マンジャロの次世代候補、最高用量で「体重25%減」
「ダイエットは明日から」と言い続けて、気づけばカレンダーが1枚めくれていることもあります。
そんな体重の悩みに、「週に1回の注射」で挑む新しい薬の研究が進んでいます。
薬の名前は「レタトルチド」で、海外のニュースでは「オゼンピックのライバル」とも紹介されています。
日本での知名度はマンジャロのほうが高く、オゼンピックよりもマンジャロのほうが少し強力な薬です。
今回、肥満の大人2339人が参加し、80週間にわたって行われた大規模な試験の結果が医学誌に発表されました。
では、週に1回の注射に割り振られた人たちの体重は、いったいどれくらい減ったのでしょうか。
研究の詳細は、2026年9月29日付で学術誌『New England Journal of Medicine』に掲載されました。
目次
- 3つのホルモンに働く「週1回の注射」とは
- 週1回の注射で、体重はどこまで減ったのか?
3つのホルモンに働く「週1回の注射」とは
レタトルチドは、ホルモン(体の中で信号を伝える物質)の受容体(ホルモンを受け取る受け口)に働きかける薬です。
大きな特徴は、その受け口を1つではなく、3つ同時に狙っている点です。
狙う相手は、GLP-1、GIP、グルカゴンという3種類のホルモンの受容体です。
そのため論文では、この薬を「トリプル作動薬(3つの受容体を働かせる薬)」と呼んでいます。
今回の試験は「第3相試験」(薬が承認される前に、多くの人で効き目と安全性を確かめる段階)と呼ばれる、人を対象にした臨床試験です。
対象は、肥満があり、糖尿病はない大人たちでした。
参加者は、4mg、9mg、12mgのいずれかのレタトルチドか、プラセボ(有効成分の入っていない偽の薬)に、くじ引きのような方法で振り分けられました。
そして週に1回、皮膚の下へ注射する計画で、期間は80週間と定められました。
参加者も研究者も、誰が本物の薬を使っているのか分からない「二重盲検」という方式です。
研究チームが中心に据えたのは、9mgと12mgのグループを、それぞれプラセボと比べた結果です。
体重の変化に加えて、ひざと睡眠の悩みを抱える人たちの変化も調べられました。
参加者のうち574人は変形性膝関節症(ひざの関節の病気)があり、ひざの痛みの点数(1〜10点で、高いほど痛い)の変化を見ています。
また243人は閉塞性睡眠時無呼吸(眠っている間に呼吸が止まったり弱まったりする状態)があり、そうした出来事が1時間に何回起こるかを調べました。
果たして80週間後、参加者の体重はどれほど変わっていたのでしょうか。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(減量薬で減った体重は「2年以内」に元に戻ると判明)
週1回の注射で、体重はどこまで減ったのか?
結論から言うと、最も用量の多い12mgのグループでは、体重が平均で25.0%減っていました。
9mgのグループでは23.7%、最も少ない4mgのグループでも17.6%の減少です。
つまり最高用量では、平均して体重のおよそ4分の1が落ちたことになります。
一方、プラセボのグループの減少は平均3.9%にとどまりました。
プラセボとの差は9mgで19.8ポイント、12mgで21.0ポイントで、どちらも偶然では説明しにくい差でした。
また数字の上では、9mgと12mgの結果はそれほど大きくは違いませんでした。
変化は体重だけではありません。
ひざの関節の病気がある人では、最初に振り分けたグループのまま全員を集計する方法で見ると、痛みの点数が9mgで3.9点、12mgで4.1点下がりました。
プラセボでも2.5点下がっていましたが、レタトルチドとの差は1.4点と1.6点で、偶然では説明しにくい差でした。
計算の仕方を変えた別の分析でも、プラセボとの差は同じように確かめられています。
眠っている間の呼吸が乱れる人では、呼吸が止まる・弱まる出来事が1時間あたり9mgで34.3回、12mgで32.1回減りました。
プラセボの減り方は9.6回で、こちらもレタトルチドとの差がはっきり出ています。
ここで押さえておきたいのは、プラセボのグループでも体重や痛み、呼吸の乱れがある程度よくなっていた点です。
薬の本当の効き目は、このプラセボとの差のほうで見る必要があるのです。
試験中に起きた好ましくない出来事(有害事象)で最も多かったのは、胃腸に関わるものでした。
なお、この試験はイーライリリー社が資金を出して行われています。
研究チームは、肥満の大人でレタトルチドが体重を大きく減らしたと結論づけています。さらに変形性膝関節症がある人ではひざの痛みを、閉塞性睡眠時無呼吸がある人では眠っている間の呼吸の乱れを減らしたとしています。
ただし今回の対象は糖尿病のない肥満の大人で、期間は80週間なので、それ以外の人や、さらに長く使った場合のことはこの結果だけでは分かりません。
体重を落とす手段として、体の中の信号に働きかける薬という選択肢が、研究の上で少しずつ形になりつつあるのかもしれません。
体重計と仲直りできる日を夢見つつ、今夜はひとまずエレベーターではなく階段を選んでみようと思います。
参考文献
Retatrutide, a Triple Hormone Receptor Agonist, for Treatment of Obesity (New England Journal of Medicine)
https://doi.org/10.1056/nejmoa2604169
元論文
Retatrutide, a Triple Hormone Receptor Agonist, for Treatment of Obesity
https://doi.org/10.1056/nejmoa2604169
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部