イスラエルのテルアビブ大学(TAU)などで行われた研究によって、9900万年前の琥珀に閉じ込められていたトカゲのしっぽが、身を守るために自分で切り離したものだったことが明らかになりました。


切り口に、トカゲが自分でしっぽを切ったときにしかできない、特徴的な筋肉の形が残っていたのです。


自分でしっぽを切ったと言い切れる化石が見つかったのは、トカゲに限らず、背骨のある動物でこれが初めてです。


責任著者のレオニダス=ロマノス・ダヴラノグル氏は「しっぽ切りについて、反論の余地がなく、最も強く裏付けられた初めての証拠です。まさに動かぬ証拠です」と述べています。


研究内容の詳細は2026年10月8日に『Palaeontologia Electronica』にて発表されました。




目次



  • トカゲのしっぽは「ミシン目」で外れるようにできている
  • トカゲが切り落としたしっぽの化石は、これまで一つもなかった
  • 約9900万年前の琥珀に、しっぽを外したときの筋肉の形が残っていた

トカゲのしっぽは「ミシン目」で外れるようにできている


トカゲが「しっぽ切り」をした瞬間が、9900万年前の琥珀に残っていた / マイクロCTで見えた、しっぽの表面。うろこの一枚一枚まで形が残っています。右上(B)に見える途中の傷は、自切による切り口とは別のものです。Credit: Fabrikant et al. (2026), Palaeontologia Electronica, Fig. 2

