「家畜」を「4つ目の獣」にして野生動物から守る
アフリカのジンバブエ南東部の村では、家畜が野生動物に襲われる被害に、多くの住民が頭を悩ませています。
そこで一部の農家が始めたのが、家畜のお尻に白と黒の「目」を描いて「4つ目の動物」に変えるという、一風変わった作戦です。
環境ニュースサイト「Mongabay」が、この取り組みを現地から伝えています。
絵に描いた目だけで、本当にライオンやヒョウから家畜を守れるのでしょうか。
この話題の詳細は2026年9月30日に『Mongabay』にて公開されました。
目次
- 家畜のお尻に「目」を描くことになったワケ
- 「お尻の目」で家畜の被害は減ったのか?
- 約2000頭のウシで確かめた「お尻の目」の実力
家畜のお尻に「目」を描くことになったワケ
ジンバブエ南東部のチレジ地区では、今年の最初の半年だけで、人と野生動物のトラブルが317件記録されました。
なかでもニャンゴンベ村は、セーブ・バレー保護区などの大きな野生動物の保護区に挟まれた場所にあります。
住民たちによると、野生動物が作物を食べたり、家畜や、ときには人まで襲ったりすることがしょっちゅうあるそうです。
村の農家エドソン・マビカさんは「バッファローは作物を荒らして病気を広め、リカオンやジャッカル、ヒョウ、ライオンまでが家畜を狙う」と話します。
マビカさん自身も、10日足らずのうちにヒツジ4頭と子ウシ1頭を野生動物に奪われました。
家畜の囲いは頑丈で、3匹の犬を連れた慣れた牧童(家畜の番をする少年)もいたのに、です。
困ったマビカさんは、以前に保護区の監視員をしていた友人に、危ない目にあわずに捕食者(ほかの動物を襲って食べる動物)を追い払う方法をたずねました。
返ってきた答えは、「家畜のお尻に目を描いてみなさい」というものでした。
マビカさんは冗談だと思いましたが、友人はくり返しこの方法を勧めたといいます。
こうしてマビカさんは昨年の1月、家畜のおよそ3分の1のお尻に、白と黒で目を描きました。
記事で紹介されていた画像はこちら(画像1)
このアイデアは、隣国ボツワナから帰ってきた人たちが持ち込んだのかもしれません。
ボツワナで農場の労働者として働いていたティノダ・マフンガさんは、「このアイデアは国境沿いの村でまず取り入れられ、チレジのような場所に広まったに違いない」と話しています。
では、お尻に描かれた「目」は、実際に家畜を守る力を持っていたのでしょうか。
「お尻の目」で家畜の被害は減ったのか?
最初に驚かされたのは、村の犬たちでした。
家畜に現れた新しい「目」にぎょっとして、激しく吠えたてたそうです。
目を描く前、マビカさんは毎年4〜5頭の家畜を失っていたといいます。
ところが目を描いてからの約1年半で失ったのは、ヤギ1頭と子ヒツジ1頭だけだったそうです。
しかもこの2頭はどちらも、描いた目が薄れてしまっていたといいます。
ただしこれはマビカさん本人の話で、きちんと比べた実験ではない点には注意が必要です。
それでもこの工夫をまねする近所の人が現れ、経験豊かな監視員からも後押しの声が上がっています。
ラングトン・バンダマさんは、セーブなどの保護区で、迷った動物の追跡をよく任されています。そのバンダマさんは、偽の目は自然界にはよくあるもので、家畜への襲撃を防いだり遅らせたりできると自信を見せます。
「捕食者は、襲いかかる前に、仕留めるかどうかを決めるのに時間がかかる」とバンダマさんは言います。
さらに、ライオンのような大型の待ち伏せ型の捕食者には、目の絵に角などを描き足すと、もっと効き目が上がるのではないかと考えています。
約2000頭のウシで確かめた「お尻の目」の実力
実は、この「お尻の目」の効き目は、科学的にも調べられています。
野生動物の生態学者キャメロン・ラドフォード氏らは、家畜に描いた目でライオンのような待ち伏せ型の捕食者を遠ざけられるかを確かめようとしました。
舞台は、最近になって家畜が襲われる被害が多く報告されていたボツワナで、およそ2000頭のウシが調査の対象になりました。
その結果、お尻に人工の目を描いた683頭のウシのうち、ライオンやヒョウに殺されたものは1頭もいませんでした。
一方で、何も描かなかった835頭のうち15頭は、この2種のどちらかに殺されていました。
お尻に単純な「×」印を描いたウシでも、4頭がこの2種に殺されています。
ただし、ブチハイエナだけは話が別でした。
ブチハイエナは調査の期間中、目を描いたウシ、何も描かないウシ、×印のウシから、それぞれ1頭ずつを殺していたのです。
このことから、ハイエナの狩りの成功は、偽の目に左右されないと考えられます。
描いた目は、どんな相手にも効く万能のお守りではないのです。
そして、この工夫が試される場面は、これから増えるかもしれません。
強いエルニーニョ現象(太平洋の赤道付近で海面の水温が高くなる現象)の影響で、今年はアフリカ南部が干ばつになるという予報が多く出ています。
バンダマさんの経験では、干ばつになると牧畜をする人たちは緑の牧草を求めて保護区に入り込み、捕食者も農場や家々をより頻繁に襲うことがあるといいます。
柵や犬で守るだけでなく、捕食者の「ためらい」を利用するという発想が、野生動物と人がぶつかり合う土地で家畜を守る手がかりになりつつあるのかもしれません。
絵に描いた目は、少なくともライオンやヒョウに対しては、案外ばかにできないもののようです。
参考文献
Turning vulnerable livestock into four-eyed beasts helps protect them in Zimbabwe (Mongabay)
https://news.mongabay.com/2026/09/turning-vulnerable-livestock-into-four-eyed-beasts-helps-protect-them-in-zimbabwe/
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部