星形の指先で獲物を「見る」カエルがいると判明
一生を水の中で過ごすカエル「コモリガエル(学名:Pipa pipa)」は、前足の指先に星のような形をした不思議な房を持っています。
ところが、この房が何のためにあるのかは、これまで分かっていませんでした。
そこで今回、研究チームは顕微鏡から神経の記録、高速カメラまでを使って、この指先の「星」の正体に迫りました。
カエルはこの星で、いったい何をしているのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年8月10日に『Journal of Comparative Physiology A』にて発表されました。
目次
- 舌を持たないカエルと、指先の謎の房
- 指先の「星」はどれほど敏感だったのか?
- カエルは獲物に触れる前に気づいていた
舌を持たないカエルと、指先の謎の房
コモリガエルはピパ科と呼ばれるグループのカエルで、なんと舌を持っていません。
カエルといえば長い舌を伸ばして獲物をパクリ、という姿を思い浮かべますが、このカエルにはその舌がないのです。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(獲物を捕らえた後のカエルの舌は”心臓近く”まで引っ込んでいた!)
代わりに、前足の動きと連携させながら、獲物を一瞬で吸い込むようにして捕らえます。
そして、その前足の指先には、先端がいくつにも分かれた独特な房がついています。
この房はひときわ目を引く形をしているのに、どんな働きをしているのかはずっと謎のままでした。
ただの飾りなのか、それとも狩りに欠かせない道具なのか。
この疑問を解くため、研究チームは成体8匹と幼体11匹、合わせて19匹のコモリガエルを調べました。
まず、走査型電子顕微鏡(電子線を当てて物の表面を細かく写し出す顕微鏡)を使って、指先の形を細かく観察しました。
次に、決まった力で押せる細い糸のような器具「フォンフライ・フィラメント」で指のあちこちを押し、どのくらいの力で反応するかを測りました。
さらに、前足の神経(上腕神経)と、脳の中で感覚の情報をまとめる「視蓋(しがい)」という領域で、電気信号を記録しました。
最後に、1秒間に1000コマを撮る高速カメラで、カエルが魚を捕らえる瞬間をとらえました。
形、感度、神経、脳、そして行動と、指先の房を丸ごと調べ上げようというわけです。
指先の「星」はどれほど敏感だったのか?
指先を顕微鏡でのぞくと、まず驚くほど細かな作りが見えてきました。
指先の房は、1本が4つに分かれる枝分かれを段階的に繰り返した形をしていたのです。
その結果、枝先の小さな房はカエル1匹あたり128個にもなっていました。
さらに房の表面には、ドーム状の小さな突起がびっしりと並んでいました。
その密度は1平方ミリメートルあたり約142個で、すぐ隣の指の皮膚の4倍近くにのぼりました。
では、この指先はどれほど敏感なのでしょうか。
フィラメントで前足のあちこちを押して調べたところ、最も小さな力で反応したのは房の先端でした。
房の先端が反応する力の中央値は0.07ミリニュートンで、前足の中で最も低い値だったのです。
つまり、前足の中で一番わずかな触れ方に気づけるのが、この指先の房だったというわけです。
神経の記録からも、同じ姿が浮かび上がりました。
前足の神経には、指先の房を担当する感度の高い神経が、不釣り合いなほど多く含まれていました。
これらの神経の多くは、押された瞬間と離された瞬間にだけ反応する「速く順応するタイプ」でした。
押され続けている状態よりも、「何かが動いた」という変化をとらえることに向いた神経だと言えます。
しかも、1本1本の神経が担当する範囲は狭く、房の中だけに収まっていました。
中には、指先に水の流れを当てたときにも反応する神経がありました。
一方で、指先以外の場所を担当する12の神経では、その場所に向きを変えながら水流を当てても、反応は見られませんでした。
脳でも、指先は特別扱いされていました。
視蓋では、指先からの情報が、体の並びに対応した地図のように配置されていました。
その地図の中で、指先は前足の表面積のわずか8%にすぎないのに、前足全体の担当領域の34%を占めていたのです。
面積の割に、4.3倍も大きく拡大されて描かれていた計算になります。
脳は、この小さな指先からの情報を特に手厚く扱っていたのです。
カエルは獲物に触れる前に気づいていた
では、この指先は実際の狩りでどう使われているのでしょうか。
研究チームは、1秒間に1000コマの高速カメラで、カエルが魚を捕らえる様子を記録しました。
撮影は、ふつうの明かりの下だけでなく、赤外線の照明の下でも行いました。さらに、水の動きを感じる感覚器「側線」をコバルトで働かないようにした条件でも撮影しました。
すると、カエルは獲物の魚が指に触れる前に、吸い込みの動作を始めていました。
これは、魚が起こす水の乱れを、約5mmという近い距離で感じ取っていることを示しています。
指先の神経の一部が水流にも反応したことと合わせると、指先の房は触れたものだけでなく、すぐそばの水の揺れまで拾っていると考えられます。
こうした結果から、研究チームは指先の房を「体性感覚(皮膚や筋肉などで感じる感覚)の中心窩(ちゅうしんか)」だと結論づけました。
中心窩とは、もともと目の網膜の中で、特に細かく物を見分けられる部分を指す言葉です。
指先の房は、いわば触覚にとっての中心窩にあたる、特別に作り込まれた感覚器というわけです。
研究チームは、モグラの一種であるホシバナモグラの「触覚の中心窩」によく似た器官だとしています。
コモリガエルは、目だけでなく指先でも獲物を「見て」いたのです。
「見る」と聞くと私たちはつい目のことだけを思い浮かべますが、生き物の中には、世界を指先でのぞき込んでいる者もいるのです。
もっとも人間の指先が暗闇で探し当てられるのは、せいぜいソファの隙間に落ちた小銭くらいのものですが。
参考文献
A somatosensory fovea in the fingertips of the Surinam toad (Journal of Comparative Physiology A)
https://doi.org/10.1007/s00359-026-01838-w
元論文
A somatosensory fovea in the fingertips of the Surinam toad
https://doi.org/10.1007/s00359-026-01838-w
ライター
天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。
編集者
ナゾロジー 編集部