暑い日に冷たいジュースを頼むと、グラスの中で氷がカランと涼しい音を立てます。


私たちにとって氷とは、水を冷やして固めた冷たいものです。


ところが、天王星や海王星の奥深くには、熱いのに固体のままの氷があるかもしれないと考えられています。


フランスの研究チームは、ほんのわずかな水を熱しながら極限まで押しつぶし、そうした氷を実験室で作ろうと試みました。


そこに現れた氷の結晶は、いったいどんな姿をしていたのでしょうか。


研究の詳細は、フランス原子力・代替エネルギー庁らにより、2026年7月17日付で学術誌『Physical Review Letters』に掲載されました。


熱くても溶けない「超イオン氷」とは


水を数十万から数百万気圧という強さで押しつぶすと、熱くても溶けない特別な氷ができると考えられています。


その氷が現れるのは、およそ700〜1700℃を超える高温の世界です。


この氷の中では、酸素の原子が規則正しく並び、固体の骨組みを作っています。


理論では、その骨組みのすき間を、水素の原子核(陽子)が液体のように動き回ると予想されています。


超イオン氷の中で考えられているようすを表したイメージ図です。きちんと並んだ大きな玉(酸素)は動かず、そのすき間を小さな陽子が液体のように動き回るとされています。 / Credit: ナゾロジー編集部(生成 AI で作成)(生成 AI で作成したイメージ図)

1つの物質の中で、固体と液体が同居しているような状態です。


これが「超イオン氷」と呼ばれる氷です。


電気を帯びた陽子が自由に動くため、超イオン氷は金属に近いほどよく電気を通すと見積もられています。


しかも、この氷は溶ける温度もきわめて高く、酸素の骨組みがぎっしり詰まった並び方の新しい構造が現れるなかで、数千度にも達するといいます。


この不思議な氷は、天王星と海王星の謎とも関わっています。


2つの惑星の磁場は地球とは違い、自転軸に対して傾き、中心からもずれているのです。


地球の磁場は、惑星の中心にある核で、溶けた鉄が動くことで生まれます。


一方で天王星と海王星については、磁場を生む外側の薄い層の内側に、電気は通すのに対流しない層があると考えると、風変わりな磁場をうまく説明できるという仮説があります。


その内側の層を作っているのが、水だけでなくアンモニアやメタンも混ざった、熱く密度の高い超イオン氷ではないかと考えられています。


つまり、超イオン氷の中身を知ることは、遠い惑星の内部を知ることにつながるのです。


200万気圧の熱い水の中に現れた氷の正体とは?


研究チームが圧力をかけるのに使ったのは、「ダイヤモンドアンビルセル」という装置です。


向かい合わせた2つのダイヤモンドの先端で、小さな試料をはさんで押しつぶします。


ただ、ふつうの装置ではレーザーで熱すると試料に大きな温度のむらができてしまい、測定が難しくなっていました。


研究を率いたのは、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)のアレクシス・フォレスティエ氏とグンナー・ヴェック氏です。


チームは、ダイヤモンドの先にカップ形の円盤を2枚加えました。この円盤はホウ素を添加したダイヤモンドでできていて、熱をよく伝えるものです。


2つのダイヤモンドの先で水を押しつぶしながら熱する装置の中心部の図です。熱をよく伝える2枚のカップ形の円盤で水を包み、レーザーで両側から熱して温度のむらを小さくしています(縮尺は正確ではありません)。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

