「見た目はウンチ」寿命は100年超えと推定されたナマコ
子どもの頃、磯でぶよぶよした黒い何かを棒でつついて、親に「やめなさい」と言われた人もいるかもしれません。
サンゴ礁の海には、ぱっと見るとウンチにも見えてしまう黒いナマコがいます。
その名は「ブラック・ティートフィッシュ」です。
見た目こそ地味ですが、高値で取引される種です。サンゴ礁のナマコは、これまでたくさん獲られてきました。
今では絶滅危惧種となり、国際的な取引を規制する「ワシントン条約」の対象にもなっています。
ところが、このナマコがどれくらい生きるのかという基本的なことさえ、ほとんど分かっていませんでした。
では、このナマコはいったい何年ほど生きるのでしょうか。
その答えが、24年越しの遺伝子調査によって見えてきました。
研究の詳細は、2026年9月15日付で学術誌『iScience』に掲載されました。
目次
- ナマコの「年齢」を遺伝子で確かめる
- 24年後の海に「あのナマコ」はまだいたのか?
ナマコの「年齢」を遺伝子で確かめる
生き物を獲りすぎないように守るには、その生き物がどれくらい生き、どれくらいの割合で死に、どれくらい育つのかを知る必要があります。
こうした情報が、どれだけ獲っても数を保てるかを見積もる計算のもとになるからです。
しかしサンゴ礁のナマコでは、その情報がとても限られていました。
そこで研究チームが使ったのが、「遺伝子による標識再捕獲法」です。
標識再捕獲法とは、生き物に目印をつけておき、あとで再び捕まえた中に目印つきが何匹いるかから、生き残りや寿命を推し量るやり方です。
今回はその目印として、1匹ごとに少しずつ違うDNA、いわば「遺伝子の指紋」を使いました。
舞台は、グレートバリアリーフのリザード島にあるバード小島の周辺です。
研究チームは2000年の6月と12月に、ここでナマコのサンプルを集めて保管していました。
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そして24年後の2024年9月、同じ場所で再びサンプルを集めたのです。
分析できたのは、2000年6月の56匹分、12月の49匹分、2024年の52匹分でした。
研究チームはDNAの1万2772か所の違いを読み取り、サンプル同士を1組ずつ比べていきました。
同じサンプルを2回分析した結果がきちんと「同じ」と出ることも確かめ、同じナマコかどうかを見分ける基準を決めています。
試しに2000年の6月と12月を比べると、12月の49匹のうち29匹は、半年前にも採られた同じナマコでした。
では、24年後の海には、あのときのナマコがまだ残っていたのでしょうか。
24年後の海に「あのナマコ」はまだいたのか?
結果は、研究チームにとっても驚くものでした。
2024年に採った52匹のうち31匹が、2000年に採ったナマコと同じ個体だったのです。
つまり、2024年にいたナマコの約60%は、少なくとも24歳を超えていると確かめられました。
2000年に見つかったナマコは合わせて76匹で、その約40%が24年後も生き残っていた計算になります(24年間の生存率0.41)。
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ここから、大人のナマコが死ぬ割合は年ごとに変わらないと仮定して見積もると、1年のうちに死ぬ割合はわずか4%前後でした(年あたりの瞬間死亡率0.037〜0.042)。
同じ仮定のもとで、平均寿命は24〜27年ほどと見積もられています。
ただし、これはかなり控えめな数字です。
調べた場所からナマコが出入りしたり、すべてを見つけきれなかったりすると、生き残りが少なく見え、寿命も短く出てしまうからです。
実際、すでに60%が24歳以上だと分かっているのに平均寿命が24〜27年というのは低すぎる、と研究チームは指摘しています。
さらに同じ仮定のもとで24年間の結果を先へ延ばして計算すると、100匹のうち1匹は109〜126歳まで生き残ると推定されました。
このナマコは、100年を超えて生きる可能性があるのです。
100歳を超えることが分かったナマコは、この種が初めてです。
無脊椎動物(背骨のない動物)では、一部のウニなども100年以上生きることが知られており、このナマコはその「100歳クラブ」に仲間入りしたことになります。
しかも、無脊椎動物でこれほど長い間をあけた標識再捕獲の調査は、貝の殻に刻みを入れて約30年後に2匹を見つけた例を除くと、見当たらないそうです。
もう1つ意外だったのが、体の大きさです。
24年ぶりに見つかったナマコの多くは、ほとんど大きくなっていないか、むしろ小さくなっていました。
2024年の体は2000年と比べて、重さが平均21%軽く、長さが平均14%短くなっていました。
長い年月を生きても、体が大きくなり続けるわけではなかったのです。
この結果は、ナマコの獲り方にも関わってきます。
熱帯のナマコ漁で今使われている漁獲の計算は、これほどの長生きを考えに入れていません。
そのため、獲っても大丈夫な量を多く見積もりすぎている可能性があります。
研究チームは、今の獲り方に環境からのストレスも重なる中で、長生きするサンゴ礁の無脊椎動物をこのまま獲り続けていくことはできないと考えています。
そして、生き物の増える力をもとにした漁業のルールそのものを、広く見直す必要があると訴えています。
海の底に転がる黒い塊は、私たちが生まれるずっと前から、そこにいたのかもしれません。
ウンチに見えるその1匹が、実は長い年月の海の移り変わりを見てきた「長老」である可能性もあるのです。
少なくとも「ウンチみたい」と笑うのは、相手が自分より年上かどうかを確かめてからにしたほうがいいかもしれません。
参考文献
Extreme longevity revealed by 24-year genetic mark–recapture challenges conservation of endangered sea cucumbers (iScience)
https://doi.org/10.1016/j.isci.2026.117505
元論文
Extreme longevity revealed by 24-year genetic mark–recapture challenges conservation of endangered sea cucumbers
https://doi.org/10.1016/j.isci.2026.117505
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部