「水金地火木土天海」は太陽の死で崩れる――惑星の並びが壊れる仕組みを発見
子どもの頃に覚えた「水金地火木土天海」は、大人になった今もすらすら口から出てきます。
太陽系の惑星の並びは、それほど当たり前で、動かないものに見えます。
けれども太陽にも寿命があり、いずれ外側のガスを宇宙へ吐き出して、小さな燃えかすの星になります。
そのとき、木星・土星・天王星・海王星という外側の4つの惑星はどうなるのでしょうか。
これまでは、太陽が死んだあとも、4つの惑星は途方もなく長いあいだ無事だと計算されてきました。
ところが新しい研究は、その計算が、ある前提に寄りかかっていたと指摘しています。
太陽の最期に、外側の惑星たちに何が起きうるのかを見ていきます。
研究の詳細は、2026年9月21日付で学術誌『The Astrophysical Journal Letters』に掲載されました。
目次
- 「100京年は安泰」とされてきた外側の太陽系
- 太陽がガスを「粒」で吐き出すと、惑星に何が起きるのか
- 生き残った太陽系のその後と、壊れずにすむ条件
「100京年は安泰」とされてきた外側の太陽系
太陽系はこの先も壊れずにいられるのかという問いは、天体の動きを計算する学問が生まれた頃からありました。
内側の惑星については、答えがほぼ出ています。
太陽が今のように安定して輝いているあいだに、水星の軌道が乱れる確率はおよそ1%です。
一方、外側の4つの惑星は、もっと安泰だと考えられてきました。
惑星どうしの引っ張り合いだけなら、並びが崩れるまでおよそ100京年かかると見積もられていたのです。
100京は、1のあとに0が18個並ぶ数です。
太陽が軽くなることや、近くを通る別の星の影響を入れても、約1000億年はもつとされていました。
ただし、これらの見積もりには共通の前提がありました。
太陽が外側のガスを、なめらかに、少しずつ手放していくという前提です。
研究チームが目を向けたのは、この前提と合わない最近の観測でした。
太陽のような星の燃えかすを、白色矮星(はくしょくわいせい)と呼びます。
その白色矮星が、反動を受けて突き動かされていることが、最近測られたのです。
反動が生じるには、ガスがどこかに偏って飛び出していなければなりません。
それなら、ガスはかたまりになり、毎回ばらばらの方向へ放り出されていると考えるのが自然だと、研究チームはみています。
これまでの「安泰」は、太陽が静かに軽くなるという仮定の上に立っていたのです。
太陽がガスを「粒」で吐き出すと、惑星に何が起きるのか
研究チームは、この考えをコンピューターの中の太陽系で試しました。
今の木星・土星・天王星・海王星を置き、太陽が年老いて軽くなっていく過程を計算でたどったのです。
まず、ガスがなめらかに抜けていく場合を、条件を変えて60回以上計算しました。
結果はどれも同じで、4つの惑星の軌道がそろって約1.85倍に広がっただけでした。
太陽の重さが今の約54%まで減るぶん、軌道が外へ広がるのです。
並びも公転の周期の比も今のままの「拡大コピー」で、その後数十億年分を計算しても何も起きませんでした。
次に、ガスをかたまりで放り出し、それが太陽の晩年を通して続く設定に変えました。
観測と合う標準の設定では、1回に飛び出す量は太陽の重さの1万分の1ほどで、回数は約4600回になります。
そのたびに太陽は反動で押され、速さの変化は真ん中の値で秒速7mほどです。
時速にすると約25kmで、自転車を少し飛ばしたくらいの速さにすぎません。
ところが、向きのばらばらな一押しが数千回重なると、惑星の軌道は千鳥足のようにふらつき始めます。
きれいな同心円に近かった並びは、つぶれた楕円や、順番の入れ替わった配置へと散らばっていきます。
この設定では、計算の約40%で、太陽が白色矮星になる前に並びが壊れるか、惑星が激しくはじき合いました。
太陽の死と同じ時期に太陽系の外側が崩れることが、珍しくなかったのです。
いちばん早い例では、太陽がまだ赤く大きな星(赤色巨星)で、今の89%の重さを残しているうちに、軌道が交わりました。
ある計算では、白色矮星ができてから250万年以内に、土星がはじかれて太陽系の外へ飛び去りました。
残された天王星と海王星は、公転の周期が2対1になる関係に固定されました。
別の計算では、約12億年後に天王星と海王星の順番が入れ替わり、約13億年後に海王星が放り出されています。
ガスの出方がなめらかなら無傷で、向きのばらばらな粒になると崩れうるという、はっきりした違いが出たのです。
生き残った太陽系のその後と、壊れずにすむ条件
では、太陽が白色矮星になった時点で無事だった太陽系は、そのまま生き残るのでしょうか。
研究チームは、条件を変えた672回の計算の結末を、外からの邪魔なしでさらに30億年先まで追いました。
