アメリカのアリゾナ州立大学(ASU)などで行われた研究によって、銀河から星をつくる力を奪っていると疑われてきた巨大ブラックホールのジェットについて、その通り道に沿って、ガスがふつうの銀河をとりまくガスの約100倍の明るさで光っていることが明らかになりました。


これまでの観測がこの光を見つけられなかったのは、全方向をまとめて平均していたからだと論文では記述されています。


この細い一筋が、銀河から星づくりを奪っているのでしょうか。


研究内容の詳細は2026年9月24日に『The Astrophysical Journal Letters』にて発表されました。




目次



  • 容疑者は、太陽系ほどの点から噴き出していた
  • 正体は電球ではなく、懐中電灯だった

容疑者は、太陽系ほどの点から噴き出していた


容疑者は、太陽系ほどの点から噴き出していた / Credit: Hailey Nelson / Arizona State University

ブラックホールといえば、近づいたものを何でも吸い込む穴として語られます。


光さえ逃げられない、宇宙でいちばん強欲な天体というわけです。


ところが実際のブラックホールは、吸い込むばかりではありません。


吸い込まれる手前で向きを変えたガスの一部は、細く絞られた高速の流れになって、正反対の二方向へ噴き出します。


これがジェットです。


細く絞られていながら、銀河の両側へ、外まで何十万光年も伸びることがあります。


天文学者がこのジェットを気にかけてきたのには、理由があります。


大きく育った銀河の中に、星をつくるのをやめてしまったものがあるからです。


銀河のまわりには、目に見える星の集まりをすっぽり包むように、うすいガスが広がっています(銀河周辺物質)。


その広がりは、望遠鏡に写る銀河の10倍から20倍にもなります。


このガスは星の材料です。


ガスが冷えると、重さに引かれて銀河の中心へ落ちていきます。


落ちたガスは濃く集まり、やがて新しい星になります。


冷える、落ちる、星になる。


銀河はこの流れを繰り返して育ってきました。


星をつくるのをやめた銀河が不思議なのは、そのまわりにも冷えたガスがまだたっぷり残っていることです。


材料は余っているのに、いくら時間が過ぎても新しい星が生まれません。


流れのどこかが、止まっているはずです。


いちばん疑わしいのは、最初の一歩です。


何かが横からガスを温め続けていれば、ガスは冷えきれず、落ちてこられません。


落ちてこなければ濃く集まることもなく、星も生まれない。


銀河は材料を抱えたまま、ゆっくりと老けていきます。


その「温め続ける何か」として疑われてきたのが、ジェットでした。


ジェットが運ぶエネルギーは、星が爆発して周囲をかき乱す力より1桁以上も大きいとされます。


しかも、それを噴き出しているブラックホール自体の大きさは、せいぜい太陽系ほどしかありません。


その太陽系が1000億個も入ってしまう銀河の運命を、点のような天体が握っていることになります。


「これほど小さなものが、これほど巨大なものにエネルギーを与えられるのはなぜか。それが驚くべき問いです」と、論文の筆頭著者であるラマン研究所のNamrata Roy氏は述べています。


ただ、ジェットのエネルギーが銀河の外のガスにどうやって届いているのかは、わかっていませんでした。


正体は電球ではなく、懐中電灯だった


Credit: X-ray: NASA/CXC/SAO, Optical: NASA/STScI, Radio: NSF/NRAO/VLA

暗い部屋で電球をつければ、部屋じゅうがまんべんなく明るくなります。


懐中電灯なら、光の筋の先だけが照らされます。


研究チームの問いは、ジェットが銀河のまわりのガスに対してどちらの振る舞いをするのか、でした。


手がかりに選んだのは、水素が放つ赤い光(Hα線)です。


電子をはぎ取られた水素が電子を取り戻すとき、決まった色の赤い光を放ちます。


ジェットに押されたり温められたりしたガスは、この光をより強く放つはずです。


やっかいなのは、この光があまりに弱いことです。


銀河を1つ観測しただけでは、雑音に埋もれて見つかりません。


そこで研究チームは、ねらった銀河の本体からは少し外れた位置に、クエーサー(非常に明るく輝く遠い銀河の中心核)が重なって見える場所を探しました。


銀河そのものに重ねてしまうと、銀河の中のガスの光が混じります。


狙いたいのは、その外側に広がるガスのほうです。


望遠鏡をそのクエーサーに向ければ、クエーサーの光と一緒に、手前にある銀河を包むガスの光も入ってきます。


その中から、手前のガスが放った赤い光だけを拾い出せます。


宇宙が膨らんでいるために遠い天体の光ほど大きく引き伸ばされて届き、手前の銀河とずっと遠いクエーサーとでは、同じ赤い光でも現れる波長がずれるからです。


研究チームは、電波望遠鏡LOFARが作ったジェットを持つ銀河のカタログと、光を波長ごとに分けて記録するDESI(ダークエネルギー分光装置)のデータを突き合わせ、こうした組み合わせを324組選び出しました。


そのうち、クエーサーがジェットの向きから20度以内に並んでいたのは74組です。


この74本の光を、手前の銀河の波長に合わせて重ね合わせました。


結果、赤い光はジェットに近い方向ではっきりと現れ、ジェットから離れた方向では姿を見せませんでした。


その明るさは、ふつうの銀河のまわりと比べて約100倍に達しました。


一方、324組すべてを方向を問わずに重ね合わせると、信号は消えてしまいます。


懐中電灯の光を部屋全体で平均すれば、部屋は暗いままだというわけです。


これまでの研究がこの光を取り逃がしてきた理由が、ここにありました。


光っていたガスは、その大部分がもとからそこにあったものでした。


ガスの中のマグネシウムは、向こう側から届く光の一部を吸い取ります。


その吸い取られ方にはジェットの向きによる違いがほとんどなく、冷えたガスは向きを問わず銀河のまわりに広く漂っているとわかりました。


ジェットはそのうち進路上にある分を、押し固めたり、電子をはぎ取ったりして光らせているのです。


つまり材料が消えたというより、ジェットが通り道のガスを圧縮したり、状態を変えたりしていると考えられます。


もっとも、この観測は、星づくりが止まる現場そのものを押さえたわけではありません。


ジェットがいつ、どこでエネルギーを注ぐのかを数字で押さえるには、コンピューター上で再現した銀河に、同じ観測を当ててみる必要があります。


それでも今回の研究はジェットと星作りがどのように関連するかにおいて、重要な知見となります。


「ブラックホールが銀河にどう影響するのかという長年の謎を解く、画期的な結果です」と、ASUのSanchayeeta Borthakur氏は述べています。


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参考文献

Black hole jets may shape the fate of entire galaxies
https://news.asu.edu/b/20260924-black-hole-jets-may-shape-fate-entire-galaxies

元論文

Lighting Up the Circumgalactic Medium: Strong, Jet-aligned Hα Emission around Radio Galaxies
https://doi.org/10.3847/2041-8213/ae9cbd

ライター

鳥山薫: 生物と宇宙が好きなサイエンスライター。独自の視点で幅広い分野を読み解く記事を手がける。「知らなかった」が口癖の好奇心派。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 ブラックホールが星の誕生を止める容疑者か――実はジェットの通り道のガスが100倍明るかった 」