トカゲを捕まえようとしたら、しっぽだけが手の中に残った。


子どものころ、そんな経験をした人もいるでしょう。


切れたしっぽはしばらくぴちぴちと跳ね回り、敵がそちらに気を取られているすきに、本体は逃げていきます。


この「しっぽ切り(自切)」は、いまのトカゲにとって最も広く使われている身の守り方です。


7000種を超えるトカゲのうち、数千種がこの技を持っていると見積もられています。


ただ、しっぽを捨てるのは、トカゲにとっても痛い出費です。


しっぽは、走ったり跳んだりするときに体のバランスを取る道具であり、多くのトカゲでは栄養をためておく倉庫でもあります。


失えば、走る速さや成長、仲間とのやりとり、子づくりにまで響き、次に襲われたときには逃げ切るのが難しくなります。


やがて生え直しても、新しいしっぽの芯は骨ではなく軟骨で、元どおりにはなりません。


だからトカゲのしっぽには、相反する二つの条件が求められます。


ふだんはちょっとやそっとでは取れないほどしっかりつながっていて、いざというときには一瞬で外れることです。


トカゲのしっぽは「ミシン目」で外れるようにできている / Credit:川勝康弘

この両立を可能にしているのが、しっぽにあらかじめ入っている「ミシン目」です。


トカゲのしっぽの芯には、小さな骨(椎骨)が数十個、数珠つなぎに並んでいます。


しっぽを切れるトカゲでは、その骨の多くで、骨になりきっていないやわらかい帯が真ん中を横切っています。


この帯が、骨のミシン目にあたる「破断面」です。


まわりの筋肉も、同じ位置で区画に分かれています。


区画のつなぎ目では、しっぽの先に近い側の区画から8本ほどのとがった筋肉の束が伸び、体に近い側の区画のくぼみに差し込まれています。


電気のプラグが、コンセントの差し込み口にはまっているようなものです。


ふだんはこの差し込みががっちりかみ合っていて、まっすぐ引っぱる力にはとても強いのです。


紙のミシン目とちがい、外れやすくなるのは、しっぽを曲げたときです。


しっぽの化石だけでは「しっぽ切り」の直接的な証拠にはなりません。 / Credit:川勝康弘

危険が迫ると、トカゲはしっぽを曲げながら、ミシン目のまわりの筋肉を縮めます。


するとプラグが差し込み口から抜けるように、しっぽはミシン目のところで外れるのです。


外れたしっぽの、体につながっていた側の端には、抜けたプラグ、つまりとがった筋肉の束が輪になって並んでいます。


切り口を正面から見ると、花びらが開いたような形です。


この形ができるのは、トカゲが自分の筋肉を使ってしっぽを外したときだけです。


死んだあとにちぎれたしっぽや、敵にかじり取られたしっぽでは、切り口がささくれたり、ねじれたり、つぶれたりして、この輪はできません。


つまり、切り落とされたしっぽそのものが、「自分で切った」ことを示す証拠になるのです。


では、太古のトカゲが切り落としたしっぽは、化石として見つかっているのでしょうか。


トカゲが切り落としたしっぽの化石は、これまで一つもなかった


トカゲが切り落としたしっぽの化石は、これまで一つもなかった / Credit:川勝康弘

自分で切ったと言い切れるしっぽの化石は、あるのか?


実は、これまで一つも見つかっていませんでした。


いまのトカゲが切ったしっぽなら、博物館にも、生き物好きの家の標本瓶にも残っているのに、です。


研究者たちが手にしてきたのは、しっぽそのものではなく、しっぽを切る「しかけ」や、切れたあとに生え直した跡でした。


しっぽ切りの技は、2億4000万年以上前に現れたトカゲやヘビの仲間(有鱗目)の共通の祖先の段階で、すでに備わっていたと考えられています。


その手がかりの一つが、化石の骨に残るミシン目です。


ミシン目そのものは、さらに古い化石からも見つかっています。


トカゲの仲間が現れる前の遠い親戚、約2億8900万年前の爬虫類カプトリヌス(Captorhinus)では、しっぽの骨の真ん中に、いまのトカゲとよく似たミシン目がありました。


ところが、骨のミシン目は、しっぽを切った証拠としては不十分です。


まず、ミシン目があっても、それを実際に使っていたとは限りません。


同じころに水辺で暮らしていた爬虫類メソサウルスのしっぽの骨にも、ミシン目らしきものがあります。


しかしこれについては、使われないまま残った名残だとする研究や、そもそも骨のつくりの違いを見誤ったものだとする研究が出ています。


さらに、ミシン目のところで外れたしっぽの骨が見つかったとしても、自分で切ったとは言い切れません。


ミシン目はもともと外れるための場所なので、死んだあとに体が崩れるときにも、そこで外れることがあるからです。


生え直したしっぽの化石も、しっぽを失ったことは教えてくれますが、自分で切ったのか、かみ切られたのかまではわかりません。


決め手になるのは、骨ではなく、切り口の筋肉が作る花びら形の輪です。


ところが生き物が死ぬと、筋肉や皮膚のようなやわらかい部分は、微生物に分解されてすぐに消えてしまいます。


背骨のある動物の化石が、ほとんど骨や歯ばかりなのは、そのためです。


しっぽ切りを化石で確かめるには、切り口の筋肉の形まで残った、切り落とされたしっぽが必要でした。


そんなしっぽが、何千万年も残る場所はあるのでしょうか。


約9900万年前の琥珀に、しっぽを外したときの筋肉の形が残っていた


約9900万年前の琥珀に、しっぽを外したときの筋肉の形が残っていた / 上段(A・C)は化石の切り口のCT画像、下段(B・D)は現在のスキンクの仲間の標本です。どちらにも、とがった筋肉が花びらのように並ぶ形が見えます。 Credit: Fabrikant et al. (2026), Palaeontologia Electronica, Fig. 3

筋肉の形を残したしっぽは、どこなら見つかるのか?


