イチゴに「服」を着せたら収穫が3倍以上に
寒い朝、布団から出る前に、もう一枚だけ毛布をかぶり直してしまうことがあります。
作物に布などのカバーをかける方法は、農薬に頼らずに虫の食害を減らし、厳しい天候から植物を守れる可能性がある手段として期待されています。
とはいえ、布ですっぽり覆ってしまえば、実りに欠かせない日光まで届きにくくなりそうです。
そこでノースカロライナ州立大学(NCSU)の研究チームは、立体的に編まれた新しい布でイチゴを覆い、実のなり方がどう変わるのかを調べました。
布をかけられたイチゴは実を増やしたのか、それとも葉ばかり茂らせてしまったのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年9月25日に『Agriculture』にて発表されました。
目次
- 兵士の服から生まれた「イチゴの服」
- 布をかけたイチゴは葉ばかり茂ったのか?
- アブラムシは通さず、風と水は通す布
兵士の服から生まれた「イチゴの服」
今回使われたのは、「プラント・アーマー(Plant Armor)」と名付けられた布です。
イチゴの株の上にかぶせて使う、いわば植物用の「よろい」です。
布は立体的な構造をしていて、虫が下の植物までたどり着けないようになっています。
その一方で、何層にも重なった作りによって、日光や雨、風は植物まで届くよう工夫されています。
実はこの布、もともとは畑のために生まれたものではありません。
出発点は、蚊に刺されにくく、ボディアーマーと一緒に着ても快適な軍服を作ろうとする取り組みでした。
同じ研究室の以前の研究では、作物カバーとして作った立体的な布(3Dスペーサー生地)を、トンネル圃場(トンネル状の覆いの中で作物を育てる畑)でキャベツにかけています。
そのときはキャベツの葉や茎の成長が2.93倍になり、布は虫の侵入に対する抵抗性も示していました。
ただ、葉や茎がよく育つことと、実がたくさんとれることは別の話です。
布をかけると実の収穫まで増えるのかどうかは、まだ調べられていませんでした。
そこで選ばれたのが、秋から春まで3つの季節にまたがって育つイチゴです。
イチゴの栽培では、花や実を凍えから守るために一重の布をかける方法がすでに使われています。
筆頭著者で同大学の大学院生研究助手のガブリエル・オラウイ氏は、「実をつけるには、植物には日光が必要です」と話します。
研究チームは、一見すると光を通しにくそうなこの布で日光が減ると、「避陰反応(日陰から抜け出そうとする植物の反応)」が起き、株は実より茎や葉を伸ばすほうに力を回してしまうと予想していたのです。
「よろい」を着たイチゴは、はたして実をつけてくれるのでしょうか。
布をかけたイチゴは葉ばかり茂ったのか?
研究チームはトンネル圃場でイチゴを育て、布をかけた区画とかけない区画を比べました。
イチゴは秋から春までの3つの季節をかけて育ち、そのあいだの実のなり方や株の育ち方が調べられました。
その結果、布をかけたイチゴでは、収穫できる実が布なしの3.56倍に増えていました。
実の数も実の重さも、布をかけていない株より有意に多かったのです。
一方で、葉や茎といった実以外の部分の量(栄養体のバイオマス)には差が見られませんでした。
つまりイチゴは、葉ばかり茂らせたのではなく、実をたくさんつけていたことになります。
心配されていた避陰反応も、この立体の布の下では起きていませんでした。
オラウイ氏は「布は光が届くのをまったく妨げておらず、実の生産は大きく増えました」と振り返っています。
では、なぜここまで実が増えたのでしょうか。
手がかりのひとつが、布の下の温度です。
布をかけた区画は、かけていない区画より一貫して温度が高くなっていました。
それでいて、相対湿度には布の有無による違いが見られませんでした。
オラウイ氏によると、3つの栽培シーズンを通じてこうして温められたことで、布をかけた株は布なしの株より早く、実をつける段階へ進んだといいます。
植物が実をつける段階まで育つには、一定量の暖かさの積み重ねが必要です。この量は「生育度日(growing degree-days)」として計算されます。
オラウイ氏は、布をかけた株には各段階を進むのに必要な暖かさが最適な形で与えられ、布なしの株よりはるかに多くの実をつけたと説明しています。
布は一見イチゴを覆い隠すものに見えますが、実際には光を通しながら暖かさを届ける、ちょうどよい上着のような役割を果たしていたようです。
アブラムシは通さず、風と水は通す布
この布のもう一つの役目が、虫よけです。
布は空気や水を通すすき間を持ちながら、実験室での試験ではアブラムシを完全に締め出しました。
また予備的な調べでは、根のまわり(根圏)の細菌の量に、布の有無による有意な差は見られませんでした。
オラウイ氏は、虫を寄せつけないことで、この布が農業で使われる従来の農薬の必要を減らせる可能性があると述べています。
大学の発表でも、イチゴ畑での水や農薬の使用を大きく減らせる可能性があるとしています。
もっとも、今回の結果はトンネル圃場での試験によるものです。
研究チームは、この布がさまざまな作物で、また地域の異なる場所でも役立つかを確かめるには、これから実際の農場での試験が必要だとしています。
共著者のR・マイケル・ロー教授は、ボディアーマーを快適にするための胸当ての布づくりから始まり、試行錯誤を重ねてこの製品にたどり着いたと振り返っています。
ロー教授は「始めたときには、こうなるとは予想できませんでした」とも語っています。
兵士のボディアーマーを快適にするための布づくりから始まった研究が、いまはイチゴの株を守り、実りを後押ししているのです。
作物を守る工夫は、農薬や水やりだけでなく、「何を着せるか」という身近な発想からも生まれるのかもしれません。
冬の朝に毛布から出られない私たちの気持ちも、イチゴならきっと分かってくれそうです。
参考文献
How a new textile fabric could triple production in strawberry plants (Phys.org)
https://phys.org/news/2026-09-textile-fabric-triple-production-strawberry.html
元論文
Knitted 3-D, Porous Textile Cover to Enhance Strawberry Fruit Production and Prevent Insect Feeding
https://doi.org/10.3390/agriculture16192084
ライター
天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。
編集者
ナゾロジー 編集部