで現在の海の由来を決めるものではありません。
水の生成、マグマへの溶解、大気からの流出、その後の水素損失を通して、残存量を追う必要があります。
そのうえで、岩石に残る鉄・リンと水素同位体の組成まで同時に説明できれば、この経路が地球の歴史で果たした役割を、より強く評価できます。
元論文
Experimental simulation of water formation on Earth from dry pebble rain
https://doi.org/10.1038/s41561-026-02118-7
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部