その数少ない場所の一つが琥珀です。


琥珀は、木の幹からしみ出した樹脂が、地中で長い年月をかけて固まった化石です。


樹脂はもともと、木が傷口をふさぎ、虫や菌から身を守るために出す、ねばねばの液です。


生き物がこの樹脂に包まれると、まわりの空気や水からさえぎられます。


樹脂には、微生物が増えるのを抑える成分も含まれています。


こうして、うろこの一枚一枚から、ふつうなら真っ先に腐ってしまう筋肉の形まで、立体のまま閉じ込められるのです。


ただし、トカゲほどの大きさになると、樹脂につかまっても抜け出せることが多く、琥珀に残るのは小さな虫などが中心です。


それでも、ミャンマー北部で採れる約9900万年前(白亜紀、恐竜の時代)の琥珀からは、ヤモリなどのトカゲや、生まれたばかりのヘビまで見つかってきました。


研究チームの引き出しにも、この琥珀が一つ眠っていました。


約9900万年前の琥珀に、しっぽを外したときの筋肉の形が残っていた / Credit:川勝康弘

2022年に業者から買ったもので、中にある長さ8ミリほどの物体は、小枝か虫のかけらだろうと思われていました。


ところが、筆頭著者で博士課程の学生のドレヴ・ファブリカント氏がよく見ると、表面にうろこが並んでいたのです。


それはトカゲのしっぽでした。


琥珀はにごっていて、顕微鏡では中までよく見えません。


そこでチームは、X線で中を輪切りのように撮影し、立体に組み立て直す装置(マイクロCT)で、しっぽの姿を浮かび上がらせました。


注目したのは、体から外れた側の端、つまり切り口です。


切り口はしっぽの向きに対してほぼ直角で、左右の形もそろっていました。


ちぎれたときにできるささくれやねじれ、押しつぶされた跡、うろこが一方向に裂けた跡も、切り口のどこにもありません。


そして切り口のまわりを、とがった筋肉の束が、花びらのように輪になって取り囲んでいたのです。


トカゲが自分の筋肉を使ってしっぽを外したときにだけできる、あの形でした。


いまのスキンクやカベカナヘビが切り落としたしっぽの標本と並べてみると、9900万年前の切り口はそれらとよく一致しました。


自切したイシガキトカゲのしっぽ。写真は現生のトカゲのもので、今回見つかった化石ではありません。 Credit: Metatron, Lizard tail autotomy/ Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.5

実はこのしっぽで残っていたのは、切り口を含む表面の形でした。


内側は鉱物に変わっていて、骨の形やミシン目は見分けられませんでした。


自分で切った証拠は、骨ではなく、ふつうなら消えてしまう筋肉の形と、整った切り口で示されたのです。


琥珀は、その日に起きたことの手がかりも残していました。


しっぽのおなか側が、先に流れて乾きかけていた樹脂の表面にぴったり貼りつき、その面の形どおりに平たくなっていたのです。


これは、しっぽが切れた直後の、まだやわらかいうちに樹脂に捕らえられたことを示しています。


その上を新しい樹脂が流れて覆い、しっぽを9900万年後まで閉じ込めました。


研究チームが最も単純な筋書きとして挙げるのは、木の上で暮らすトカゲが樹脂につかまり、しっぽを切って逃げ出したというものです。


本体は抜け出し、置き去りにされたしっぽだけが琥珀の中に残ったというわけです。


もう一つの筋書きは、捕食者に捕まったトカゲがしっぽを切って逃げ、捕食者がそのしっぽを樹脂の上に落としたというものです。


実際、しっぽの中ほどには、二つにちぎれかけるほどの傷もあります。


これは自切とは別のもので、敵にかみつかれたか、樹脂に貼りついたあとで何かにかじられた跡とみられています。


今回の研究により「実際に自分で切った」跡が残っていたしっぽがみつかりました。


この発見は、琥珀が生き物の形だけでなく、身を守る一瞬の行動まで閉じ込めうることも示しました。


また、いまのトカゲでは、しっぽを切る仕組みと生やし直す仕組みが、もともと一組になってできていることが多いのです。


そのため研究チームは、この化石が、しっぽを生やし直す遺伝子がいつ生まれたのかをたどる手がかりにもなるとみています。


公園の石垣で見かけるトカゲのしっぽ切りは、恐竜が歩いていた9900万年前の森でも、すでに命をつなぐ技として使われていたのです。


 


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元論文

First Fossil Evidence for a Dropped Lizard Tail
https://doi.org/10.26879/1706

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 トカゲが「しっぽ切り」をした瞬間が9900万年前の琥珀に残っていた――初の化石証拠 」