子どもの算数の宿題を横で見ていると、簡単そうな足し算で鉛筆がぴたりと止まり、思わず「もっと集中して」と言いたくなることがあります。


世の中には、算数の問題を解くことにずっと強い困難を抱える「発達性ディスカリキュリア」という状態があり、子どもの7〜10%に見られるといいます。


こうした子に対しては、つい「練習が足りないのでは」と考えてしまいがちです。


スタンフォード大学(Stanford University)の研究チームは、算数が極端に苦手な子どもの問題の解き方と脳の活動を詳しく調べました。


算数が極端に苦手な子は、いったいどこでつまずいているのでしょうか。


研究内容の詳細は2026年9月21日に『Journal of Neuroscience』にて発表されました。




目次



  • 算数の力を支える「解き方」と「選び方」
  • 算数が苦手な子の頭と脳では何が違っていたのか?

算数の力を支える「解き方」と「選び方」


算数の力を支える「解き方」と「選び方」 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

足し算や引き算を解くとき、子どもはいくつかの「解き方」を使い分けています。


今回の研究で調べたのは、1つずつ数え上げる「数える」、覚えている答えを記憶から取り出す「思い出す」、数を分けて計算しやすくする「分解する」の3つです。


算数の問題を解く力は、こうした解き方をうまくこなす力と、どの解き方を使うかを選んだり切り替えたりする力の組み合わせで成り立っています。


後者のように、自分の頭の使い方を一段上から管理する働きは「メタ認知」と呼ばれます。


ところがこれまでの調べ方では、こうした外から見えない働きを同時に数字で表し、脳の広い範囲の仕組みと結びつけられていませんでした。


そこで研究チームは、8〜10歳の子ども68人(うち女の子38人)を対象に、発達性ディスカリキュリアの子と、算数を年齢相応にこなせる子を比べました。


使ったのは、問題を解く様子から見えない頭の働きを推し量る「計算モデル」と、脳全体に散らばった活動の模様からグループを見分ける方法の2つです。


この2つを組み合わせて、解き方の「こなし方」と「選び方」、そして脳の働きを、一度にとらえようとしたのです。


算数が苦手な子の頭と脳では何が違っていたのか?


算数が苦手な子の頭と脳では何が違っていたのか? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

分析の結果、発達性ディスカリキュリアの子は、「数える」「思い出す」「分解する」のどの解き方でも、効率よく答えを出すことが苦手でした。


特定のやり方だけが弱いのではなく、解き方をこなす力そのものが全体的に下がっていたのです。


しかし、違いはそれだけではありませんでした。


苦手な子は、ある解き方から別の解き方へ切り替えるのに、もともと長い時間がかかっていました。


また、問題の難しさが変わっても、その変化に対する反応が鈍いことも分かりました。


さらに、その問題にいちばん合った解き方を選ぶことが苦手で、時間がたっても選び方が上達していかなかったのです。


研究チームは、算数のつまずきが、解き方をこなす力と、解き方を選んで切り替えるメタ認知の両方の弱さから生じていると結論づけています。


では、脳の活動にはどんな違いがあったのでしょうか。


脳の場所を1か所ずつ比べる従来のやり方では、苦手な子とそうでない子をはっきり見分けることはできませんでした。


ところが脳全体の活動の模様をまとめて調べると、2つのグループを正確に見分けられたのです。手がかりになったのは、脳の前側から頭頂部にまたがる領域、海馬(記憶に関わる部分)、ものを見ることに関わる領域などに広がるパターンでした。


しかもこのパターンから、数え上げる効率や、解き方の切り替えの敏感さまで予測できました。


特に目を引くのは、脳の活動と解き方の力の結びつき方が、2つのグループで逆向きになっていた点です。


算数を年齢相応にこなせる子ではプラスの関係だったのに対し、苦手な子ではマイナスの関係になっており、この逆転は海馬で最もはっきり表れていました。


研究チームは、脳のあちこちの活動と頭の働きとの対応関係が、苦手な子では変わっていると考えています。


また、解き方をうまく使えず、注意や思考、記憶をうまく制御できない状態が続くことが、発達性ディスカリキュリアの始まりに関わっているかもしれないとも述べています。


さらに、変化した脳の活動が、こうしたつまずきを生む要因の1つである可能性も挙げています。


研究チームのオリバー・ラスニック氏は「この研究は、ディスカリキュリアに見られる一人ひとりの違いも浮き彫りにしており、この障害が複数の働きにまたがる認知と神経の不調であることを示しています」と話しています。


算数が極端に苦手な子のつまずきは、計算の手順だけでなく、どの解き方を選び、いつ切り替えるかという「作戦を立てる」段階にも広がっていたのです。


以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(一生懸命なのに算数が苦手な子供がいるのはなぜか? スタンフォード大が見つけた「脳のクセ」)


宿題の前で鉛筆が止まっている子の頭の中では、答えを出すより前の「どうやって解こうか」という場面で、すでに見えない苦労が始まっているのかもしれません。


今夜の宿題タイムは「集中して」の代わりに「今日はどの作戦でいく?」と声をかけてみると、答えに詰まるのはむしろ親のほうかもしれません。


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参考文献

Brain Differences May Explain Why Some Children Struggle at Math (SciTechDaily)
https://scitechdaily.com/brain-differences-may-explain-why-some-children-struggle-at-math/

元論文

Uncovering latent cognitive, metacognitive, and neural bases of problem-solving deficits in children with developmental dyscalculia
https://doi.org/10.1523/jneurosci.2200-25.2026

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 算数が極端に苦手な子の脳に見られた「ある違い」 」