絶叫マシンを降りたあと、胸のドキドキが収まらないまま、隣の人の横顔をなんとなく眺めてしまうことがあります。


胸が高鳴っているとき、そのドキドキが「どこから来たのか」を、私たちがいつも正しく見分けているとは限りません。


心理学では、恋とは関係のない出来事で生まれた体の興奮を、目の前の相手へのときめきと取り違えることがあると考えられてきました。


いわゆる「吊り橋効果」と呼ばれるものです。


では、出会いの相手をスマホの画面で選ぶ今の時代にも、こうした取り違えは起きるのでしょうか。


ロイファナ大学リューネブルクの研究チームは、VR(仮想現実)を使って、この疑問に迫る実験を行いました。


この話題の詳細は2026年10月1日に『PsyPost』にて公開されました。




目次



  • VRの中で「ドキドキ」を作ってから相手を選ぶ実験
  • ゲームのドキドキは「恋の判断」に持ち越されたのか?
  • 男女で差が出たのはなぜ?「体のサイン」をめぐる説と残る課題

VRの中で「ドキドキ」を作ってから相手を選ぶ実験


VRの中で「ドキドキ」を作ってから相手を選ぶ実験 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

研究の土台にあるのは、胸の高鳴りや手のひらの汗といった体の興奮が恋とは関係のない原因で起きたのに、それを誰かへのときめきと誤って受け取ってしまう、という考え方です。


有名な1974年の実験では、怖くてぐらぐら揺れる吊り橋を渡った男性は、しっかりした安全な橋を渡った男性より、あとで女性の研究者に電話をかけやすかったといいます。


一方、今どきのマッチングアプリでは、写真と短い文章から素早く相手を判断するため、見た目の印象がとても大きな力を持つことがこれまでの研究でも示されています。


ただ、興奮の取り違えを調べたこれまでの研究の多くは、対面の場面を使ったものでした。


そこでチームは、画面越しに相手を選ぶ現代でも、同じ心のクセが表れるのかを確かめようとしたのです。


実験に参加したのは、大学のキャンパスで集められた130人で、平均年齢はおよそ23歳でした。


参加者はランダムに2つのグループに分けられ、それぞれ3分間のVR体験をしました。


片方は、静かな森の景色を眺める落ち着いた体験です。


もう片方は、「ビートセイバー(Beat Saber)」というテンポの速いリズムゲームで遊ぶ、興奮しやすい体験です。


その直後、参加者はアプリ風に作られた8人分のニセのプロフィールを見ました。


プロフィールの性別は、参加者それぞれの恋愛の対象に合わせてありました。


以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(恋活・婚活のプロフィールに書くと「恋愛対象外になる内容」とは)


参加者はプロフィールの一人ひとりについて、見た目の魅力や性的な温かみ、相性、自分と似ているか、相手も好意を返してくれそうか、実際にデートに行く見込みはどのくらいかを評価しました。


最後に、スワイプで相手を選ぶアプリの仕組みをまねて、それぞれのプロフィールを「アリ」か「ナシ」の二択で選んでもらいました。


ゲームのドキドキは「恋の判断」に持ち越されたのか?


ゲームのドキドキは「恋の判断」に持ち越されたのか? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

結果を見ると、ゲームで興奮したグループには、相手への関心が高まる傾向が一貫して見られました。


リズムゲームで遊んだ人たちは、森の景色を眺めた人たちに比べて、プロフィールの人物の見た目の魅力や性的な魅力を高く評価したのです。


さらに、相手を自分と似ていると感じ、相性もよいと感じ、相手も自分を好きになってくれるだろうと期待する傾向も強まっていました。


ただし「実際にデートに行く見込み」という項目だけは、プラスの向きではあったものの、統計的に意味のある差(偶然とは言いにくい差)にはなりませんでした。


プロフィールを「アリ」にした割合は、全体で見ると、森の景色のグループの17.4%から、ゲームのグループでは24.9%へと上がっていました。


ところが、あらかじめ予定していた探索的な分析で男女を分けて調べてみると、はっきりとした違いが浮かび上がります。


男性では、森の景色を見たグループが「アリ」にしたのはプロフィールの11.3%だけでしたが、ゲームで興奮したグループでは31.4%にまで増えていました。


つまり、ゲームで興奮した男性は、落ち着いた体験をした男性に比べて、3倍近く「アリ」を選びやすかったのです。


一方、女性ではVR体験の影響はほとんど見られませんでした。


ゲームで興奮した女性が「アリ」にした割合は20.5%で、森の景色を見た女性の23.3%よりわずかに低いくらいでした。


女性の場合は、プロフィールの見た目の魅力や相性の評価にも、体の興奮による変化は見られませんでした。


男女で差が出たのはなぜ?「体のサイン」をめぐる説と残る課題


男女で差が出たのはなぜ?「体のサイン」をめぐる説と残る課題 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

なぜ男女でこれほど差が出たのかについて、研究チームは以前から唱えられている説の一つを挙げています。


それは、男性は自分の気持ちを判断するときに体のサインに頼りやすく、女性はまわりの状況の手がかりにより目を向けやすい、という説です。


この研究に関わっていない、ポルトガル・リスボンのヨーロッパ大学(Universidade Europeia)健康科学部のルイ・ミゲル・コスタ助教は、「スリルのある体験は、多くの人の恋愛生活を盛り上げるかもしれません」と述べています。


コスタ氏はまた、今回の結果はほかの研究とも一致すると指摘しました。興奮する場面を経験したあとに、異性への性的な興奮や魅力の感じ方が高まるという研究です。


もっとも、この論文はまだ査読(ほかの専門家による内容のチェック)を受ける前の段階のものです。


参加者は大学のキャンパスで集めた130人で、男女の違いも探索的な分析で見えてきたものなので、今後さらに確かめていく必要があるでしょう。


それでも今回の実験は、少なくとも男性では、画面の向こうの相手へのときめきに、直前の自分の体験が混ざりこんでいる可能性を示しています。


「この人、いいかも」と感じたその気持ちは、相手の魅力だけでなく、そのときの自分の体の状態も一緒に作り出しているのかもしれません。


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参考文献

Excitement from a virtual reality game spills over into men’s romantic judgments, study finds (PsyPost)
https://www.psypost.org/excitement-from-a-virtual-reality-game-spills-over-into-mens-romantic-judgments-study-finds/

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 男性は「VRゲーム」の興奮が異性のストライクゾーンを広げる 」