暑い日にアイスを買って帰る途中、袋の中で少しずつ柔らかくなっていくのを感じて、思わず早足になることがあります。


スイスのアルプスには、山の上に大きな氷の塊が横たわる「氷河」がいくつも存在しています。


その氷河は2026年、雪の少ない冬と、暑く乾いた夏を立て続けに迎えることになりました。


スイスの氷河観測ネットワーク「GLAMOS」は、この1年の氷河の変化を測定し、その結果はスイス科学アカデミー(SCNAT)の年次報告として発表されています。


では、厳しい季節を越えたスイスの氷河は、1年でどれほどの氷を失ったのでしょうか。


研究内容の詳細は2026年9月23日に『ETH GLAMOS Publications』にて発表されました。




目次



  • 氷河を守る「雪の覆い」が消えた年
  • 1年で消えた氷は全体のどれくらいだったのか?
  • 5年で2割近くが消えたスイスの氷河

氷河を守る「雪の覆い」が消えた年


氷河を守る「雪の覆い」が消えた年 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

今回の報告の土台になっているのは、GLAMOSが長年にわたって集めてきたスイスの氷河のデータです。


GLAMOSは、スイスのチューリッヒ工科大学(ETH Zurich)、フリブール大学、チューリッヒ大学に拠点を置く観測網です。


報告の要旨によると、この報告は氷河が1年でどれだけ増えたか減ったかを表す「年間の質量収支」の測定結果をまとめ、ほかの年と比べた暫定的な評価も示しています(なお要旨では、測定は2025年9月に行われたと記されています)。


まず押さえておきたいのは、2026年の氷河がどんな天気の中に置かれていたかです。


2025年から2026年にかけての冬は、観測が始まって以来、雪が最も少なかった10回の冬の1つに数えられました。


氷河にとって雪は、氷の上にかぶさって守ってくれる覆いのような存在です。


ところが2026年は、その少ない雪のあとに、5月から9月まで暑く乾いた天気が続きました。


夏の熱波で、気温が0℃になる高さ(凍結高度)は標高4000メートルより上まで押し上げられ、そうした日は76日にのぼりました。


これは平均の2倍を超える日数で、スイスの記録です。


この暑さで、最も標高の高い場所でさえ、過剰な融解が起きました。


そして9月には標高3500メートルの場所にも雪が残っておらず、氷河は守ってくれる雪の覆いを失った状態になりました。


では、9月には守ってくれる雪の覆いを失っていたスイスの氷河は、この1年でどうなっていたのでしょうか。


1年で消えた氷は全体のどれくらいだったのか?


1年で消えた氷は全体のどれくらいだったのか? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

測定の結果、スイスの氷河は2026年の1年間で、氷の体積の5%以上を失っていたことが分かりました。


氷河の厚みは、この1年で平均2.5〜4メートルも減っていました。


氷河の先端にのびる「氷河舌(ひょうがぜつ)」の中には、最大で10メートル分の氷を失ったものもあります。


ただし、氷が溶ける速さそのものは、記録的だった2022年の水準にはわずかに届きませんでした。


それでも、個々の氷河に目を向けると、記録的な数字が並んでいます。


ローヌ氷河、アレッチ氷河、クラリデン氷河などでは、2026年に観測史上最大の融解が起きていました。


記事で紹介されていた画像はこちら(画像1)


さらに、いくつかの小さな氷河は完全に姿を消し、もう二度と元には戻りません。


その中には、ヴァレー州のベラ・トーラ氷河や、グラールス州のグリースフィルン氷河が含まれています。


全体としては記録に届かなかった年でも、氷河によっては過去最大の損失となり、消えてしまったものまであったのです。


以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(「最悪3年で北極の氷が消える…」衝撃のシミュレーション結果)


5年で2割近くが消えたスイスの氷河


5年で2割近くが消えたスイスの氷河 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

今回の1年だけを見ても大きな損失ですが、報告はもっと長い流れも示しています。


スイスの氷河の体積は、過去5年間だけで20%近くが失われていました。


新しいデータからは、スイスの氷河の景色がいかに急速に変わりつつあるかが見えてきます。


一方で、溶けた氷は、ただ消えてしまうわけではありません。


7月から9月にかけて、スイスの氷河からはおよそ2兆2000億リットルの水が流れ出しました。


これは、スイスの家庭が1年間に飲み水として使う量の4倍を超える量です。


この氷河の解け水は、夏の水不足をやわらげる助けにもなりました。


しかし氷河の面積が元に戻らない形で縮み続けている今、この救いの水は少しずつ細っています。


夏の山から流れてくる冷たい水は、氷河という減っていく一方の貯金を取り崩して届けられているのです。


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参考文献

Devastating year for Switzerland's glaciers after extreme heat and low snow (Phys.org)
https://phys.org/news/2026-09-devastating-year-switzerland-glaciers-extreme.html

元論文

Annual mass balance on Swiss glaciers in 2026
https://doi.org/10.18752/annualrep_2026

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 スイスの氷河が1年で「体積の5%以上」を失ったと判明 」