試料は、不純物をほぼ取り除いた水(超純水)で、大きさは12μm(0.012mm)ほどです。


この工夫で、試料をむらなく熱しながら押しつぶせるようになりました。


チームは、およそ79万〜226万気圧の範囲で水を押しつぶしました。


同時に、室温ほどの約27℃から、約2360℃まで温度を上げていきました。


観察には、フランス・グルノーブルにある欧州の放射光施設(強いX線などの光を生み出す大型の施設)で、1μmより細いX線のビームを使いました。


結晶にX線を当てると、原子の並び方に応じた模様が現れます(X線回折)。


試料が小さくても、細いビームのおかげで鮮明な模様が得られたといいます。


その模様から、これまで実験で確かめられていなかった並び方の超イオン氷が見つかりました。


新しい氷の並び方は、酸素の原子をボールに見立てると、すき間なく積み重ねる並べ方の1つ(六方最密充填:ろっぽうさいみつじゅうてん)です。


すでに見つかっていた超イオン氷の1つも、同じくすき間なく積む形(面心立方:めんしんりっぽう)をしています。


2つの違いは、主にボールの層をどの位置に重ねていくかです。


新しい氷はまず、約160万〜200万気圧、約1530℃以上の範囲で、面心立方の氷と並んで現れました。


観測結果は、この圧力の幅のなかで、新しい氷のほうが面心立方の氷より安定になっていくという考えと合っていました。


その移り変わりは、原子が一斉に少しずつずれて並びが切り替わる型(マルテンサイト変態)とみられます。


さらに約200万気圧、約1530℃を超えると、新しい氷が主役になりました。


このとき氷は、温度を上げたときの膨らみ方に、ふつうとは違う変化を見せています。


結晶は、ほぼ一方向にだけ伸びる形で膨らんでいたのです。


それが、水素が流れ出す超イオンの状態に入った証拠とされています。



新しい氷は、冷やしていくときにも姿を見せました。


面心立方の氷は温度が下がると、サイコロの角と中心に原子を置いたような並び方(体心立方:たいしんりっぽう)に戻ります。


その途中で、面心立方の層の重なり方が乱れ、そこから新しい氷が生まれていたのです。


面心立方の氷も新しい氷も、高い圧力をかけたまま室温まで冷やしても残りました。


体心立方の超イオン氷は2016年に初めて観測されており、今回の氷で超イオン氷は3種類になりました。


新しい氷は天王星や海王星の奥に眠っているのか


今回の発見は、天王星と海王星の内部を考えるための手がかりになるかもしれません。


フォレスティエ氏は、新しい氷の力学的な性質や電気の通しやすさを、惑星内部のモデルに組み込む根拠ができたと話しています。


同氏によれば、この氷は面心立方の氷と同居でき、約150万〜200万気圧より高い圧力では、より安定になります。


そのため同氏は、この氷が氷の惑星の内側の層のうち、より深い所におそらくあるだろうと見ています。


また研究チームは、新しい氷は向きによって性質に偏りがあるため、面心立方の氷より電気を通しにくいはずだと考えています。


そのぶん、惑星の磁場のモデルで考えられている「電気を通しにくい固体の内核」の候補として、より有力になるといいます。


探査機ボイジャー2号が1986年に撮った天王星です。この惑星の内側の層の深い所に、新しい氷があるかもしれないと考えられています。 / Credit: NASA/JPL-Caltech / Wikimedia Commons(Public domain)

