エッグイーターの「真っ黒で喉の白い新種ヘビ」をエチオピアで発見
草むらで細長い影がするりと動くと、正体を確かめる前に足が一歩うしろへ下がってしまいます。
エチオピア南部の山あいの森に、インクのように真っ黒な体と、真っ白な喉をもつヘビがすんでいます。
研究者たちは初めて出会ったとき、これをすでに知られている黒いヘビの一種だと考えていました。
ところが、よく見るとウロコや色にどこか変わったところがあったのです。
見るからに危なそうなこの黒いヘビは、いったい何者で、森で何を食べて暮らしているのでしょうか。
独エアランゲン=ニュルンベルク大学らにより、このヘビの正体が報告されました。
研究の詳細は、独エアランゲン=ニュルンベルク大学らにより、2026年8月27日付で学術誌『Herpetozoa』に掲載されました。
目次
- エチオピアの山の森にいた「真っ黒なヘビ」
- 黒いヘビの正体は?喉の奥に隠れていた「変わった食事」
- 発表まで何年も待った理由は「殺したくなかった」から
エチオピアの山の森にいた「真っ黒なヘビ」
舞台は、エチオピア南部のバレ山地にあるハレナの森です。
アルトゥール・ティウテンコ氏らの研究チームは2019年、この森で黒いヘビの集団に初めて出会いました。
チームは現地の協力者から、若いメスを1匹受け取りました。
このヘビは背中がインクのように黒く、ウロコのすき間の皮ふは明るい灰色で、おとなでは青みがかって見えます。
一方で、あごの下から喉、お腹の前のほうにかけては、くっきりと白くなっています。
チームは最初、これをすでに知られている黒いヘビの一種(学名:Dasypeltis atra、以下アトラ種)だと考えました。
しかし、この若いメスには、知られているアトラ種とは違う、変わったウロコと色合いがありました。
見た目はよく似ているのに、細かいところがどうも合わないのです。
この小さな違和感が、何年にもおよぶ調査の出発点になりました。
黒いヘビの正体は?喉の奥に隠れていた「変わった食事」
違和感を確かめるため、チームは飼育下での繁殖を試みました。
このメスを、アトラ種のオスとつがいにしたのです。
メスが産んだ19個の卵のうち、孵ったのは1個だけで、その子どもには両親それぞれの特徴がまじって現れました。
さらに、その後の現地調査で出会った個体を調べ、遺伝子の解析も重ねた結果、ハレナの森のヘビは科学の世界でまだ知られていない新種だと確かめられました。
論文によると、新種と、それにいちばん近いアトラ種との遺伝的な隔たりは、この仲間で昔から別の種とされてきた一部の種どうしの隔たりと同じくらいか、それ以上でした。
すむ場所や環境の面でも、近い仲間とは切り離されているといいます。
付けられた学名は「Dasypeltis albigularis」、英語の呼び名は「white-throated egg-eater(白い喉の卵食い)」です。
そう、このヘビの食べ物は卵でした。
著者らによると、食べるのは鳥の卵だけで、喉にある特別なつくりの背骨で殻を割ってから飲みこみます。
そして、これほど黒々とした体をしていながら、毒はもっていません。
最初にまちがえられたアトラ種も、同じように黒くて毒のない卵食いのヘビです。
大きさはこの仲間のなかでは中くらいで、全長はメスで最大92cm、オスで最大58cmです。
背中はふつう一様に黒ですが、明るい茶色に細い模様が入った個体や、赤茶色の個体もときどき見られます。
発表まで何年も待った理由は「殺したくなかった」から
ただ、このヘビが正式に発表されるまでには、何年もの待ち時間がありました。
新種を正式に報告するには、ふつう死んだ個体を保存し、「ホロタイプ(その種の基準になる標本)」として博物館に収める必要があります。
しかしティウテンコ氏は、報告のためにヘビを安楽死させたくなかったと、メディアの取材に語っています。
写真や動画だけで新種を報告した研究も最近はありますが、これも科学者のあいだで批判されてきたと氏は言います。
生きた個体を基準にするのも、逃げるおそれがあるうえ、年をとると特徴が変わってしまうため良い方法ではないそうです。
そこで氏は、死んだヘビが見つかるまで何年も待つことにしました。
やがて地元の村人に殺された1匹が見つかり、氏はそれを基準の標本に指定して、ようやく発表へ進めたのです。
分析によると、このヘビはソマリア高原の南斜面だけにすむ固有種(その地域にしかいない種)とみられ、自然の森のほか、畑として切りひらかれた場所や村の集落にも現れます。
バレ山地国立公園の中にいるかどうかは、まだ確かめられていません。
そして、このヘビにとって最大の危険は人による迫害だと氏は指摘します。
この地域に危険なヘビはすんでいないのに、人々はヘビというだけで怖がったり嫌ったりして殺してしまうというのです。
インクのように黒い体の喉の奥にあったのは、毒ではなく、鳥の卵の殻を割るための背骨でした。
怖そうに見える生き物も、何を食べて暮らしているのかを知ると、まるで違う姿に見えてきます。
ここからは、タマゴヘビをもっと知りたい人へ
タマゴヘビとは、鳥の卵を専門に食べるヘビの仲間です
タマゴヘビの仲間は、おどかされると体の横のウロコをこすり合わせて、ヘビが「シューッ」と息を吐く時のような音を立てます。
仲間の1種のアフリカタマゴヘビは、怒ると体を巻いたりほどいたりしながら、相手に向かって激しく飛びかかるしぐさも見せます。
木登りも得意で、アフリカタマゴヘビはアフリカ南部の草原などに多くすんでいます。
この種は夜に活動し、昼間は岩の下や、はがれかけた木の皮の下に隠れています。
分類ではナミヘビ科に入り、本文に出てきたアトラ種にはクロタマゴヘビという和名があります。
アフリカ南部では、アフリカタマゴヘビが毒ヘビのナイトアダーの仲間とまちがえられることがあります。
写真で見るタマゴヘビ
参考文献
Ethiopian highlands yield a new species of egg-eating snake (Mongabay)
https://news.mongabay.com/short-article/2026/10/ethiopian-highlands-yield-a-new-species-of-egg-eating-snake/
Common Egg-eater (Dasypeltis scabra)(African Snakebite Institute)
https://www.africansnakebiteinstitute.com/snake/rhombic-egg-eater/
元論文
A new species of ‘black’ egg-eating snake of the genus Dasypeltis Wagler (Squamata, Colubridae, Colubrinae, Boigini)
https://doi.org/10.3897/herpetozoa.39.e205043
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部