左利きの人は競争心が強い――1129人を調べて見えた奇妙な違い
イタリアのキエーティ・ペスカーラ大学(Ud’A)で行われた研究によって、人類に約1割しかいない左利きの人は、右利きの人よりも競争心が強い傾向にあることが示されました。
1000人を超える人々の回答を調べると、左利き寄りの人ほど勝負を自分が伸びるチャンスと捉え、負けるのが怖くて勝負から逃げることが少なかったのです。
しかし勝負で得をするのなら、いったいなぜ左利きは増えて多数派にならないのでしょうか?
研究内容の詳細は『Scientific Reports』にて発表されました。
目次
- 左利きは勝負の世界では警戒される
- 左利きは「勝負から降りにくい」
- 勝負に強い少数派が、それでも増えない理由
左利きは勝負の世界では警戒される
私たちの世界の多くは、右利きの人用につくられています。
ハサミや工具、軍用銃など道具だけでなく、左から右に文字を埋めていく文字文化においても、左利きに不利な仕組みになっています。
特にインクや墨など乾くのに時間を要するもので文字を書いていた時代では、左利きの人は自分が書いた文字の真上に手や腕が来てしまい、その不便は現在よりも遥かに深刻だったでしょう。
一方、野球やボクシングのような勝負の世界では昔から「左利きは要注意」と警戒の対象になってきました。
たとえば、右利きのボクサーの場合、対戦相手の多くも右利きで、左利きの相手との経験は限られています。
ですが左利きのボクサーの場合、自分が左利きのために元からの経験がある上に、向き合ってきた相手も多くが右利です。
結果として「左利きの選手は相手の動きを知り尽くしているのに、右利きの選手は左利きの動きをほとんど知らない」という知識の差が生まれてしまいます。
1対1で向き合った瞬間、この慣れの差が、そのまま実力差のように働きます。
左利きの強みは、左手に特別な力が宿っていることではなく、相手がその動きを見慣れていないことから生まれるのです。
ですがもし「強みを作っているのは、すべて相手の側の不慣れ」という状況が人類史を通じて一貫したものなら、その影響は「試合の成績」を超えて、人間の心や精神にも影響を与えている可能性が出てきます。
勝負で得をしてきた左利きの人は、気持ちのほうまで勝負向きにできているのでしょうか。
左利きは「勝負から降りにくい」
左利きの人は、負けず嫌いなのでしょうか。
答えを得るために研究者たちはまず、1129人分の回答を集めました。
調査では参加者はまず、字を書く、ボールを蹴るといった21の動作で体の左右どちらを使うかを答え、同じ調査の中で、競争への構えと、性格、不安や落ち込みの程度にも答えます。
こうすることで、利き手の偏りと心の傾きの関係を、1000人を超える規模で突き合わせることができます。
また研究では、単に右利きと左利きの2択ではなく、どちらにどれだけ寄っているかも調べられました。
右利きの人でも、何をするにも右を使う「完全な右利き」の人がいる一方で、字は右手で書いても、ほかの動作では左を使うことがある人もいるからです。
競争心のほうも、ひとくくりにはされませんでした。
「競争が好き」と言う場合でも、他人を押しのけてでも勝ちたい人と、競争で自分を伸ばしたい人は同じではありません。
同様に「競争が苦手」と言う場合でも、負けるのが怖い人と、そもそも勝ち負けに関心がない人は同じではありません。
その結果、1129人全体で見ると、利き手が左に寄っている人ほど、競争で自分を伸ばしたい気持ちが強く、負けるのが怖くて勝負を降りることが少ないと分かりました。
研究者たちはさらに、完全な左利きに近い50人と、完全な右利きに近い483人を抜き出して比べました。
すると今度は、「他人を押しのけてでも勝ちたい」という気持ちにまで、はっきりした差が出ました。
左利きのグループのほうが、右利きのグループより高い点数だったのです。
一方で、性格を5つの面から測る標準的なテスト(ビッグファイブ)では、左利きと右利きのあいだに違いは出ませんでした。
ビッグファイブは性格を「好奇心の強さ(開放性)、きちょうめんさ(誠実性)、人づきあいの積極性(外向性)、人当たりのよさ(協調性)、不安の抱えやすさ(神経症傾向)」の5つの面から測る心理学の標準的な性格のテストとして知られています。
