赤ちゃんが眠る部屋といえば、家族が足音を立てないようにそっと歩く、家の中でいちばん静かな場所です。


宇宙にも、星が生まれて育つ「星のゆりかご」と呼ばれる場所があります。


ところが、星のゆりかごは塵の雲に覆われていて、中に隠れた星たちの姿をふつうの光でとらえるのは簡単ではありません。


そこで今回、NASA(アメリカ航空宇宙局)・ESA(欧州宇宙機関)・CSA(カナダ宇宙庁)のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、地球から3300光年離れた星のゆりかご「NGC 7129」を赤外線で撮影しました。


塵のベールの向こうでは、いったい何が起きていたのでしょうか。


この話題の詳細は2026年10月6日に『Phys.org』にて公開されました。




目次



  • 星のゆりかごは「塵のカーテン」の向こうにある
  • 塵の奥に広がっていたのは「静かなゆりかご」だったのか?
  • 右側の赤い雲には、もっと幼い星たちが隠れていた

星のゆりかごは「塵のカーテン」の向こうにある


星のゆりかごは「塵のカーテン」の向こうにある / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

星は、宇宙に漂うガスと塵の雲から生まれます。


まずガスと塵の雲が縮み、いくつもの塊に分かれると、そこに「原始星」と呼ばれる星の赤ちゃんができます。


原始星は周りから物質をかき集めて、少しずつ重くなっていきます。


やがて材料集めがほぼ終わると、星は自分の重力で縮み始め、そのせいで温度が上がっていきます。


この段階の星は「前主系列星」と呼ばれ、いわば星の子ども時代にあたります。


そしていずれは、太陽と同じように自分の水素を核融合させて輝く、一人前の星になるのです。


ただし星の成長のスピードはみな同じではなく、重い星ほど速く生まれ、速く育っていきます。


そのため一つの星のゆりかごの中に、赤ちゃんの星と子どもの星が入り混じっていることがあります。


星が周りの環境をどう変えていくのかを知るうえで、こうした場所はまたとない観察の舞台です。


問題は、その舞台が分厚い塵の雲に覆われていることです。


濃い塵はふつうの光を散らしたり吸い込んだりしてしまうため、雲の奥に隠れた星々はなかなか見えません。


そこで頼りになるのが、濃い塵の雲を突き抜けて届く赤外線です。


赤外線をとらえるウェッブ宇宙望遠鏡なら、カーテンのすき間から部屋をのぞき込むように、雲の奥の星たちを写し出せます。


以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(ウェッブ望遠鏡の最大級の1枚、主役はちりに隠れた星だった)


今回ウェッブが狙ったNGC 7129は、地球から3300光年先にある、まさに宇宙の「大釜」のような星づくりの現場です。


塵の奥に広がっていたのは「静かなゆりかご」だったのか?


塵の奥に広がっていたのは「静かなゆりかご」だったのか? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

ウェッブが赤外線でとらえた画像には、これまで塵の雲に隠れていたたくさんの星が姿を現しました。


そこに広がっていたのは、すやすや眠る赤ちゃんの部屋どころか、あちこちでガスが吹き荒れる騒がしい光景でした。


画像の中心でひときわ明るく輝くのが、この領域で最も重く、最も成長の進んだ星「LkHα 234」です。


この星は画像の中でいちばん目立つ光の筋(回折模様)をまとっていて、重さは太陽の約5〜8倍あります。


LkHα 234も前主系列星で、材料集めをほぼ終えて、大人の星になる準備を進めている段階です。


この星の影響の大きさを最もよく表しているのが、そのすぐ左側に広がる金色の空洞です。


空洞の差し渡しは、およそ3.5光年にも及びます。


この空洞は、星がもっと若かった頃に噴き出したガスの流れが、水素の濃い雲を削り取ってできたものです。


噴き出したガスの流れと星の光がガスにエネルギーを与えることで、空洞のガスは光って見えています。


面白いのは、この星がただ周りを壊しているだけではないことです。


水素ガスの多くは吹き飛ばされる一方で、かなりの量のガスは押し固められ、さらに新しい星が生まれる条件が整えられていきます。


つまり大きな星が暴れた跡地は、次の世代の星が生まれる下地にもなっているのです。


空洞の中には、ほかにも何個かの若い星が見えています。


そのうちのいくつかも前主系列星で、それぞれが「恒星風」と呼ばれるガスの風を吹き出しています。


星の近くに見える弓なりに曲がったガスは「バウショック」と呼ばれ、この風がエネルギーを帯びたガスに突っ込んで押し固めることでできたものです。


小さな星たちも、こうして自分専用の小さな空洞を掘っているわけです。


中心の星と空洞の中の星たちは、まとめて熱い環境をつくり出し、外側の冷たく濃いガスを押し返しています。


その境目には「光解離領域」と呼ばれる領域ができ、そこでは水素の分子がばらばらの原子に分解されています。


星たちはこの領域の温まり方や冷え方、化学反応を左右しています。そのためこの領域は、ガスの雲が数百万年かけて少しずつ削られていく様子を知る手がかりになります。


右側の赤い雲には、もっと幼い星たちが隠れていた


右側の赤い雲には、もっと幼い星たちが隠れていた / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

一方、中心の星の右側では、左側とはまた違った、けれども同じくらい騒がしい物語が繰り広げられていました。


赤く写ったでこぼこの塊の中に隠れていたのは、左側の星たちよりずっと若い原始星たちです。


原始星は前主系列星よりもさらに前の段階にあたる、まだ生まれたての星の赤ちゃんです。


原始星は周りから物質をため込んで重くなりながら、高温に熱せられた物質を外へ噴き出しています。


この噴き出した流れが、原始星を包む濃い灰色の物質とぶつかって衝撃波を生み、ざらざらとした見た目をつくり出しています。


赤い光もこのぶつかり合いから生まれたもので、中心の星から噴き出した流れが左側の金色の空洞に及ぼした効果と同じ仕組みです。


しかもここでは、いくつもの星から噴き出した流れが、地球から見て重なり合っています。


そのため、この一帯は何本ものホースで水をまき散らしたような、入り乱れた姿に見えるのです。


中心の星の左側では、成長の進んだ星たちが空洞を掘り、ガスを押し固めて、次の星の下地をつくっています。


右側では、まだ幼い星たちが物質をため込みながら、熱い流れを周りに吹きつけています。


一つのゆりかごの中で、成長段階の違う星たちが、それぞれのやり方で周りの環境をつくり変えていたわけです。


夜空で静かにまたたいて見える星々も、生まれたばかりの頃は周りのガスを吹き飛ばしては押し固め、次の世代の材料まで用意する、にぎやかな日々を過ごしていたのかもしれません。


星の赤ちゃんの夜泣きは、遠く離れた地球から見えてしまうほど派手なようです。


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参考文献

Webb captures commotion from nebula's stellar jets (Phys.org)
https://phys.org/news/2026-10-webb-captures-commotion-nebula-stellar.html

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 ウェッブ望遠鏡、3300光年先の「星のゆりかご」の撮影に成功 」