中国で「4枚の翼」を持つ羽毛恐竜の化石を発見
公園でハトが一斉に飛び立つのを見て、あの小さな体でよく空へ上がれるものだと感心したことがある人も多いでしょう。
羽毛をもつ恐竜の中に鳥によく似たものがいたことは化石から分かっていますが、「空を飛ぶ力」がどう生まれたのかには大きななぞが残っています。
そんな中、中国北東部の白亜紀前期の地層から、翼が4枚ある小さな肉食恐竜の化石が見つかりました。
この化石を報告したのは、イタリアのOPHIS古生物学博物館・爬虫類学センターのアンドレア・カウ氏らの研究チームです。
では、恐竜が空を飛ぶための体は一度だけ生まれたのでしょうか、それとも別々のグループで何度も生まれたのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年9月29日に『Nature Communications』にて発表されました。
目次
- 翼が4枚ある「鳥のような小さなハンター」
- 「飛ぶための体」は1回だけ生まれたのか?
- 4枚の翼で、どんなふうに空を飛んでいた?
翼が4枚ある「鳥のような小さなハンター」
見つかった恐竜は「ノレルラプトル・バルスボルディ(Norellraptor barsboldi)」と名付けられました。
化石が出たのは中国北東部の九仏堂(ジウフォタン)層という地層で、およそ1億4500万〜1億年前の白亜紀前期にあたります。
羽毛をもつ姿がとてもよく保存されたこの個体は、死んだ時に3歳で、体長はわずか57センチほどでした。
歯とかぎ爪は鋭く曲がっていて、いろいろな獲物をねらう小さな肉食動物らしい形をしています。
研究に参加していないウィスコンシン大学マディソン校のスコット・ハートマン氏は、初期の哺乳類やトカゲ、両生類、恐竜の子どもなどを食べていたのだろうと話しています。
大きな恐竜を襲うことはなかったはずで、ハートマン氏は「それは蚊が戦艦を襲うようなものです」とたとえています。
「飛ぶための体」は1回だけ生まれたのか?
ノレルラプトルは「ミクロラプトル類」と呼ばれるグループの一員です。
ミクロラプトル類は鳥にとても近い親戚ですが、鳥の祖先ではありません。
鳥は、そのとなりにある「アビアラエ(鳥とその初期の仲間が入るグループ)」という別の枝に属しています。
化石から、羽毛はミクロラプトル類にも、アビアラエの初期の動物にもあったことが分かっています。アビアラエの初期の動物とは、約1億5000万年前のジュラ紀後期にいた始祖鳥などです。
そこで長年のなぞになってきたのが、飛ぶ力が両方の共通の祖先で一度だけ生まれたのか、それとも羽毛や飛ぶ力が何度も別々に生まれたのかという点です。
研究チームは、ノレルラプトルを手がかりにミクロラプトル類の体の変化をたどり、鳥の進化とくらべてみました。
研究チームの分析では、ミクロラプトル類の進化の中で194の体のつくりの変化が見つかりました。
そのうち約30%は、鳥の系統でも同じように起きていた変化でした。
羽毛のほかにも、肋骨に骨の突起がくっついて胴体が硬くなるという変化が含まれていました。
また、後ろあしにくらべて前あしの骨ががっしりしていることや、尺骨(翼の重さを支える主な骨)が二の腕の骨(上腕骨)より長いことも共通していました。
ところが、ほかの化石とくらべると、こうした共通の特徴が現れた順番は、ミクロラプトル類と鳥とで違っていたのです。
つまり両者は、似た体にたどり着きながらも、そこまでの道のりは別々だったと考えられます。
研究に参加していない中国科学院古脊椎動物・古人類研究所のペイ・ルイ氏は、ミクロラプトル類は本物の鳥の初期の段階と「収斂(しゅうれん)」した特徴を、別の進化の道筋で手に入れたと述べています。
収斂とは、ちがう生き物がそれぞれ別の道を通って、似た特徴にたどり着くことです。
ペイ氏は、この結果が、羽ばたいて飛ぶ力は鳥以外の恐竜と鳥とで独立して生まれたという考えを後押しするとしています。
ハートマン氏も「さまざまなグループで、おそらく飛ぶ力が別々に生まれたという結論に至ったことをとてもうれしく思います」と話し、強く賛成しています。
4枚の翼で、どんなふうに空を飛んでいた?
では、ノレルラプトルたちは実際にどのように空を使っていたのでしょうか。
ペイ氏は、翼が4枚あっても多くの特徴が今の飛ぶ鳥に似ているため、今の鳥に近い行動ができたと考えるのは自然だと述べています。
ハートマン氏は、滑空と羽ばたきを組み合わせていたのかもしれないと考えています。
前あしの動く範囲がせまいので、リスのように木に登って高さをかせぐことはできなかっただろうと言います。
そのかわり、坂をかけ下りて飛び立ったり、木ではなく丘や崖から跳び出したりしていた可能性があるそうです。
さらにハートマン氏は、大きくしっかり骨化した胸骨など、より大きな胸の筋肉を可能にしたかもしれない特徴がいくつもあると指摘しています。そのため、前へ進む力を生む「打ち下ろし」(翼を振り下ろす動き)は、おそらくかなり力強かったとみられます。
ハートマン氏によると、後ろの翼は体のすぐ下で構える形になっていて、姿勢を安定させたり、ブレーキをかけたり、急な方向転換をすばやく調整したりするのに役立ったと考えられます。
同氏は、これらは明らかに小さな捕食者だとしたうえで、もし何かに跳びかかったり上から降りたりするのであれば、狙った場所にきちんと着地できる操縦性はかなり大切になるだろうと話しています。
また翼は飛ぶためだけでなく、相手に自分の元気さを見せたり、巣の卵を温めたりするのに使われた可能性もあるそうです。
今回の結果は、飛ぶ力が恐竜の中で何度も生まれたという考えに、新たな証拠を加えるものです。
空を飛ぶという能力は、一本道の先にだけあったのではなく、恐竜たちがそれぞれ別の道を通ってたどり着いた場所だったのかもしれません。
次に空を横切る鳥を見かけたら、その翼の向こうに、別のルートで空をめざした仲間たちがいたことを思い出してみてください。
明日こそ坂道をかけ下りて空へ、と意気込んでみましたが、筆者の場合はただ息が切れて終わりそうです。
参考文献
Remarkably preserved feathered dinosaur discovered in China reveals new secrets of flying predator evolution (Live Science)
https://www.livescience.com/animals/dinosaurs/remarkably-preserved-feathered-dinosaur-discovered-in-china-reveals-new-secrets-of-flying-predator-evolution
元論文
Independent assembly of the flight apparatus in a non-avian dinosaur clade
https://doi.org/10.1038/s41467-026-77804-6
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部