ジュラ紀の「巨大な6本脚の捕食者」の化石を発見
子どもの頃の虫捕りでは、つい大きくて目立つ虫ばかりを追いかけていたものです。
6本脚の生き物と聞くと、多くの人は昆虫を思い浮かべるでしょう。
ところが6本脚の仲間には、昆虫のほかにも、土の中でひっそり暮らすグループがいます。
化石としてはめったに残らないため、その進化の歩みはよく分かっていません。
そんな仲間の歴史に新しい光を当てる化石が、中国のジュラ紀の地層から報告されました。
いったい、どんな化石だったのでしょうか。
研究の詳細は、中国科学院南京地質古生物研究所らにより、2026年10月7日付で学術誌『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』に掲載されました。
30万点の化石からたった1点、謎の多い「コムシ」の化石
昆虫は、6本の脚をもつ「六脚類(ろっきゃくるい)」という大きなグループに含まれます。
六脚類には、昆虫のほかに、あまり知られていない小さな仲間が3つあります。
カマアシムシ、トビムシ、そしてコムシです。
3つとも、六脚類の中で早い時期に枝分かれした系統です。
そのため、6本脚の生き物のもともとの体の作りを知るうえで、鍵を握るグループとされています。
ところが、これらの仲間は化石としてはきわめてまれにしか見つかりません。
カマアシムシにいたっては、知られているかぎり化石が一つも見つかっていません。
今回の主役のコムシは、翅(はね)をもたない、昆虫の親戚です。
お尻の先には、触角やハサミのように見える2本の突起(尾角:びかく)があります。
中国科学院とバレンシア大学の研究者たちは、このコムシの1点の化石に注目しました。
化石が出たのは、中国北東部、内モンゴル自治区の道虎溝(ダオフーゴウ)という場所です。
ここには、約1億6500万年前、ジュラ紀中期の生き物たちの化石が豊富に残っています。
これまでに調べられた道虎溝の化石は、野外の採集分と収蔵品を合わせて30万点近くにのぼります。
何十年も発掘と選別が続けられてきました。
それでもコムシの化石は、およそ20年前に採集されたこの1点だけでした。
割合にすれば0.001%にも届かない、きわめて珍しい標本です。
化石は上下2枚に割れた状態で、保存状態は非常に良好でした。
研究チームは鋭いナイフで丁寧に岩を取り除き、実体顕微鏡で観察しました。
口や顎、尾のハサミ、腹部を細かく撮影し、今のコムシや他の化石のコムシと比べています。
さらに、コムシの家系図のどこに収まるかを調べる解析(系統解析)も行いました。
研究チームはこの化石を新種と認め、シノジャピクス・ギガンテウス(Sinojapyx giganteus)と名づけました。
この種のために、新しい科(属の一つ上の分類のまとまり)であるSinojapygidaeも設けています。
ジュラ紀の“巨人”コムシは、今の仲間と何が違ったのか
まず目を引くのは、その体の大きさです。
シノジャピクスの体長は5cmを超え、単三電池の長さほどもありました。
今のハサミコムシ(尾角がハサミの形になったコムシの一群)の仲間は、ふつう2cm未満で、1円玉の直径に収まる大きさです。
シノジャピクスは、その2倍以上の長さがあったことになります。
今いるコムシの種と比べても、その約98%より大きいとされています。
深い土の隙間に住む小さな種には、体長がふつう2mm未満のものもいます。
一方で、体の基本の作りは、まさにコムシそのものでした。
節の多い1対の触角があり、胸の3つの節には、5つの節からなる脚が1対ずつ付いています。
腹部は10節からなり、お尻には1対の尾角がありました。
研究チームが特に注目したのは、口の作りです。
昆虫以外の3つの仲間は、どれも顎が頭の中に隠れています。
口の中のひだでできた袋に顎が収まる作りで、「内顎(ないがく)」と呼ばれます。
一方、昆虫の顎は頭の外に出ており、こちらは「外顎(がいがく)」と呼ばれます。
これまでは、3つの仲間は隠れた顎を一つの共通の起源から受け継いだ、と考えるのが伝統的な見方でした。
ところがシノジャピクスの顎は、頭の中に完全には収まっていませんでした。
下唇の付け根から前へ伸びる部分が大顎の付け根までしか届かず、大顎(おおあご)などが一部、外にのぞいていたのです。
今のコムシでは、大顎は頭の中にすっぽりと包まれています。
つまりジュラ紀のコムシは、顎が外に出た作りをまだ残していたことになります。
この発見は、6本脚の仲間全体の進化の筋書きにも関わります。
6本脚の仲間は陸にすむ甲殻類の特殊な一派とされ、もともとは外顎だったと考えられてきました。
一方、知られている最古の六脚類であるデボン紀のトビムシの化石は、すでに今とよく似た内顎をもっていました。
それなのに、ずっと後のジュラ紀のコムシには、外に出た顎が残っていたのです。
研究チームは、この化石を、外顎が元の姿だったことを示す確かな証拠だとしています。
そして最新の系統の研究と合わせ、顎を隠す作りは少なくとも3回、別々に進化したと提案しています。
似た口の作りが、それぞれの仲間で独自に生まれたというわけです。
尾のハサミにも、進化の途中らしい特徴がありました。
ハサミの形はしていますが、左右が同じ形で、歯のような突起がありません。
今のハサミコムシの仲間がもつ、狩りに特化したハサミの手前の段階だと考えられています。
この歯のないハサミは、今のハサミコムシの仲間が幼い最初の時期に見せる形と同じだといいます。