ただし、分かっていないことも残っています。


今回、超イオンの状態に入ったと判断した根拠は、温めたときの膨らみ方の異常でした。


ヴェック氏は、膨らみ方以外にも、超イオンの性質をもっと直接示す証拠を得たいと語っています。


その候補が、物質の中を伝わる音の速さを、光を使って調べる方法(ブリルアン分光)です。


音の速さに異常が見つかれば、陽子が動き回っている証拠を強められると同氏は話します。


研究チームは今後、それぞれの氷が安定していられる圧力と温度の範囲を、正確に見きわめる計画です。


水の分子の形が残っている状態と、超イオンの状態などとの境目を描き出し、新しい氷が溶ける様子も調べるといいます。


それらが、こうした氷が本当に天王星や海王星の中で安定して存在するのかを確かめる助けになるのです。


コップの氷と同じ水が、遠い惑星の奥では、灼熱の中で酸素の骨組みを保ったまま、水素だけを流しているのかもしれません。


喫茶店で「氷は熱々でお願いします」と頼んでも、店員さんを困らせるだけなので、ご注意ください。


ここからは、超イオン伝導体をもっと知りたい人へ


超イオン氷とは、とても高い圧力と熱の中でできる、水素だけが動き回る氷です


1958年に作られた最初のダイヤモンドアンビルセルで、NISTのゲイザースバーグの博物館に展示されています。今回の実験に使われた装置ではありませんが、2つのダイヤモンドの先端で試料をはさむ、同じ種類の装置の始まりにあたる1台です。 / Credit: Gasper J. Piermarini / Wikimedia Commons(Public domain)

この氷は、実験で確かめられるより前に、理論の計算で存在が予想されていました。


その予想を確かめようと、別の研究では、レーザーで熱したダイヤモンドアンビルセルの中で水を調べました。


すると水は、酸素が体心立方に並ぶ氷と、面心立方に並ぶ氷へ、それぞれの境目で一気に切り替わりました。


この研究チームが、見つけた氷を超イオン氷だと判断した手がかりは3つありました。


1つ目は密度がほかの氷と違っていたことで、2つ目は光を使って測った電気の通しやすさが高まっていたことです。


そして3つ目は、溶けるときに吸い込む熱が大きく減っていたことでした。


この研究は、海王星や天王星のように水の多い巨大な惑星の中に、面心立方の超イオン氷がありそうだとも述べています。




Q. 超イオン氷が溶ける温度は、はっきり分かっているのですか?
A. 超イオン氷が本当にあるのかも、どの温度で溶けるのかも、理論と実験のどちらでも見きわめにくく、調べ方やデータの読み方によって食い違う結果が出てきました。そのなかで、レーザーで熱しながら押しつぶした水を調べた研究は、溶ける温度の境目が、それまでの押しつぶしたまま調べる実験より高い温度にあると報告しています。この結果は、理論の計算や、衝撃波を使った実験のデータとは合っていました。



写真で見る天王星と海王星





この研究の概要


発表

2026年7月に、物理学の専門誌『フィジカル・レビュー・レターズ』に掲載されました。



研究チーム

フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)のアレクシス・フォレスティエ氏とグンナー・ヴェック氏が率いるチームで、ソルボンヌ大学や欧州放射光施設の研究者も加わっています。



調べた対象

不純物をほぼ取り除いた水(超純水)の、直径12μmほどの小さな試料です。



調べ方

ダイヤモンドの先端で試料をはさむ装置に、熱をよく伝えるダイヤモンドのカップ形円盤を2枚加え、レーザーでむらなく熱しながら約79万〜226万気圧、約27〜2360℃の範囲で押しつぶしました。



調べ方

そのうえで、欧州放射光施設の細いX線ビームを当て、X線回折で氷の結晶の並び方を調べました。



分かったこと

約200万気圧・約1530℃を超えると、酸素がすき間なく積み重なった六方最密充填という並び方の超イオン氷が主役になりました。



分かったこと

これで、実験で確かめられた超イオン氷は3種類になりました。



まだ分かっていないこと

それぞれの氷が安定していられる圧力と温度の範囲や、新しい氷が溶ける様子は、これから調べる段階です。



まだ分かっていないこと

超イオンの状態に入ったことを、温めたときの膨らみ方より直接に示す証拠も、まだ得られていません。



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参考文献

New type of superionic water ice observed for the first time (Physics World)
https://physicsworld.com/a/new-type-of-superionic-water-ice-observed-for-the-first-time/

Structure and properties of two superionic ice phases(カーネギー研究所、2021)
https://carnegiescience.edu/structure-and-properties-two-superionic-ice-phases

元論文

Observation of Hexagonal Close-Packed Water Ice at Conditions in Ice Giant Planetary Interiors
https://doi.org/10.1103/sdrk-3m4t

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 1500℃でも溶けない「第3の熱い氷」を発見 」