夏の海水浴で、足もとを何かがかすめた気がして、慌てて浜へ引き返したことがある人もいるでしょう。


そんなサメの化石の歯が、地球でもっとも乾いた場所のひとつ、エジプトの西方砂漠の岩の中から見つかりました。


サメが泳ぐには、どう見ても水が足りない場所です。


研究者たちはこの場所を「サメの墓場」と呼んでいますが、ここに眠るサメたちは、いったいどんな海で、どのように集まってきたのでしょうか。


この研究は、エジプトのカイロ大学らのチームが学術誌に発表しました。


研究の詳細は、エジプトのカイロ大学らにより、2026年8月18日付で学術誌『Cretaceous Research』に掲載されました。




目次



  • 砂漠の岩から出てきた14本のサメの歯
  • 「サメの墓場」に眠っていたのは、どんな海だったのか?

砂漠の岩から出てきた14本のサメの歯


砂漠の岩から出てきた14本のサメの歯 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

化石が見つかったのは、エジプトの西方砂漠にあるアブ・タルトゥール台地です。


歯が眠っていたのは、リン酸塩という成分を多く含む「ドゥウィ層」と呼ばれる地層です。この地層には、かつて北アフリカの広い範囲をおおっていた海の跡が残っています。


この地層ができたのは白亜紀の終わりごろで、カンパニアン期と呼ばれる約8400万〜7200万年前です。


当時の地球は今よりずっと暖かく、海面もはるかに高かったため、浅い海が大陸の奥深くまで入り込んでいました。


今ではサハラ砂漠の奥にあたる場所も、その海の底だったのです。


約8000万年前のこの地を行き来していたのは、ラクダではなくサメだったことになります。


カイロ大学の古生物学者タレク・ヤシン氏らのチームは、ここで見つかった14本の歯を調べ、少なくとも5種の絶滅したサメのものだと突き止めました。


5種はいずれも「ネズミザメ目」の仲間で、このグループには今のホホジロザメやアオザメ、ミツクリザメも含まれます。


歯の形は種によって大きく違い、細くとがった歯はぬるりと滑る獲物をつかむのに、幅の広い歯は切り裂くのに向いています。


サメは骨格より歯の方がはるかに化石に残りやすいため、研究者はこうした形の違いを手がかりに昔の種を見分け、何をどう食べていたかを推し量ります。


同じ場所で以前に見つかっていた2種と合わせると、この海には、これまで考えられていたよりずっと多くの種類のサメがいたことになります。


ところが「サメの墓場」と呼ばれるこの場所は、名前から思い浮かぶ姿とは少し違っていました。


「サメの墓場」に眠っていたのは、どんな海だったのか?


「サメの墓場」に眠っていたのは、どんな海だったのか? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

陸に近い浅い海から沖の深い海まで、サメは種によってよく見られる場所がある程度決まっています。


そのため、どこにどんなサメがいたかを調べれば、当時の海の様子を描き直せます。


今回見つかった種のうち、スカパノリンクスは、ふつう深めの海にすむとみなされているサメです。


一方、クレタラムナとセラトラムナは、陸から離れた開けた海に多いとされています。


そしてスクアリコラクスは、より浅く岸に近い海を示している可能性があります。


つまりこの地層には、1種類の海ではなく、いくつもの種類の海から来たものが入り混じっていると考えられるのです。


ここで、「サメの墓場」という呼び名の落とし穴が見えてきます。


この場所には、たくさんのサメが一度に死んだような、1回きりの大事件の跡は残っていません。


リン酸塩を多く含む地層はゆっくりと積もり、その間に、別々の時期の歯や遺骸が同じ層に集まっていきました。


こうした化石の集まりは「時間平均化群集」と呼ばれ、いま隣り合って見つかる化石でも、実際には数百年、数千年も離れて生きた動物のものかもしれません。


一瞬を切り取った写真ではなく、長い時間にこの海を通り過ぎていったサメたちの記録が、まとめて残っているわけです。


さらに研究者たちは、この海の生き物たちを支えるうえで「湧昇」が大切な役割を果たしたかもしれないと考えています。


湧昇とは、深い海の水が水面の方へ上がってくる流れのことで、そのとき栄養も一緒に運ばれてきます。


その栄養が日の当たる水に届くとプランクトンが増え、それを小魚や背骨のない小さな生き物が食べ、さらにそれを大きな動物が食べるというつながりが生まれます。


ドゥウィ層からは、これまでにも魚やウミガメ、ほかの海の爬虫類の化石が見つかっています。


それらと合わせて考えると、白亜紀のこの海は、さまざまな捕食者を養えるほど豊かだったと見られます。


その意味で、サメはこの物語のいちばん目立つ登場人物にすぎないのです。


たった14本の歯ですが、白亜紀のエジプトにいたと知られるサメの顔ぶれを広げ、北アフリカの化石記録の空白を埋める手がかりになりました。


次にラクダが砂丘を歩く映像を見たら、思い出してみてください。その足もとの岩の中では、生きた時代が何千年もずれたサメたちの歯が、同じ海の記憶として肩を並べているかもしれません。


砂漠のお土産屋さんにサメの歯のキーホルダーが並んでいても、なぜか妙に納得してしまいそうです。


全ての画像を見る

参考文献

A ‘Shark Graveyard’ in Egypt’s Desert Reveals a Lost Cretaceous Sea (ZME Science)
https://www.zmescience.com/science/paleontology/shark-graveyard-egyptian-desert/

元論文

Egyptian shark graveyard: New Late Cretaceous lamniform shark assemblage from Duwi Formation of Abu-Tartur area, southwestern Desert, Egypt
https://doi.org/10.1016/j.cretres.2026.106476

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 エジプトの砂漠に「サメの墓場」を発見、白亜紀の消えた海の跡 」