競争において重要となる落ち込みやすさや、ふだんの不安の強さも同様でした。
つまり左利き寄りの人は、右利きの人と同様に不安を感じやすいのに、不安を理由に勝負を降りることだけが少なかったのです。
しかし左利きが勝負に強いうえに勝ち気でもあるのならば、とっくに自然淘汰によって多数派になっていてもよいはずです。
それなのになぜ、いまも1割ほどにとどまっているのでしょうか。
勝負に強い少数派が、それでも増えない理由
勝負に強いのに、なぜ増えないのでしょうか。
「サウスポーは手ごわい」の説に立てば、左利きは増えないのではなく、増えられないのです。
強みの正体が、「珍しさ」そのものだからです。
仮に左利きが半分を占めれば、誰にとっても対戦相手の半分は左利きになり、意表を突く効果は残りません。
スーパーで空いている端のレジに回ると、早く会計が済みます。
けれども、それに気づいた人から移っていけば、今度はそちらが長い列になります。
左利きの強みも同じで、同じ側に立つ人が増えるほど目減りしていくのです。
しかも多数派には、多数派ならではの得があります。
同じ側の手を使う者どうしなら、道具をそのまま貸し借りでき、並んで作業しても肘がぶつかりません。
競い合う場面では少数派が得をし、力を合わせる場面では多数派が得をする。
左利きが消えても、右と左が半々になっても、この釣り合いは崩れます。
だから左利きは、一掃されることも、多数派に成り上がることもなく、少ない側で止まったままなのです。
進化の分野では、こうした釣り合いを「進化的に安定な戦略(ESS)」と呼びます。
研究チームは、今回の結果が、少数派が勝負で得をするという考え方に沿うものだと述べています。
この考え方は、これまで主にスポーツや格闘の勝敗記録から語られてきました。
それが予言していた心の傾きが、1000人を超える人々の競争への向き合い方の中から見つかったことになります。
では、左利きの勝ちたい気持ちは、どこから来るのでしょうか。
研究チームは、2つの可能性を挙げています。
1つ目は、体の中の仕組みです。
攻撃的なふるまいと関係があるとされる男性ホルモン(テストステロン)について、過去には男子大学生64人の唾液を調べ、左利きのほうが平均濃度が高かったという報告があります。
今回見つかった競争心の差の裏にも、このホルモンが隠れているのかもしれません。
2つ目は、少数派として暮らす経験そのものです。
ハサミや自動改札のように、身の回りには右利きに合わせて作られたものがあふれています。
研究チームは、少数派であることがもどかしさ(フラストレーション)を生み、それが勝負への意欲を押し上げている可能性も否定できないとしています。
今回の調査では、ホルモンももどかしさも測っていないため、2つの可能性はまだ切り分けられていません。
それでも、利き手と結びついていたのは性格でも気分でもなく、競争への構えだったという切り分けは、はっきりつきました。
研究チームは、今後の研究では少数派として暮らすもどかしさの強さも測り、男女と利き手の人数をそろえて確かめるべきだとしています。
左利きの勝ち気は、生まれついての資質のように聞こえます。
けれども2つ目の可能性が当たっているなら、その気の強さを育てたのは血ばかりではなく、ハサミと改札でもあったことになります。
使いにくさを押しつけてきた道具の向きが、同じ人に、引き下がらない構えを渡していた。
1割の少数派が見せる勝ち気は、手の珍しさだけでなく、その珍しさと毎日つき合ってきた時間のほうにも刻まれているのかもしれません。
元論文
Assessing the link among laterality, sex and competitiveness to verify the evolutionarily stable strategy of handedness
https://doi.org/10.1038/s41598-026-38170-x
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部