「ぼっち飯」と「血糖」の意外なつながり
昼休み、自分の席でコンビニのパンを片手に持ち、スマホを眺めながら黙々とかじる。
食後の血糖値(血液の中の糖の量)を左右するものといえば、ふつうは「何を、どれだけ食べたか」が思い浮かぶでしょう。
健康のために気をつけるのも、たいていはご飯やパンの量といった、皿の上のことです。
では、そのとき「誰がそばにいたか」は、体の中の糖の処理に何か関係するのでしょうか。
研究チームは、実験の計画を前もって登録したうえで、この素朴な疑問を確かめました。
研究内容の詳細は2026年9月23日に『Science Advances』にて発表されました。
目次
- パンを食べたあとの血糖値を「ひとり」と「恋人のそば」で比べた
- 恋人がそばにいると、食後の血糖値はどう動いた?
パンを食べたあとの血糖値を「ひとり」と「恋人のそば」で比べた
私たちの体には、血液の中の糖の量や体温などを、ちょうどよい範囲に保とうとするしくみがあります。
これを「恒常性(ホメオスタシス)」と呼びます。
乱れが起きると元に戻そうと働き、用が済めば働きを弱めて、余計なエネルギーを使わないようにしているのです。
このしくみはこれまで、一人ひとりの体の中で完結するものと考えられてきました。
一方で、そばに誰かがいることでこの調整がもっと効率よくなるのかどうかは、分かっていませんでした。
研究チームが注目したのは、これまで人づきあいに左右されるとは考えられてこなかった、糖の処理(糖代謝)です。
実験では、大人の参加者に、決まった種類の白い小麦パン102グラム(炭水化物50グラム分)を食べてもらいました。
そして食後120分にわたって、血液の中の糖の量を測りました。
比べたのは、ひとりで過ごす「ひとり条件」と、恋人がそばにいる「一緒条件」です。
同じ人に両方の条件を順番を入れ替えながら体験してもらう方法と、人を別々のグループに分けて比べる方法の両方で調べています。
体の反応の大きさは、食後に血糖値がふだんの値からどれだけ大きく、どれくらい長く外れたかを足し合わせた値で表しました。
この値が小さいほど、同じパンを食べても、体は少ない負担で血糖値を元に戻せたことになります。
では、恋人がそばにいるかどうかで、パンを食べたあとの血糖値に違いは出たのでしょうか。
恋人がそばにいると、食後の血糖値はどう動いた?
結果は、一緒条件のほうがひとり条件よりも、食後の血糖値の上がり方が小さく、元に戻るのも速いというものでした。
大人108人が両方の条件を体験した比較では、反応の大きさを表す値が、一緒条件で平均約14.6%小さくなっていました。
54人ずつ別々のグループに分けた比較では、その差は平均23.9%にのぼりました。
食べる前の血糖値は、どちらの条件でもほぼ同じでした。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(日の光を浴びると2型糖尿病の血糖値変動が改善する可能性がある)
違いが現れたのは、パンを食べたあとです。
同じ人が両方の条件を体験した比較では、食後に測ったすべての時点で、一緒条件の血糖値のほうが低くなっていました。
別々のグループの比較では、一緒条件のほうが低かったのは食後45分と60分の時点で、90分と120分でははっきりした差になりませんでした。
つまり、同じ量のパンを食べても、恋人がそばにいると、体はより少ない負担で血糖値を元に戻せていたのです。
研究チームは、この傾向が糖の処理以外のしくみでも見られるかも調べました。
その結果、寒さにさらされたときの体温の調整(大人116人)でも、ストレスを受けたときの交感神経(体を興奮した状態に切りかえる神経)の調整(大人115人)でも、一緒条件のほうが効率よく働いていました。
さらに赤ちゃん56人でも、母親がそばにいると、ストレスを受けたときの交感神経の調整がより効率的になっていました。
親しい人のそばでは、体の状態をちょうどよく保つしくみがより効率よく働く。研究チームはこの原理を「ソーシャル・フィジオロジー(社会的な生理学)」と名づけています。
そのうえで、体の中で生まれるこうした利点が、人どうしの絆が生まれ、保たれることに役立ってきた可能性があると考えています。
ただし今回の「そばにいる人」は、効果が出るかどうかをまず確かめるために、恋人や母親というとても親しい相手に限られていました。
友人や同僚と食べる場合にも同じ違いが出るかは、今回の実験では確かめられていません。
食事と健康の話になると、私たちはつい皿の上のものばかりに目を向けがちです。
けれど体は、そばに誰がいるかまで受け止めて、糖の処理のしかたを変えていたのかもしれません。
健康診断の前の週は、食事制限より先に、まず恋人の予定を押さえることから始める人が出てくるかもしれません。
参考文献
Social Physiology: Human homeostasis is more efficient in social proximity (Science Advances)
https://doi.org/10.1126/sciadv.aeg4937
元論文
Social Physiology: Human homeostasis is more efficient in social proximity
https://doi.org/10.1126/sciadv.aeg4937
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部