系統解析でも、シノジャピクスはハサミコムシの仲間の根元近くに位置づけられました。
体には、今のどのコムシにもない古い特徴も残っていました。
シノジャピクスは、新しい特徴と古い特徴をあわせもつ、進化の途中の姿だったのです。
ジュラ紀の土の頂点の狩人は、待ち伏せ型だった可能性
では、この大きなコムシは、土の中でどう暮らしていたのでしょうか。
手がかりの一つは、頑丈な顎です。
今のハサミコムシの仲間の大顎は細く、先のほうにいくつかの歯が並びます。
これに対しシノジャピクスの大顎は強く曲がり、頑丈で鋭い歯が3本ありました。
その歯は、大顎の前側の3分の2を占めていました。
顎の別の部分にある歯もゆるく曲がるだけで、今の仲間にあるくし状の薄い板がありません。
そのため、今の仲間より口を大きく開け、大きな餌も飲み込めたと考えられます。
研究チームは、獲物を引き裂き、かみ砕く力が今の仲間より強かったとみています。
尾のハサミも、作りは素朴ながら、すでにとても頑丈でした。
今のハサミコムシの仲間は、獲物に出会うとすぐにつかんで食べることが観察されています。
獲物が抵抗すると、腹を上へ、前へと丸め、尾のハサミで押さえ込みます。
土の隙間に隠れた獲物には、腹を差し込み、ハサミで引きずり出すこともあります。
今いる巨大な仲間には、土のトンネルに身を潜め、ハサミだけを地表に出すものもいます。
そして、そばを通りかかった獲物をつかむのです。
シノジャピクスも体が大きく、脚は短くて頑丈でした。
そのため、素早く走って獲物を追う狩人ではなかったと考えられます。
研究チームは、尾のハサミで通りがかりの獲物をつかむ、待ち伏せ型の狩人だった可能性が高いと提案しています。
では、ジュラ紀の土の中で、シノジャピクスはどんな立場にあったのでしょうか。
道虎溝は土にすむ生き物の化石が豊富ですが、その大半はイシノミ(翅をもたない原始的な昆虫)やゴキブリなど、何でも食べる虫です。
獲物を狩る甲虫やクモもいましたが、どれも比較的小型でした。
しかも、今の土の中で頂点に立つサソリやムカデは、道虎溝の化石からはまだ見つかっていません。
そこで研究チームは、今ある証拠から見るかぎり、シノジャピクスは土の中の頂点捕食者(食物連鎖の頂点に立つ捕食者)の一つだったとしています。
今の世界でも、ごく一部の巨大なコムシは石の下で、ふつうサソリやムカデが担う役割を果たしています。
ただし、これらの結論は見つかっている1点の化石にもとづくものです。
また、サソリやムカデは「いなかった」と分かったのではなく、「まだ見つかっていない」段階です。
コムシの仲間がいつ枝分かれしたかについても、年代を示す枠組みがまだなく、推定にとどまっています。
それでも今回の化石は、白亜紀より前がほとんど空白だったコムシの化石の記録を大きく埋めるものです。
今は土の中でひっそり暮らす小さな虫たちにも、ジュラ紀にはこんな大物の親戚がいました。
単三電池ほどの体で土の中にひそみ、尾のハサミで通りかかる獲物をつかもうと待ち構えていたのかもしれません。
次に植木鉢を持ち上げるときは、土からハサミが出ていないか、少しだけ確かめてしまいそうです。
ここからは、コムシ目をもっと知りたい人へ
コムシとは、土や落ち葉の中で暮らす、6本脚の小さな虫です
コムシは、白から乳白色の細長い体をした虫で、体長はふつう3〜15mmほど、眼はありません。
コムシの食べものは仲間によって違い、ナガコムシの仲間は主に植物や菌糸(カビなどの体をつくる細い糸)、胞子を食べます。
一方、ハサミコムシの仲間は肉食で、土の中の小さな生き物、とくに昆虫の幼虫やトビムシを獲物にします。
ハサミコムシの尾のハサミは、敵に襲われたときにかざす武器にもなります。
コムシは洞窟のような地下から落ち葉の積もった地表近くまで、さまざまな所にすみますが、高い湿度とほどよい気温が欠かせません。
また、コムシは自分で穴を掘って巣をつくり、脱皮や産卵のときには入口をふさぎます。
卵からかえったコムシは姿を大きく変えずに育ち、大人になってからも脱皮を続けて、何度も卵を産めます。
コムシは世界で約1000種が知られていますが、日本では調査が進んでおらず、記録されているのは14種ほどです。
写真で見るナガコムシの仲間
参考文献
Giant Jurassic fossil sheds light on the evolution of a six-legged predator (Phys.org)
https://phys.org/news/2026-10-giant-jurassic-fossil-evolution-legged.html
コトバンク「コムシ」
https://kotobank.jp/word/%E3%82%B3%E3%83%A0%E3%82%B7
コトバンク「ハサミコムシ」
https://kotobank.jp/word/%E3%83%8F%E3%82%B5%E3%83%9F%E3%82%B3%E3%83%A0%E3%82%B7
元論文
A giant Jurassic hunter: the earliest dipluran and its implications for hexapod body pattern evolution
https://doi.org/10.1098/rspb.2026.1207
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部