先ほどの標準の設定では、30億年以内に96%で惑星の並びが不安定になりました。
かたまりの放出を太陽の最後の段階だけに限った控えめな設定でも、83%が同じ結末を迎えています。
この控えめな設定では、赤色巨星のうちに壊れる例は出ませんでしたが、行き着く先は変わりませんでした。
崩れ始める時期は、数百万年後から25億年より先まで、広くばらついています。
こうして外側の太陽系の寿命の見積もりは、100京年から、白色矮星ができて約10億年へと縮みました。
桁でいえば、10億分の1です。
これまでは近くを通る別の星が引き金になると考えられてきましたが、それを待つまでもありません。
太陽系は、先ほどの約1000億年の100分の1ほどの時間で、自分の内側の原因だけで崩れてしまうからです。
ただし、この結末には条件があります。
かたまりで放出しても、どの方向にも均等に飛び出す設定では、太陽系は30億年たっても安定したままでした。
かたまりが標準の約300分の1より細かい設定でも、不安定になった割合は2%以下にとどまっています。
つまり運命を分けるのは、ガスの粒がどれだけ粗く、偏って飛び出すかという一点です。
研究チームは、白色矮星の反動の観測を額面どおりに受け取るなら、粒は粗い側にあるとみています。
とはいえ、これはコンピューター上の計算で、反動の原因がかたまりの放出だという解釈に立った結果です。
太陽が本当にその粗さでガスを吐き出すのかは、この解釈が正しいかどうかにかかっています。
自転車ほどの速さの一押しが数千回重なるだけで、土星が去り、天王星と海王星が入れ替わるかもしれません。
見慣れた太陽系の図も、太陽の最期には描き直しになる可能性があるのです。
語呂合わせを覚え直すのは大変なので、太陽にはできるだけ静かに年を取ってほしいものです。
ここからは、白色矮星をもっと知りたい人へ
白色矮星とは、年老いた星が外側のガスを失ったあとに残る、小さくて重い星です
白色矮星は、重さが太陽の8倍くらいまでの星が、星を光らせる核融合を終え、外側のガスをほとんど失ったあとの姿です。
半径は地球ほどしかないのに、重さは太陽に近く、典型的には太陽の約0.6倍あります。
小さく重いこの星の表面では、薄い外側の層が地球の表面の10万倍ほどの強い重力を受けています。
白色矮星の大部分は、炭素と酸素でできた中心核を持っています。
また、白色矮星の重さには上限があり、その値は太陽の約1.46倍です。
名前には「白色」とありますが、出す光の色は青白から赤まで幅があります。
赤色巨星が最後の段階で噴き出した外側のガスは「惑星状星雲」として光って見え、噴き出しがとぎれとぎれに起こるものもあります。
この「惑星状星雲」という名前は、小さな望遠鏡で見ていた頃に惑星のように見えた名残で、惑星とは関係がありません。
「水金地火木土天海」の順に並べた、太陽系の8つの惑星
写真で見る星の一生と太陽系の惑星
参考文献
Terminal Instability of the Solar System Triggered by Stochastic Solar Mass Loss (The Astrophysical Journal Letters)
https://doi.org/10.3847/2041-8213/aea290
白色矮星 (天文学辞典)
https://astro-dic.jp/white-dwarf/
惑星状星雲 (天文学辞典)
https://astro-dic.jp/planetary-nebula/
平均運動共鳴 (天文学辞典)
https://astro-dic.jp/mean-motion-resonance/
Stars: Types (NASA Science)
https://science.nasa.gov/universe/stars/types/
太陽に関する基本的な質問 (国立天文台 野辺山)
http://solar.nro.nao.ac.jp/solar_basic/basic_q.html
Speeding-Bullet Star Leaves Enormous Streak Across Sky (NASA JPL)
https://www.jpl.nasa.gov/news/speeding-bullet-star-leaves-enormous-streak-across-sky/
元論文
Terminal Instability of the Solar System Triggered by Stochastic Solar Mass Loss
https://doi.org/10.3847/2041-8213/aea290
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部