体外離脱の実験で2人が口にした「予想外の話」とは
自分の体から抜け出して、外から自分の姿を見下ろす――そんな「体外離脱(自分の体から抜け出したように感じる体験)」を語る人は、意外と少なくありません。
体外離脱の感覚を味わったことがある人は、全体の10〜20%ほどいると考えられています。
さらにまれに、この体験を自分の意思で起こせる人もいるとされます。
もし本当に体から抜け出せるのなら、壁の向こうにある別の部屋の様子ものぞけるはずです。
バージニア大学医学部のマリナ・ワイラー氏らの研究チームは、この大胆な主張を実験で確かめることにしました。
そして実験のあとには、研究者たちも予想していなかった出来事が待っていました。
はたして体外離脱で、「別の部屋」は本当に見えたのでしょうか。
この話題の詳細は2026年9月29日に『IFLScience』にて公開されました。
目次
- 見えないはずの「隣の部屋の画像」を当てる実験
- 別の部屋の画像は見えたのか?
見えないはずの「隣の部屋の画像」を当てる実験
体外離脱が起こるきっかけは、人によってさまざまです。
今回の実験で参加者に出されたのは、別の部屋に映し出されている画像が何かを答えるという課題でした。
自分のいる部屋からは見えない画像なので、ふつうに考えれば当てようがありません。
ただし、体から抜け出して別の部屋まで移動できるのなら、話は別です。
実験に参加したのは21人でした。
そのうち10人が、実験中に体外離脱を体験したと報告しました。
また、13人が画像の中身を言い当てることに挑みました。
体外離脱を体験しなかった人たちは、画像が自分の内側に浮かんできたと話していました。
もし答えが当てずっぽうより当たっていれば、体の外から何かを見ていたのではないかと考える手がかりになります。
では、参加者たちは見えないはずの画像を言い当てられたのでしょうか。
別の部屋の画像は見えたのか?
結論から言うと、参加者の答えは、当てずっぽうに答えた場合より正確だとは言えませんでした。
つまり今回の実験では、体外離脱で別の部屋の画像が見えていたことは示されなかったのです。
ところが、話はここで終わりませんでした。
実験のあとに行われた聞き取りで、2人の参加者が、実験中に研究者たちがどこにいて何をしていたかを語り出したのです。
7番目の参加者の女性は、体外離脱をしているあいだに、隣の部屋にいる研究者たちが見えたと話しました。
彼女は、1人がパソコンの画面に集中し、もう1人が本を読んでいたと、2人の座り方を説明しました。これは実際の様子と合っていました。
13番目の参加者も、研究者の1人がメモを取り、もう1人がパソコン画面の左側に座っていたと語り、こちらも実際の様子どおりでした。
なんとも背筋がぞわっとする一致です。
とはいえ、2人の話は、もともとの実験で確かめる予定だった内容ではありませんでした。
そのため、この話を「体外離脱で人が超自然的な力を得られる証拠」とみなすことはできません。
それでも研究者たちは、この出来事が意識の研究のこれからに興味深い問いを投げかけていると述べています。
ワイラー氏は「予想外の結果は役に立つかもしれない新しい方向を示してくれますが、それが何を意味するかを知るには、前もって計画し、厳しい条件のもとで確かめる必要があります」と話しています。
研究チームは次の実験として、もっと記憶に残りやすく、目立ち、感情を動かすような目印を使うことを提案しています。
たとえば、見えない場所にいる研究者が特定の服や色を身につけておき、参加者が聞かれてもいないのにそれを口にすれば、注目すべき手がかりになりそうです。
ワイラー氏は「この研究は、体外離脱が本物かどうかだけを問うているのではなく、そもそも『本物』とは何を意味するのかを問うているのです」とも語っています。
そして、自分にとって最も大切な教訓は、予想外の結果が時により良い問いを立てる助けになることがある点だと述べ、次の実験で確かめられる具体的なアイデアを得たことこそ科学のあるべき姿だ、とも話しています。
今回の実験は、体外離脱で壁の向こうが見えることを示せませんでしたが、「次に何をどう確かめればいいか」をはっきりさせました。
不思議な体験をすぐに信じるのでも笑い飛ばすのでもなく、確かめ方を工夫し続けることこそ、科学のいちばん面白いところなのかもしれません。
参考文献
Creepy Study Challenged People To See Into Another Room Through An Out-Of-Body Experience. They Failed, But Then Something Really Weird Happened (IFLScience)
https://www.iflscience.com/creepy-study-challenged-people-to-see-into-another-room-through-an-out-of-body-experience-they-failed-but-then-something-really-weird-happened-84775
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部